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遠想  作者: 彩瀬姫
4/7

罪。それは僕の名前


・ボーイズラブ

・残酷な表現

苦手な方はご注意ください。


□あらすじ

自分の犯した罪を死で償おうと、高層ビルから飛び降りたリク。

そこで待ち受けていたのは?


 

 ごめんなさい、お母さん。


 ごめんなさい、お父さん。


 ───そしてごめんなさい、兄さん。


 僕は旅立ちます。


 空よりも高い場所に。


 誰も知らない場所に。


 心が綺麗になれる場所に。


 僕が僕らしく居る場所に。 


 ────その手紙を残して僕は、高層ビルの最上階から飛び降りたのだった。






「う……ん」

 僕はゆっくりと目を開ける。

 ───ここは何処どこ? 

 それが一番の感想。

 周りを見渡しても、黒一色。

 なんか闇の世界に来たみたいだ。

 ふわふわとして体が浮いているようで………ってえぇっ!?浮いてる!!浮いてる!?

 自分の足が地についてないことに気づき、リクは慌てた。

 ――本当に僕は死んだの?!

 不思議な気持ちなので、何と言っていいのか分からない。

「ここはどこか知ってるかい?」

 突然、誰かの声が頭上から聞こえた。小さな男の子ような透き通ったソプラノ。

 上を向いてみるが、真っ暗だから何も見えない。

「見るんじゃなくて、聞いて。もう一回言うよ。ここをどこか知ってるかい?」

「死の世界」

 正直にそう答えた。誰かは溜め息をついたらしく、はぁ……と情けない空気の音がした。

「ここに来たものは様々な答えを言う。よく言えば天国。悪く言えば地獄。だがみんな意味は同じだ。ここが死の世界だと言う」

 楽しそうに話しているのを聞いて、リクは不愉快になった。

 どうしてこんなところで楽しそうに話ができるんだ。僕は死んだんだ。自由にさせてくれっ!

 そう言いたいが言葉に出ない。なぜだろうか?

「君はボクの姿が見えるかい?」

「見えない」

「……そうかい。じゃあ少し話をしようか?」

「は?」

 あまりに突然のことで頭が追い付かない。

「僕はここの住人、門番と言ってもいいかな?名前はミナト。君は?」

「…リク」

「リク、君はボクをどんな奴だと見る?」

「どんな奴と言われても見えないからわからない」

 真っ黒でどんな奴かもわからないから、そんなことを聞かれても答えることはできない。

 ミナトは僕のことが見えているのだろうか?

「君は見かけによらず、何と言うか物事をはっきり言うんだね」

「ミナトは僕のことが見えてるんだね」

「洞察力もいいのか。意外だな」

 さっきからミナトは僕に失礼なことばっかり言ってるような気がするんだけど、気のせいだろうか?

「それはいいとして、本題に入ろうか。君はなぜここに来たんだ?」

 平然と訊いてくる。

「………」

 僕は答えることが出来なくて黙ってしまう。とても答えにくいことだ。

 言えるわけがない。

 僕はいけないことをしてしまった。禁断のものに手を出してしまった。そして大切なものを壊そうとした。だから僕は死んだんだ。

 それをわざわざ他人に言うことはしない。そう、あっちの世界で決めてきたのだ。

「……まぁ、いいだろう。言いたくないのならそれでもいい。突然で悪いけど試験を受けてもらうよ」

「はい?」

「試験。ここはまだ中間地点。正式にはまだ死の世界ではないんだ。今から試験を始める。合格すれば、君の願いを一つかなえてあげるよ。大抵は受かる簡単な試験だからリラックス、リラックス!!」

「えぇ?ちょ……っちょっとぉ!?」

 突然目の前が明るくなって……ブラックホールならぬホワイトホールに吸い込まれていく感じがした。









「う……ん」

 目覚めると、僕は大きなホールの真ん中に置いてあるソファーに寝ていた。

 ここは何処?というか、なんでこんなど真ん中に寝てるんだろう?

「まぁ、いっか」

 僕はソファーから起き、周りを見物してみた。

 ソファー以外何にもない。殺風景さっぷうけいな部屋だ。まるでモノクロの世界みたいで僕は嫌いじゃない。

 ―――で、これからどうするかな……。

 とりあえず部屋に一つだけあったドアを開く。

 開けて吃驚びっくり!!ビックリ箱!(何か古い?

 僕がいた部屋と真逆で光満ち溢れてまぶしい。鏡やら、ガラスやら。

「本当にここ何処だよ……」

 僕はとにかくここにいてもしょうがないと思ったので、この建物を見て回ろうと思う。誰かに会えばここがどこか教えてもらえるだろうし……。

 僕は、ちょっと探検気分であたりを歩きまわった。

 選択肢は二つ。右と左だ。

 う〜んどうしようっかな?と唸って考えた結果。

 じゃあ右。右にしよう!!

 僕は右に曲がり歩いて行った。なぜ右にしたかというと、いつも僕は野球をするとライトにいたから。

 ライトを日本語に直すと右っていうことで。なんとも簡単な理由だ。

 右に曲がってしばらく歩いていると、誰かの影が見えた。

 小さな男の子。中学生ぐらいだろうか?

「やっほー♪」

 彼は僕に手を振った。

 さっき、聞いた声だ。

「ミナト?」

 疑問形で訊いてみると、ミナトらしい人物はケラケラと笑いだした。なんか馬鹿にされたようで気に食わない。

 僕は睨めつけた。

「怒らないでよ?何回も間抜けな声を出すからさぁ……ふっ」

 失礼な奴。フォローにもなってないって言うか……絶対僕のこと馬鹿にしてるよね?

 さっきもそうだが、ミナトはどうやら僕に変に突っかかる。怒らせたいのか知らないが、そんな言い方されれば誰でも嫌な気分になると思う。

「で、ミナト。ここは何処?」

「う〜ん」

 もったえぶるように、ミナトは腕組みをする。

 あぁ〜ムカつくなぁっ。

 僕の沸点を到達しそうだ。そして次の一言は僕を激怒させることになる。

「ヒ・ミ・ツ」

 コイツは絶対俺を馬鹿にしている。間違いなく100%!!

「いいから早く目的を言ってくれませんか?ここは何処で僕は何をすればいい?試験って何?筆記試験?」

 切れた僕は冷たい視線をミナトに向ける。だが、それがなんともないかのようにあっさりと無視する。

「そんな一変言われても分かんないよ?まぁっ、とりあえず、鬼ごっこしようっ!」

「はい?」

 意味不明なことを言われて僕は目を瞬かせた。

「今回の試験はボクと鬼ごっこ。リクがボクを捕まえることができたら、リクの望むところに連れて行ってあげる」

 スタート!!

 いつの間にか始まった。鬼ごっこ。

 何かよく分からないけど、無償に勝ちたくなってきた。あんな奴に負けたくない。

 僕はいつの間にかミナトが行った方向に走り始めていた。








 

「ここ広すぎ……」

 鬼ごっこが始まって何分……いや、何時間たっただろうか?一向にミナトが見つからない。

 ミナトだけじゃない。人の気配すら感じない。

 なんとも気持ち悪い感じだ。音も何もしない。まるで僕はここに閉じ込められたみたいだ。

 ………まるでじゃなくて、本当にここに閉じ込められていたとしたら?

 ふとそんなことが頭をよぎる。

 まさかそんなことはないよな。

 頭を横に振り、嫌なことを追い出そうとする。

「ミナト」

 彼の名前を呼んでみたが、返事をするわけもなく、ただ空しく僕の声が響いていた。

 誰もいない僕だけの世界みたいだ。

「どうしてこんなことになったんだろう」

 大きな溜息をつく。

 真っ暗なこの世界。ここは地獄ではないようだ。


 ───僕は死んだはずだった。死んで罪を償おうとしたのに、どうして僕は中途半端なところにいるんだろう。


 ミナトは一体何がしたいんだろう?

 疑問は沢山ある。

 でも、とにかくミナトを探さないと、何も始まらない。仕方なく、歩き続ける。

「ミーナートー」

「………」

 なんでいないんだよ、この野郎っ。

 なぜか分からないけど、泣きたくなってきた。一人が寂しくて……──

 そこで、あること思い出す。

 そういえば、よく僕、小さい頃は泣いたなぁ……。ちょっとしたことで泣いて、いつも兄さんに慰められたっけ。

 兄さんに頭をなでられるのが好きだった。

 優しい笑みを見せられるのが好きだった。

 今、兄さんは幸せだろうか。

 父さんも母さんも元気にしているだろうか。

 家族のことを考えたら涙が落ちそうになった。

「何、泣きそうな顔をしてんの?子猫ちゃん」

 軽快な声が後ろから聞こえた。

 ミナトじゃない。それは分かった。もう少し、大きな男の人の声。

 恐る恐る振り向くと、ニコニコとした青年がいた。

「子猫ちゃん迷子ぉ?」

「子猫ちゃん?」

 周りを見渡すが、猫なんてどこにもいなくって、僕の行動見た青年は、大きな声で笑い出した。

「君のことだよ」

「僕…?」

 聞き間違いかと訊き直すが、青年はうんうん肯定する。

「このへんじゃ見ない子だね。新人?」

「しんじん??」

 よく分からない言葉に首をかしげる。

「じゃあ、もしかして今テスト中だとか?」

「あっ…はい」

「……ふ〜ん。こんな子猫ちゃんがね……。今の世の中はどうなってるんだろうね」

 意味深な発言に怪訝な視線を向ける。だが、この周りは少し暗いので青年は僕の怪訝な視線に気付いていないみたいだ。

「あの、その子猫ちゃんて言い方はちょっと……」

 控え目に言うと、青年はなぜか突然抱きしめてきた。

 混乱した僕は、青年を引き剥がそうとするが、全然離れない。でも、青年は凄い力で僕を抱きしめてるわけでもない。

 息苦しいと感じない。でもなんでだろうか?

 ───なんか寒い。

 人間の温かさを感じない。はっきりと言うと青年の体は冷たかった。

「あのぉ……」

「えっ!あっ、ごめんごめん!!ついね、つい…」

 青年は優しく離れてくれた。

「いえ、大丈夫ですけど。あのそのぉ……」

 言ってしまっていいのだろうか?

 なんか失礼な気がして、言葉にするができなくて、結局は口を閉じてしまった。

 それを気にしていないのか青年は、話を進める。

「えっと、俺はニシオ。君は、なんていうの?」

「リクです」

「おぉリクか。いい名前だな」

「あっ有難うございます」

 満面の笑みでそう言われて、ついドキッとしてしまう。

 

 今の笑顔───一瞬、あの人の顔が浮かんだが、すぐに消し去った。

 ダメだ。忘れるんだ。

 自分の頭に呪文を書けるように何度も何度も心に誓う。

 だって僕は……。


「逃げてきたんだ?」


 さっきの明るい声が一転、突然ニシオの声が冷たくなった。

 ニシオの目を見ると、凍った瞳の色をしている。

 でも、それ以上に驚いたことがある。

 なんでニシオは僕の思っていた言葉を言ったんだ。 

 これは偶然なのだろうか?自分の心で問いかけると、ニシオは

『偶然じゃないよ。俺はリクの心が読めるからね』

 僕の心に答えてきた

 ───何これ?テレパシー?

「リクは自分がどうしてここにいるか知ってるか?」

「どうしてって……」

 どうしてだろうか?なんで僕はここにいるんだろうか?

「分からない」

 分からないと言った僕をニシオは鼻で笑う。ムカついたけど、どうにも怒れなかった。

 ニシオに分かっていたんだ。どうして僕が分からないと答えたことを……。

「君はね。迷っているんだよ」

「何に?」

 それでも、僕は、平然と聞こうと装うから、ニシオは言葉を吐き捨てた。 

「リク自身は分かっているんだろう。人に聞いて教えてもらうなんて甘ったれるなっ。自分で考えろっ」

 僕は自分で考えることが苦手なんだ。だからすぐに誰かに頼ってしまう。

 何とも甘ったるい人間。

 だから僕をこんな結果にしたんだ。死を選択したんだ。もし、自分が考えれる人間だったらこんなことはしなかっただろうね。

 自分を嘲笑う。

 でも結局は自分がいけない。いけないものに手を出してしまったのだから、けして目覚めてはいけない感情。それは僕は知ってしまった。

 伝えてしまえば楽なものなのに、言えないこの気持ち。一生伝えられない苦しさを考えたら死んだほうがマシだなんて考えていたんだ。

「リク。今はどんな気持ち?このままミナトが見つけられなくて、一生ここに中途半端に過ごすか、それともミナトを見つけて合格し、君の望む世界に帰るか」

 分からないとは言えない。

 だって、この目の前にいる男は知っているんだ。

 僕の気持ちを見透かしている。

「死ぬことははっきり言っていつでもできる。死にたいと思えば簡単にな。でもな、生きるってことは簡単にはできないんだよ。一人ひとりの生命が誕生するには年月が必要だ。母さんや父さん、家族の人たちの愛情がないと生きていけないんだよ」

 知ってる、分かってる。家族がいないと生きていけないって分かってる。

 みんな大好きだし、母さんも父さんも、友達も───そして兄さんも。

 でもね、僕は間違ったんだ。僕はそれを壊しそうになる存在なんだ。だから、だから、僕は……。

『死のうとしたの?』

 ニシオは口を開けずにニコニコしている。だけど僕の中に入ってくる言葉は残酷で……、正しくて、怒りが込み上げてくる。

「だって僕は好きになってはいけない人好きになったんだ。大好きで大好きで、ずっと隣にいたいと思うけど、好きな人を、傷つけてしまいそうで……」

 本音がぽろぽろと口から出てくる。

 言っちゃいけないんだけど、言葉が僕の中から溢れてくる。

「好きだった。──今でも好きっ!で、でも……隣にいることは許されない。そんなぁ…苦痛に、耐えられなくってぇ……っ、どうした、ら……いいのか、分からなくて……っっ」

 ついでとばかりに涙も溢れてくる。

 僕のことをニシオは優しい眼差しで眺めてくる。

 さっきまで怒っていたニシオなのに、どうして優しい目をしているの?

 それはニシオしか分からないけど。きっと僕のことを見守ってくれているのだろうと思いたい。

「リク。今だよ。今言っちゃえば、君の未来が変わる」

「えっ?ミナト?」

 どこからかミナトの声が気こる。

「ボクはまだリクの前には姿を現さないよ。君は気付かなきゃいけない。違う、もうリクは気付いている」

 ミナトも僕の心読むのか?

 そう問いかけると、ミナトが笑った気がする。何となくだけど気配で分かった。

 僕はゆっくりと口開く、でも勢いは嵐のように激しく。


「好きなんだっ。僕は…僕は……!!兄さんが好きだ……っ!!」


 これがただの兄弟愛だったらどんなに良かったか……、今考えてももう遅い。

 僕は、一人の人として、恋として、兄さんが好きだ。

 でもそんなことは誰にも言えなかった。男同士でしかも兄弟で……。

 この気持ちに気付いた時から混乱しっぱなしで、落ち着く暇がなかった。

「それが今のリクの気持ち?」

 いつの間にかミナトは僕の隣にいて、優しく笑っていた。

 僕はそれに強く頷く。僕の想いは否定しない。

 逃げてばかりじゃ何も解決しない。

 だって、僕は気付いてしまったんだ。それを気付かないふりをするなんて、僕はずるい。

 

 決して消えない僕の想い、兄さんへの恋心。

 

 もう目を逸らさない。

 

「リク。君はこの試験合格だ。ボクを見つけたからね」

「でも、それはミナトが……」

「いいから聞いて、リクはね、試験に合格した。ねぇ君はどうしたい?一生ここにいるか。死の世界に行くか、それとも───もといた世界に戻るか」

 ミナトの言葉にぎょっとした。

「どういうこと?」

「ちょっと前にも言ったよね。君は死んでいないって。君が望むなら帰ることができる」

 ミナトの手がいきなり光りだした。

 何だとじっと見てみると、ミナトは僕の前に円を書きだした。

 その円の中には病室が見えた。そして、そこには兄さんと───僕?

「まだ君は死んでいない。今は植物状態だ」

 円の中には眠っている僕がいる。頭に包帯が巻いてあって。

 兄さんは僕の手を握りこんでいる。

「あっちでは、君が自殺してからちょうど一週間。彼はずっと付きっきりで、君を見ていたんだよ。優しい人だ」

 兄さん……。

 ずっと兄さんを見ていると、突然兄さんがぽつぽつと眠っている僕に話しかける。

「リク。起きて、ねぇ……リク」

 優しい兄さんの声。大好きな兄さんの声。

「俺はここにいるよ。なぁ戻ってこいよ、リク……っっ!!」

 兄さんの眼には涙を浮かべていた。


 こんな兄さん見たことない。

 泣け叫ぶ兄さん、見たこと……な・い…。

 いつも優しく笑っていて、時に悪いことをしたら怒ってくる兄さん。

 勉強を教えてくれて、できたら褒めてくれる兄さん。

 小さいころから好きだった。


『にいさんを泣かせたら、ぼくがゆるさないっ』


 小さいころよく言っていた台詞。

 今、兄さんをこの状態にしているのは誰?兄さんを泣かせているのは誰?

 

───僕だ。


 僕は兄さんの隣にいたい。

 泣かせたくない。

 僕が守ってあげたい。

 今もの昔もこの気持ちは変わっていない。

 だから、僕は───

「帰ります。お願いします。僕を兄さんの元へ連れて行ってください」

 ミナトとニシオの前で僕は土下座した。


 僕は、兄さんを愛してしまった。

 それが僕の罪。

 兄さんを愛したことが僕の罪だと、ずっと思ってきた。


 でもそれは違う。

 本当の僕の罪は、自分から命を絶ったことだ。

 兄さんを開いたことへの罪悪感がこと葬り去ろうとしたことが僕の罪だ。


 だから、僕は償います。


 兄さんを幸せにする。

 そして、僕が死に選択するときは、兄さんがいなくなったときだけだ。

 

 誓います。


 そう、心で誓った瞬間、僕の目の前が突然真っ白になった。

「えぇ?ミナト?ニシオ?」

 きょろきょろ周りを見渡しても二人の姿が見えない。

「大丈夫。ボク達はここにいる。君が元に世界へ行く準備ができたよ。大丈夫。兄さんとうまくやんなよっ」

「俺達は人間じゃないから、リクと一緒に行けないけど、ここで見守ってる」

「もう迷わない。だから───」

 一生ここに来ることも……ない。

「悲しい別れじゃないよ。一生会えなくても、ずっとつながっているから。ボク達のことを忘れないでね」

「うん」

 二人が今、僕の顔が見えているのか分からない。

 だけど、僕は満面の笑みを見せた。

 気持ちを分かってもらいたくて、有難うって……。

「バイバイ。リク」

「うん。バイバイ、ニシオ。ミナト」

 ここに来た時の暗さが何もなかったかのような爽やかさ。

 涙はいつの間にか、止まっていた。



 






 リクがあっちに戻った後、ミナトとニシオは寂しそうに話をしていた。

「なぁ……ミナト。リクは俺達のことを覚えていると思うか?」

 実はリクに言っていなかったが、この世界から出た瞬間、今までのここのいた記憶は消されてしまうのだ。

 今までここに来たのは何億兆人。

 だけど元の世界に戻れるのは、ほんの一握り。

 自分が自分を認められず、自分を傷つけるものは沢山いた。

 ここは最後の関門。

 死の入り口。死をとめる場所ではないのだ。

 自殺をして、なお死を望むものものがこの先に行ける。それが地獄なのか、天国なのかは人それぞれ違う。

 ミナトとニシオ達はそれを見極める番人。番人に選ばれるものは、人を殺した罪を死で償った者達だ。

 ニシオは、家族を。ミナトは、恋人を。自分の手に委ねてしまった。

 その罪の重さに耐えきれなかった者がここの番人として仕える。その数知れず。

「う………ん、どうだろう………。───でも、覚えていると信じたい」

 ミナトとニシオは遠くに祈った。

 

 






 兄さんあのね。僕、ずっと兄さんのことが好きだったんだ。

 今まで言えなかった。

 

 ごめんね。

 僕は兄さんを一人にしないよ。僕がずっとそばにいてあげる。

 罪はいけない。だけどね、

 罪があるからこそ、僕は兄さんの元に戻ってこれたんだ。


 だから、お願い。

 僕をこの罪に縛り付けて……。

 罪があるからこそ、僕は兄さんの元に戻ってこれたんだ。


 僕はずっと罪を償い続ける



 ───そして、兄さんを愛し続けるよ………

 












  

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