遠想
遠くへ飛んで行くのは、僕の声
君には聞こえていないかもしれない
鳥のように、遠くまで飛んで行ければよかった
君の元に言葉を届けに行くから
知らなくてもいい
ただ僕自身の自己満足だとわかっているから
分からなくてもいい
この想いは僕のものだ
僕の声
届くといい
少しでも僕を思い出してくれるのなら
それでいいから……
「何書いてるんだ?」
僕が机で書いているノートを彼は覗き込んできた。
あまり見られたくないと思ったけど、今の僕にはそこまでの元気も気力もなかった。
「うん?詩……かな?」
曖昧に答えておく。
僕のノートに小さく書かれた短い詩。
「お前らしくない詩だな。なんというか、暗い。いつもビャービャー煩いお前はどこへ行ったんだ?」
茶化した様子のない彼の声。
不器用な手つきで僕の頭を撫でてくれる。優しいという言葉があっているか分からないけど、涙が出るほど暖かいものだ。
「ここにいますよーだっ。お前、煩いからあっち行けよ。今は少しだけ一人でいたいから……お願い」
初めの言葉は彼を茶化したつもりだったけど、最後の言葉は自分らしくもない弱々しい声で彼に縋ってしまった。
「あぁ……分かった。何かあったら言えよ」
「うん」
窓の外を見ると、青い空、雲すらない、快晴。
だけど、僕の心の中はずっと雨が降り続ける。
真黒な雨が僕の視界を閉ざしている。
……もし、僕の視界が──心が晴れたのなら、
それはきっと新しい、『僕の始まり』………と、信じたい。
窓から視線を外した僕は、
────ゆっくりとノートを閉じた。