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魔導旅記〜魔法を極めるために旅をする〜  作者: 哉瀬
エールヘッジ王国
10/30

暴風、いや台風

 レンジス一行が旅立ってから十日。

 リーズ、アルバン子爵家邸にてーー


「ふんふん...『いずれ帰る。また会おう』ですって...」

「えーっと...ルナ?ここは大人しく...」

「そう、ね。大人しく追いかけるわ!」

「ちょぉ?!話聞いてた?!」

「私早速行ってくる!あ、ご主人様によろしく言ってね!」

「ルナ?!荷物はーー」

「もう造ってあるから大丈夫!行ってきまーす!」

「ルナ!待ってよ!レンジス様の部屋の管理は誰がーー」

「サリア、よろしくね!」

「うっそぉ?!」

「じゃ、またいつの日かねー!」

「あーもう!あとのことは任せて行ってきなさい!」

「ありがとー!それじゃ行ってくるね!」

「はいはい!レンジス様御一行と一緒に早く帰ってくるんだよ!」

「わかってるってーー!」

 そしてルナの後ろ姿が見えなくなった...

「はぁ...あの子は相変わらずレンジス様一筋なんだから...」

 そう言葉を溢すアルバン家メイド長サリアであった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「よし、今日はここで野宿だな」

「わかりました。それでは料理の方は任せてください」

「ああ、頼むよ。リーフェ、フェリス」

「まっかせなさい!お...じゃなくて!あんたらの胃袋を満足させてやるんだから!」

 リーズを発ってから今日で三日。リーズからフレオまでは馬車で十日ほどかかる。つまり単純計算で一ヶ月ほどかけてフレオまで行くことになる。料理番は僕とオルンからローテで回す予定だったのだが...

「さあ!召し上がれ♡」

「...」

 二日目の夕飯。あれは地獄だった。まさかサクラが戦力外とは思いもしなかった。やはり美人に全てを求めるのは間違っていると改めて実感させられる夕飯だったよ。しかも生きていたし...もう食いたくないと言う思いはみんな一致していたらしい。サクラは今後台所に立つことを禁じられ、破ると厳しい罰が用意された。レイアよ、このことは先に言っておくれ...お陰で今日は二日目の半分くらいしか進めなかった。しかし...

「おお...うまそう」

「えへへ...ありがとうございます」

「どーよ!」

 二日目とは打って変わって。見るからにお受け御用達のレスト練でしかお目にかかれないようなご飯が並ぶ。

「こ...これは...」

「レンジス、すごいよリーフェちゃん。下準備やら味付けやら全部やってくれて、私ただ眺めることしかできなかったもん」

 リーフェ、そんな美しい美貌しておいてフィジカルもあり、家事もいけるって...完璧美人じゃん!昨日の夕飯で実感した思いが崩れてしまったよ。

「すごいよリーフェ!こりゃすごい!一生食べたいよ!」

「ふぇ...?!あ、ありがとうございます...」

 リーフェの顔が赤くなる。周囲はニヤニヤしている....はっ!

「ご、ごめんリーフェ!でも一生食べたいのは事実だし...」

「ああぅ...」

 リーフェ、戦闘不能。勝者:レンジス!

 じゃねぇ。リーフェ倒れちゃったよ。仕方ないな...

「おーいフェリス、オルンとイチャイチャしてないでさっさと食ってから寝ろよ?」

「わ、わかってるわよ馬鹿!あとお前が言うな!」

 ふふふ、返す言葉もございません。

 因みに夜番だが、なんとアリスが独自に魔物よけを作ったそう。さらに試用で効果は期待以上ということが判明したので、仲間内だけの秘密ということで、この七人しかいない場合にのみ使うということにしている。こんなのが世に出たら、アリスは絶対に引っ張りだこにされるからな。そんなのアリスは望んでいないだろう。

 それにしても、これが一ヶ月続くって思うと...改めて思う。

「何事もなければいいんだけどなぁ...」

 リーフェを僕のテントに運びながら、レンジスはそう漏らした。



 そこから一ヶ月。道中何事もなく、あとあの峠さえ越えればフレオは目と鼻の先というところまできた。

「あー、やっとだ...」

「ええ、そうね。もうほんっとに死にかけた...」

 そう。何事もないとは言ったが、サクラがこっそり夕飯を作っていたのだ。それを二日間食べる羽目に。じゃないとサクラが拗れてチーム戦が成り立たなくなる恐れが。この七人でパーティーを組む以上、それは避けなければならない。だから仕方なく食べたのだが...ほんっとうに死ぬかと思った。ジャリジャリの砂を食べているようでも、本人はグラタンを作っただけだという。いやどう見たらグラタンに見えるんだよ、とその場の全員がそう思った。そしてリーフェが痺れを切らしたらしく、

「これからは私が食事係を担当します!」

 と、大声で宣言した。

 流石に一人だけは負担が大きいのでもう少し人手を、と言ったら僕を指名してきた。

 もしかして、リーフェと付き合うことになるんじゃ...

 仮にそうなるとしたら、僕からしたら嬉しいことこの上ない。あの幸せが凝縮されたご飯を毎日たべれるのなら、なんでもできる気がする。

 リーフェも好意を隠そうとして顔を赤らめることが最近多いし...決めた!

 僕はフレオを出るまでに、リーフェと付き合う!

 その目標に向けて僕は進む。しかし、皇女の件はどうしよう...

 しかしあの件は本当に何から何まで違和感しか覚えなかった。

 

 軽度のストレス負担で現れる影。


 それを軽々と了承したユウ。


 そのユウに遠慮なく力を貸した影。


 そして何よりも不思議だったのは、理性が残っていたということだ。


 普通、陰に憑かれたら最後、理性なき化け物になる。これが御伽噺で伝わり続けてきた影である。

 しかしどうして...うん。これしかありえないな。

 しかし、今周りに話すには危険すぎる内容だ。来るべき時に話すべきか...

 そう考えながら、僕は歩みを進めていく。



 そして、レンジス一行の後方では...

「ううう...レンジス様、私を置いていくなんて...待っていてくださいよ、レンジス様...すぐに追いつきますから!」

 お転婆破天候メイド、接近中。


***


「「「「「「「着いたぁぁ!」」」」」」」

 やっとだ。やっとふかふかのベッドで寝れる...

 そう、僕らはフレオに着いた。一ヶ月の旅路を経て、最初の滞留地である。

 エールヘッジ王国、フレオ。

 ラーシア侯爵が治める、冒険都市である。フレオは冒険者業が盛んであり、ラーシア侯爵原投手も冒険者ということで、都市内の住民の約半数が冒険者となっている。因みにリーズが約一割、王都が約二割と、数だけを見ると桁違いである。さらには...

「はい。次の方。何か身分を提示できるものを...」

 そう。この都市では犯罪を厳しく取り締まっている。都市に入るには身分証を提示、なければ水晶にて犯罪歴の精査をされる。これにひっかかると都市には入れない仕組みだ。

「全員、身分証は持ってるよな?」

「もっちろんよ!」

「あ、あの、私、持ってないです...」

「あ、私たちもです」

 あ、そっか。リーフェはともかく、レイアたちはそもそも身元不詳だからどうしよう...うーむ。悩ましいことだ。

そしてあれこれ考えて、気づけば夕方...

「うーん、いいアイデアが何一つ思い浮かばない...」

「ど、どうするのよ!私さっさとふかふかの布団の上で寝たいんだけど!」

「こうなれば、最終手段を取るしか...」

「最終手段とは、なんですか?」

 オルンが問う。

「...あまり気が進まないけど。まあ、全員気配削除の魔法をかけて通るんだけど...」

「どうしたんですか?レンジスさん....」

「アリス、魔法はどこで情報を処理してると思う?」

「の、脳で...あっ」

「アリスは気づいたみたいだね。そう、僕の負担が大きいことが大きな欠点なんだ。人数分負担が増大するから、僕の脳内魔力回路が焼き切れるかもしれない...」

「じゃ、じゃあ、どうすれば...」

 途方に暮れる僕達。するとーー

「レンジス様ぁぁぁぁぁ!!」

 後ろから聞こえる大きい声。振り向いた瞬間、メイド服を着た女性が僕の胸元にジャンピングスライディングをかましてきた!

「うぉ、ルナ?!どうしてここに?!」

「なぜって、そりゃ追いかけてきたからに決まってるじゃないですか、レンジス様♪」

 おいおい、なんでこんなところまで来たんだ...どうやって帰したらいいんだ?

「?リーフェ様、それにみなさま、何を悩んでいらっしゃいますか?」

「は、はい。それがーー」



「ふむふむなるほど。ここはお姉さまに任せなさい!」

「な、何かいい案があるんですか?ルナ姉様...」

 リーフェはルナを姉のように慕っている。なんとも美しい姉妹愛だろうか。

「ふふふ、レンジス様、私が以前どんな職に就いていたかもう忘れられたのですか?」

「...あ!そうか!」

 そう。ルナはアルバン家のメイドになる前は、冒険者として生きていた。その実力もA級。S級までは行かなかったものの、相当な腕だったらしい。

 そして僕が見落としていた抜け穴があった。それは、B級以上なら身元不詳の者を三名まで連れ歩けるということ。それが人であってもあらなくても変わらない。そういう抜け道があったのだ。そして目の前には元はといえどA級冒険者が...

「ルナ!こっちの二人なんだが...」

「ふむふむ。なるほどなるほどー」

「な、何をわかった気になってるんだ?」

「いんや、二人とも顔立ちがとても綺麗だなぁって。どっちもいけちゃいそ☆」

「いややめてくれ。そもそも、ここに来た理由を聞いてなかったな。どうしてここに来たんだ?ルナ」

「そりゃぁ、レンジス様に着いていくためですよ!」

「まあそれはそうとして...いいのか?メイドの方が収入安定するだろ?」

「レンジス様こそ、家で悠々自適に過ごしていた方が将来は安泰でしたよね?」

 核心をつかれてしまっては何も言い返せないではないか!なかなかに策士だな...

「まあ、僕にも色々知りたいものがあるからね。それで世界中を回ってみようかなと」

「そうでしたか。でしたら是非とも...」

「わかってるって。パーティーに入れるから過度にくっつくのは勘弁してくれ...」

「レンジス様ー!ありがとうございます!!」

「おゎ、だからそれをやめろと言っているんだよ!」

「えへへー」

「はあ、今後こんなふうに過度に接触するなら、どこかで捨て置くぞ!」

「それだけは勘弁してください!!」

「わかったから。とりあえず過度な接触は今後控えてくれ」

「わかりましたご主人様!!」

「はあ...相変わらず調子狂わされる...」

 だがまあこれで都市に入る手段ができた。突然やってきたルナが今日一番の功労者だな。


***


「よし。入っていいぞ」

 フレオの検問所を潜り抜け、やっとこさ入れた冒険都市フレオ。

「やったーーもごもご?!」

「おいフェリス!あんまり大声を出すな!迷惑だろ!」

 ナイスオルン。

「さて、これから宿探しだ。冒険者ギルドは明日行く。宿は僕とルナで探すから、後のみんなは自由行動で」

「「「「「わかった」」」」」

「それと、女子は必ず男子と一緒にいること。あと無駄遣いはするな!以上!」

 その言葉を最後に解散した。さて、宿探しと行きますか。




「ふかふかのベッドー!!」

「さいっこう...」

「もう一生ここから出たくないわー...」

「これは...病みつきになる柔らかさですね...」

 それぞれの反応が素晴らしい。本当にいい宿が取れてよかった。

「ふう、とりあえず今日はもう休もう。それでいいな?」

「おっけー」

「わかりました」

「わかった。それじゃ、ぼくはこれで」

「明日起こすからね!レンジス様!」

「...過度な接触はするなよ」

「もちろんでございますとも!!」

 そうしてルナという台風が来たフレオ滞在一日目が終わった。

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