2 二度目まして
「聖女様お助けください」
召喚陣の上に立っていることを確認して、周りを見渡した。
どうやら私がこの世界に召喚された時まで遡ったようだ。
知った顔は大臣と王、それに何人かの貴族達。前回私が殺したと冤罪をかけられた魔法使い達が揃っていて、これもなんとかしなければな、と思案した。
前回は、召喚されたばかりのわけもわからない私に、いきなり魔力測定を行い、何の説明もなく煽てるように戦場に送り出された。
「いやよ」
周囲が目を丸くするのを楽しい気持ちで見渡した。
「何のために其方を召喚したと思っている!」
何が出来るわけでもないのにふんぞり帰っている王に向けて、片手を差し出す。
「な、なんだ。誰を前にしてその不遜な態度を取っているのだ」
「あなたこそ誰の前でその態度でいるの?私こそは神に遣わされた聖女。神はあなたを見放した。私があなたに膝をつく理由があって?」
なるべくミステリアスに見えるようにゆっくり微笑んで、手を握り込んだ。
瞬間に王の証であるピアスが割れる。この世に二つと無い、継承の際に渡される国宝のうちの一つ。
「な、何をした」
「私は何も。神のお怒りに触れたのはあなたでしょう。心当たりがあるんじゃないかしら」
楽しく歌うように告げた。口元に笑みが滲む。何故かはわからないけれど、前回手のひらに彫り込んだ略式陣が残っていた。握るだけで破壊する便利な魔法だ。かなり痛かったことを覚えている。
それを知る者がいないこの場では、魔法陣も詠唱もない現象は、神の奇跡に見えることだろう。
「世話係を用意しなさい。当然私の部屋はあるのでしょう」
悠然と微笑んで見せると、部屋がざわついた。部屋が用意されていないことなど知っている。
魔力があればすぐに送り出し、魔力が無ければ追い出す予定だったからだ。
「......聖女様、しばしお待ちください。すぐに用意をさせます」
前回、笑顔で私を送り出した大臣が、顔を白くさせながら言葉を発した。
私の後見でもあった彼には何度も煮湯を飲まされた。
そもそも、使う魔力量に対して得られる成果がギャンブルな聖女召喚は、非生産的だと禁じられていた。
それを王を唆して自分の出世のために行ったのだから目も当てられない。
彼のせいで召喚されたのだと知らなかった私は、こちらの世界に来て、後見となり優しくしてくれた彼に恩返しをしようと頑張った。
頑張れば頑張るほど、彼の名声はあがり、地位もあがり。だというのに、塔に幽閉されることが決まった時にはあっさりと見限った。
「貴方が私を呼んだのね?」
「その通りでございます」
慌てて膝をつく彼に、結構よ、と立たせる。
今回も、自分が呼んだのだからと後見に名乗りをあげようとすることは容易に想像がつく。
甘い汁を吸わせるつもりはない。さっさと追い払っておくか。
「対価が必要よ。私を呼び出したのだから」
「魔力は十分に使ったはずです」
当然、対価など必要ないが怯えさせておくに越したことはない。
「魔力など、なんの対価にもならないわ。そうね、あなたの腕?......それとも、目かしら?」
「は?」
「何を捧げる覚悟があって私を呼んだの?」
「捧げる......など、悪魔ではないのですから......」
引き攣った顔で笑い飛ばそうとする彼を、ひたと見据える。
「私にではないわ。私を遣わせた唯一神によ。神に供物を捧げる、当然のことでしょう?ああ、金貨だなんてつまらないことを言わないで。そんなものが神にとって何になるというの。私を召喚した貴方は対価に何を捧げるの?」
「そんな、何も......」
「それじゃあ、貴方は私を召喚したわけではないのかしらね?」
ぐっ、と言葉を詰まらせる。こんなリスクがあると知っていたら、召喚なんてしなかったのに、と表情が全てを物語っていた。
「特定の誰かが召喚したので無いなら責任者に対価を求めましょう」
すい、と視線を回せば誰もが下を向いている。馬鹿な人達。全員覚えているわ。
私が幽閉される直前に、手の平を返したように罵り、石を投げた人達。
石なんて当たらないけれど。心は充分傷ついた。
「王よ。この中の誰よりも高貴な者よ」
そして、この中の誰よりも下衆な人。
私に声をかけられてびくり、と肩を震わせた。そうだ、とも違うとも言えずそっと私に目を向ける。
本当は玉座を望みたいところだけれど、どうせなら徐々に、侵食していきたい。その座が私に相応しいものだと誰もに認められる形で。
「私に、この国で最も敬虔な騎士と最も忠誠心のある騎士を捧げなさい。」
さぁ、国盗りを始めましょう。
毎週月曜に投稿していきたいと思います!
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