自殺予報チャンネル
自殺予報チャンネル
「そういや昔、歩YouTuberになってお金稼ぎたいって言ってたけど、あれどうなったの?」
歩は困った顔をした。
「げっ、あれまだ覚えてたの?」
歩は少し前、お金が稼げると知り、YouTubeを始めようとしたが上手くいかなくて断念した、苦い過去があった。
「あ、あの事はもう忘れてくれ」
「あぁ、そう言えば、YouTubeで思い出したけど、歩このYouTuber知ってるか?」
海斗はスマートフォンを見せてきた。
「誰?この人。自殺予報って変な名前だね」
「この人な、最近有名なんだけど、名前の通り自殺予報をするんだよ」
「なんだよそれ」
「まあ、見てろって」
と言うと海斗は自殺予報の最新の動画を再生してみせた。
動画には日本地図の画像が写り、機械のような語り口調で進んでいる。
『それでは早速、明日の自殺予報をしていきます明日は〇〇市で1人首吊り自殺があるでしょう。次に〇〇町で1人飛び降り自殺があるでしょう。』
まるで、天気予報を告げてるかのように坦々と進む動画に鳥肌がたった。
「な、なんだよこれ、絶対嘘だろ」
歩は苦笑混じりに言った。
「嘘だと思うだろ。でもなどうやら本当らしいんだ。ネットによるとこの動画が投稿されて次の日に本当にその場所で自殺があってるらしい」
ネットの情報を信じすぎているんじゃないか、と言おうと思ったが、事実その動画の再生回数は数百万回。嘘の動画がここまで伸びる訳が無かった。
「それでよ、ここからが重要なんだ」
海斗は興奮混じりに言い、動画を少し飛ばした。
『明日は〇〇市〇〇町で2人首吊り自殺があるでしょう』
それを聞いた瞬間、歩は呆然とした。
「お、俺たちの町じゃん」
「そうなんだよ、遂にこの町で自殺者が出るんだよ!」
「ただいまー」
歩はいつもより暗い気持ちで家に着いた。今でも海斗とのやりとりが頭から離れない。
「おかえりー」
リビングに入るといつもより豪華なご飯があった。
「なんだか、今日の料理は気合入ってるね」
歩の家はかなり貧乏でいつも少量のご飯しかなかたから驚いた。
「だって今日は歩の16歳の誕生日でしょ。お母さん頑張っちゃった」
母からそう言われるまで、歩は今日が誕生日であることさえ忘れていた。
「ありがとう!」
歩はさっきまでの暗い気持ちをとっぱらって言った。
「さあ、じゃあご飯にしましょう。お父さん」
「おう、今行くー」
父の部屋から父が出てきて、家族3人全員が椅子に座った。
「いただきます!」
歩の両親はお金が無いから、夜も働くことがしばしばあり久々に3人でご飯が食べれて歩は満足だった。
「そうだ歩これ、誕生日プレゼントだ」
そう言って父は四角い箱を取り出した。
「本当!?何これ!」
飛びつくようにその箱を開けると、中には腕時計が入っていた。それを見た瞬間、歩の顔は曇った。
「いいの?腕時計なんか、お金大丈夫?」
歩はこれまでスマートフォンを泣け無しのお金で買ってもらった時、もうこれ以上高い物は買えないと実感したことがあった。
「大丈夫。お金の事は今日ぐらい心配しなくていいさ」
「うん。分かった。ありがと!」
早速、腕時計をつけてみせた。母も父も微笑んでいた。
歩はご飯を食べながら、心の底から幸せだなと感じた。
次の日、学校では自殺予報の話で持ちきりだった。今日、この町で2人も自殺者が出る、それだけで海斗の様に興奮するする者もいれば、歩の様に暗い気持ちにもなる者もいたが、どちらかと言えば前者が多かった。
歩はその日の授業は全く頭に入らず、自殺予報のことばかり考えてしまっていた。どこか胸騒ぎがしていた。そして、なんだが早く家に帰りたい気持ちでいっぱいだった。
学校が終わった時、海斗に遊ぼうと誘われたが断りすぐに家に帰った。
家が見えた時、歩は唖然とした。
家の周りに沢山のパトカーと救急車が止まっていた。
「あ、あの、ここで何かあったんですか?」
目の前にいた警官が無機質な表情で言った。
「ここで2体の死体が発見されました。現在現場検証が行われておりますので、規制線より先には入らないで下さい」
歩は思考が停止した。震えが止まらなくなり、やがてその場で失神した。
目を覚ますと、そこは病室のようだった。
「起きたかい歩君」
「・・・はい」
目の前にはコートを着た40代ぐらいの男性がいた。
「私は刑事の者だ」
そう言いながら警察手帳を歩に見せた。
「ここは?病室ですか?」
「まあここは、署の病室みたいなところだ。とこれで歩君。起きていきなりのこところですまないが、事情聴取を始めるよ」
そこから、事情聴取が始まった。歩はその日の自分の流れをはなした。
「刑事さん。本当に僕の両親は自殺したんですか?」
「まあ、まだはっきりとは分からないけどね。ほとんど自殺で間違いないよ」
「そんな」
歩は昨日の幸せだった誕生日のことを思い出した。明日死ぬと分かってどんな気持ちでパーティーをしたのか、考えるだけ嗚咽が走った。
歩はふと自分の腕を見た。そこには昨日誕生日プレゼントでもらった腕時計があった。それを見ていると思わず涙が溢れてきた。
「すいません。ちょっと外に出ていいですか?」
歩は涙ながらに言った。
「ああ、構わないよ。今日の事情聴取はこの辺にしよう」
歩は外に出た。誰にも見られない場所を見つけた。
「よっしゃーーーーーー!!!」
心の底から安堵してスマホを開いた。
「あっぶねぇ、あっぶねぇ、今日の動画遅れるところだった」
そう呟き、開いたスマホの画面には自殺予報と書かれてある。
「よしっ、これで投稿っと」
歩は心の底から安堵していた。やっとの事で自分の潔白が証明される事になると。
一年前
歩はスマホを買った。
「ねぇ、海斗見て!」
歩は自慢するようにスマホを海斗に見せびらかした。
「歩、スマホ買ったの?」
「そうだけど、なんか、おすすめのアプリ無い?」
「そうだなぁ、YouTubeとかいいんじゃない?シンプルに見てて面白いし。それと、配信する側になったら結構お金もらえるらしいね」
「お金貰えるの?」
「そうだよ、でも、結構大変らしいね」
その後、YouTubeでお金が上手く稼げる方法を教わり、すぐさま自分のアカウントを作り、動画を配信する事にした。
他の配信者と差別化する為、多少過激な内容にならないと伸びないと海斗から教わった時、自殺予報を思いついた。
ホームページを作り、自殺相談所を開設した。そこでメール式で送られてくる悩みに対して、自殺をすると指名した人へお金を送ると伝えた。するとすぐにに自殺すると希望する者が出た。
YouTubeでここで明日、自殺があると動画を出すと、始めは疑う者や批判する者ばかりだったが、一つのコメントで全てが変わった
「うちの町で本当に自殺があったぞ」
そんな事が何度もあり、信憑性が増してきた。同時に再生回数も伸びてきた。お金もかなり入るようになり、そのお金を自殺をした人の指名された人へ送った。
その繰り返しでさらに再生回数を叩けるようになり、またさらに自殺相談所を訪れる人も増えてきた。
ただ、一つ問題があった。有名になったはいいものの、自殺を仄めかすことをしているため、警察に捕まる可能性が大であった。
そんな問題を抱えていると時、両親が自殺相談にやってきたのだ。これは使えると思った。両親が自殺予報の被害者になれば息子の自分の潔白はきっと晴れる事になる。
そして、歩は両親を自殺させるように仄めかし、自殺をすると決断した時に大金を渡した。
自分の誕生日の時、歩がためたお金で振る舞っていたのだから、なんとも皮肉だなと思っていた。
歩はスマホを見ながら笑っていた。数分前投稿した自殺予報は既に数十万回再生されている。
両親が死んで、これで自分は疑われる事は無い。最高に幸せな未来が待っている。それだけで大声を上げて笑いたい気持ちだった。
その時。
「え?」
気づくと歩は草の上に倒されていた。続いて今、自分は上から抑えられていると気づいた。
「歩君。君に冷状が届いています」
その声はさっきまで話していた刑事の声だった。
「何やってるんですか?」
抵抗しようともがくが、到底敵うはずがなくすぐに力尽きた。
「ごめんね。歩、騙して」
振り向くと母がそこにいた。その隣には父がいた。
「え?どうして生きてるの?」
「君の両親は君が自殺予報をやっている事に気づくと、こちらに相談しました。そして、君を捕まえる為に、自分たちが歩君の手によって自殺したと騙して、その後証拠を集めて逮捕に至りました」
完全にはめられた事に歩は今になって気付いた。
「どうしてこの場所がわかったんですか?」
歩は今まで人目につかない場所にいたのに、なぜ見つかったのか不思議に思った。
「その時計にGPSを搭載していました」
歩は父の方を見た。
「すまない。歩」
どうやら自分は完全にこの人たちの手の平で踊らされていたようだと分かった。
「それでは署まで連行します」
歩の両親は連行されていく、自分の息子の背中を見ていた。
『昨夜、YouTubeにて自殺予報と名乗る動画をアップロードしていた少年が逮捕されました。』
テレビでは終日、16歳の少年の前例の無い逮捕を報道していた。
ネット上では大人気YouTuberが逮捕された事に騒然となり、様々な意見が飛び交っていた。
『また、少年は概ね容疑を認めた上で、自分が自殺予報をやるにあたり、それを示唆すする様に仕向けた人がいる。と述べており、警察は捜査を進めています。』
テレビから流れる歩のニュースを耳に、ネットの反応を見ては海斗ニヤリと笑っていた。
「次、誰にしよっかな」