夏休みの密室
ボーイズラブです。
苦手な方はご注意ください。
「もうかよー。夏休みってみじけぇーな」
幼馴染の家で勉強をやってる最中。
宿題を前に和正は愚痴る。
シャーペンを持ち、宿題に立ち向かうが全然分からず、ついつい宿題に向かって奴当たってしまうのだ。
まぁっ、なんと言おうと宿題が無くなるはずもなく……。
手をとめて1分が立ったころ、目の前にいる幼馴染の弘樹がバシバシっと鉛筆で宿題を叩く。
「そんなこと言ってないでやれよ。俺がわざわざ教えてやってるんだろう」
イライラしているのか幼馴染の表情は険しい。
「言うぐらいいいだろっ、何か減るもんじゃないし……」
「減るだろ?」
「なにがだよっっ」
減るもんなんてないって反論すると、今度は和正の頭を鉛筆で叩く。
「やる気だよ。喋ってないで勉強しろっ」
怒られた和正は宿題を渋々始める。
確かに弘樹に言われたことは正論だし、分かっているんだけど……。
和正はいまいち納得していなかった。
(おれたち、恋人だよなぁ……?)
実は和正と弘樹は恋人同士なのだ。
だけど、和正は疑問に思っていることがあった。それは弘樹の気持ちのことで、だ。
言葉にしないでも分かるぐらい一緒にいる仲だ。だけど、この頃表情にすら出ないから、弘樹の心情が読めないでいた。
不安。
その言葉が和正の中に蹲っていてなかなか逃げ出せそうにない。
「おいっぼーっとするなよ。勉強早く終わらせよう」
勉強、か……。
このぉ、勉強バカっっ
弘樹が勉強熱心なのは知っている。
大学に行きたいから頑張っているのも和正もよく分かっているのだ。
だけど、やっぱり寂しい。
かまってもらえる方法が勉強しかない。二人で一緒にいる方法はこれしかない。だから無理矢理勉強を教えてほしいと頼むのだ。
───本当は二人で他愛もない話をして笑ったり、遊んだりしたいのにな………
我が儘な願いだ。
そんなこと言ったら、きっと弘樹は何言ってるんだって嫌な顔をするに決まっている。
諦めに似た溜息が和正から出た。
「……どうかしたのか?」
「別に」
様子が変だと思ったのか弘樹は心配そうな声で問いかけてくるが、和正はそっけなく答えた。
「別にって……なんか怒ってるのか?」
目の前にいる不器用な恋人は困惑した表情で和正を見据えている。
「なぁ〜遊びにいかねぇ?」
本音を言ってみることにした。
わざと茶化していったのは自分のためだ。
もし、真剣な目で言って嫌だなんて言われたら……と思うと怖かった。
「遊びにってまだ勉強終わってないだろ?」
「そうけど……気分転換にさ?」
「駄目だ。お前そんなこと言って逃げるつもりか?」
その一言が酷く和正の心に突き刺さった。
(おれ……そんなにも信用されてないんだ……)
逃げるだなんて言われて傷つかない人のほうが少ないと思う。弘樹は昔からそうで、無遠慮に痛いところを突くのだ。本人はそれに気付かないからたちが悪い。
「逃げるなんて……んなことしねぇーよっ」
「じゃあなんでそんなこと言うんだ?」
この鈍感はまだ分からないのかっ。
諦めていたはずなのに、今度は怒りのほうが和正の中で大きくなっていく。
「もう知らないっ勝手に勉強頑張ってください、優・等・生く・ん」
和正はわざわざ弘樹の一番嫌う言葉を強調した。
宿題を弘樹に放り投げて和正はこの部屋から出ようとする。だが、弘樹はそれを許してくれはしなかった。
「お前は、何を拗ねてるんだ?」
「はぁ!?」
弘樹からの言葉に耳を疑う。
(拗ねている?おれが?拗ねてるんじゃないっ!おれは怒っているんだ)
そう目で訴えてみても、弘樹は何一つ分かろうとしてくれない。
うっかり涙を流しそうで和正は弘樹に背を向ける。和正は涙腺が弱くすぐに泣きやすいタイプだ。弘樹もそれを知っている、だから意地を張って口を強く喰いしばる。
「俺はお前のために言ってるんだぞ?勉強が早く終われば、遊べるだろ?」
正論だから言い返すことができなくて黙ってしまう。
でもでもっと、はやる気持ちを持て余している和正に、弘樹は優しい声音で問いかける。
「勉強終わらなきゃ、気が休まらないだろ?」
「……うん」
弘樹は和正の腕をとり自分のほうへ振り向かせて、和正の目を覗きこんだ。
「和正と少しでも二人で長く一緒にいたい、って俺は思ってるから。それは和正もだろ?」
「うん」
「だから、早く勉強を終わらせような」
「うん……」
これではまるで、親が教え諭されている子供ではないか。
和正自身は気付いていなかったのだが、勉強に弘樹をとられたようで面白くないと思っていたのだ。
それは弘樹は知っていた。───だから、怒らなかったんだ。
嫌味っぽく弘樹に言葉をぶつけても………。
じわじわと熱くなってくる気がする。なんか全部弘樹に心の中を見透かされていたと思うと恥ずかしくなってきた。
「早く終わったら遊びに行く以外にご褒美やるから頑張れ」
「ご褒美って何?」
甘えたように訊いてみると、
「……後で考えとく」
「ん?」
変な間が和正に疑問を浮かばせていたが、弘樹は上機嫌に笑っているだけだ。
「この後のお楽しみだ」
「お楽しみって?」
「言ったら、お楽しみじゃ無くなるだろ?」
「うん……」
「じゃあこれは序章ということで」
「うん?」
優しく和正の頬を包んで顔を近づけ唇が触れた。
一瞬雰囲気にのまれて和正は目を閉じようとするが、無理矢理弘樹の顔を引きはがした。
「やめろよぉ…っっほら勉強だ!!べ・ん・きょ・う!!」
「さっきまで勉強嫌がってたの誰だよ」
「それとこれとは、違うんだよっっ」
「はいはい」
弘樹は諦め気味に笑った。
……学校でも、いつも一緒にいられる時間は長い。
でも、静かに過ごす時間はほとんどない。
夏休みの密室。
クーラーの効いた、だけど───
とても温かな二人だけの空間。
こんばんは、彩瀬姫です。
夏休みもそろそろ終わりだなぁ……っと思いながら、書いていました。
また少しずつ短編を更新できるよう、頑張りたいと思います!!