表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

第一話 飛行機

いつかどこかで君がこの小説を読んで、懐かしんでもらえたらと思う。


どうやら「ぶきよう」な俺にはこんな告白しかできないみたいだ。


俺は今、空の上にいる。


大阪伊丹空港発、長崎空港行きの飛行機の中だ。


残念ながら、憧れの飛行機で、少年心を踊らせる余裕はない。


今は大学受験の帰り。


正直、試験の感触は悪い。この俺が落ちてしまうのか。


頼む受かっていてくれ……。


天に祈るような気持ちで、空を飛んでいる



「皆様、ただ今長崎空港に到着しました」


機内アナウンスが流れて飛行機から降りる準備を始めていると


機体の後部座席の方から、荷物を持った人たちがゾロゾロと通路を歩いていく。



すると後ろからよく知った声が僕の名前を呼んだ。


「加賀美くん! 」


俺の名前、加賀美かがみ 俊太しゅんたの苗字を呼んだのは、


同じ高校に通う夢咲ゆめさき みおだ。


「おぉ、夢咲さん! 」


俺はその声に応える


夢咲さんは俺と同じ大学を受験していたから、帰りが同じ飛行機になることは不自然ではない。



声の方を見上げると、俺の目に写ったのは


いつもの夢咲さんではなかった。


髪をおろしている、黒のワンピースを着た姿が


髪を結んだ、制服姿しか見たことのない俺には


新鮮で、妙に魅力的に感じた。



あまりに嬉しそうに笑顔で手を振ってくるものだから


俺もつい、試験の憂鬱を隠しながら


少し照れたような笑顔で手を振り返した。



それからは特に会話もなく


通路を進んでいく夢咲さんを


後ろからただ見つめるだけ。



飛行機から降りて空港を出ると


近くの駐車場に母が迎えにきていた。


「お疲れ様、受験どうだった?」


「まあ、よくわからんな」


「あの子誰? あんたに手を振ってるけど……」


道の向かい側を歩く夢咲さんが俺に手を振っていた。


「あの子が夢咲さんだよ。ほら……同じ大学受けるって言ってた……」


「あの子が夢咲さん! ? 」



この母の驚きには少々理由がある。俺の受けた大学は


自分で言うのもなんだが、結構な難関大学だ。


長崎の自称進学校に通っている俺と夢咲さんは


学校の中で常に5本の指に入るくらいの成績をとっている。


地元の短大卒の俺の母は、賢い大学に行く女子が


全員地味なメガネ女子とでも思っているのだろう。


まあ俺も、母の言うことが全くわからないわけではない。


夢咲さんは確かに、ガリ勉とは思えない程に愛想が良い。



「可愛い子ね」


母は嬉しそうに俺に言う。



母の運転する車に乗って家に帰りながら


さっきのことを考えていた。


いつにも増して夢咲さんが可愛いかったことは間違いない。


それでも俺は女子を好きになることはないという


確固たる自信がある。



というのも俺が高校でトップクラスの成績を取り続けた要因は


高校三年間、一切恋愛を断ち、女子にうつつを抜かさなかったことに間違いない。


恋愛なんぞ勉強に勤しむ学徒にはもってのほか!


そんな意識で高校生活を走り抜けた。



そんな俺とあろうことが、さっきの夢咲さんが頭から離れない。


しかし、まだ別の大学の試験は残っている。


ここで気を抜けば今までの努力が水の泡だ。


夢咲さんの姿を必死に頭から追い出そうとしながら


車の窓から真っ暗になった外を眺めた。


































作品の向上のために、ぜひご評価やご意見をよろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ