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遠想  作者: 彩瀬姫
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季節たちの恋

「私、貴方が好きよ。貴方は私のこと好き?」

「嫌いじゃないよ」

 そっけない答えに幼馴染は、涙を浮かべる。

「嫌いなら嫌いって言ってくれればよかったのに」

 幼馴染の春は、曖昧の態度の僕に拗ねた。

「嫌いじゃないよ。だけど僕は、春と一緒にいることはできないんだ」

 僕も春のことは好きだ。

 だけどのこの想いは言ってはならないのだ。それを春も分かっているはずだ。

「私のこと好き?」

 寂しそうに言う君は可愛い。

 好きだよ。………今だけはね。

 そう思っている自分は残酷だし、でもそれは春も一緒だった。

「好き……とは言えないよ」

「うん、わかってるよ。わかってる」

 涙を流しながら、笑っている春。それをただ見ていることしかできない僕。


 春も僕も分かっている。会えるのは今だけ。

 時が過ぎればきっと想いは変わってしまうのだから。僕も……春も。それは自分たちにはどうしようもできない。

 今は好きだとしても、あと3カ月過ぎれば、僕の想いは春から離れてしまうのだ。僕の意思関係なく。

「何度季節が廻ったのだろう」

「分からないわ」

「それはそうだよね」

 僕たちは知る由もなかった。どうやって季節が廻るなんて、想像ができない領域だから………想像すらしたくなかった。


 僕たちは一年に一回死んで、そして時期になると生き返る。

 綺麗な姿、人それぞれの個性を持って生き返る。春も僕も、その繰り返しだ。

 春と僕が会えるのは季節の変わり目。春が死ぬ直前、僕がこの世に生まれてほんの少しの間。


 二人は恋をする。毎年、同じ時期に。

 後3カ月経てば、僕は違う人に恋をする。次の季節の変わり目───僕が死ぬときに。それは絶対に変えられない、僕たちの使命。

 

「また今度告白するから、また聞いてね」

 春は優しく微笑んでいる。

 何度この会話を繰り返しただろうか。来る年くる年、僕たちは苦しい思いをする。

 好きだっていう気持ちを告げられない苦しさ。あと少しで触れられる距離にいるのに、触れてはいけない辛さ。

 恋に落ちているのに結ばれない、一生続く赤い糸。


「あぁ……また来年会おう」

「うん……またね、夏」


 春は寂しそうな笑顔を浮かべて消えていった。

  

───ミーンミーン───

 蝉の鳴き声が聞こえてくる。




 もうすぐそこに、夏は来ていた。






 

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