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僕が僕であるために-6

 1時間目が終わっても千津子は固まったままだった。優子に付き添ってもらって保健室に行くと、校医の早野先生が授業を休む許可をくれたのでそのまま千津子はベッドで寝かせてもらった。

 横になっても眠れる訳でもなく、千津子は目を見開いたまま思い出していた。ニコニコとした笑顔。ぶっきらぼうな態度。でも、子猫もなついていた、あの優しげな雰囲気。

 ―――あの人が、『鬼』?

人違いだと思いたかった。そう思おうと努力した。しかし、どう考えても大島が、城山を病院送りにしたとしか思えなかった。と、涙が出てきた。止めようとしても目は見開いたままで、閉じられず、涙も溢れてきた。

「どうしたの。どこか痛むの?」

声も漏れていたのだろう、早野先生が覗きにきてくれた。

「先生…」

千津子は起き上がって早野先生に抱きついた。そのまま声を上げて泣きだすことを、早野先生は、止めようともせず優しく抱き寄せた。

 しばらく泣き続けた千津子は幾分落ちついた。早野先生は、そっと、千津子の髪を整えながらニッコリと微笑んだ。千津子はほっとして、ようやく自分の顔が火照っていることも感じることができるようになった。

「…ごめんなさい」

「いいのよ。すっきりした?」

「…はい」

「泣きたいときは、泣く。これが一番!ね」

ウィンクして早野先生は、千津子を見つめた。千津子は照れくさかったが、早野先生の笑顔に目を奪われていた。

「はい、タオル。ちょっと顔洗ったほうがいいわよ」

「…先生」

「なに?」

「先生は、…正義の味方っていると思いますか?」

「は?」

「正義の味方って、いると思いますか?」

「もちろんよ。仮面ライダーもキカイダーもラブパトだって、絶対いるわ」

「はい?」

「古かったかな?でも、あたしは、やっぱりライダーシリーズが好きなの。イケメンが多いからってわけじゃないんだけどね

「は?」

「ま、正義の味方はいる、ってあたしは信じてる」

「でも、その正義の味方が本当は、悪者だってことありますか?」

「ないない。と、言いたいところだけれど、世の中も複雑だからね、まぁ、あたしにはわかんないわ」

「…そうですか」

「でもね、中川さん」

「はい」

「女の子のピンチを助けてくれた正義の味方は、きっと本当の正義の味方だと、あたしは思うの」

「……」

「王子様なんて言うと、この歳でこんなこと言うとバカみたいかもしれないけど、男のプライドは女の子を助けるときに発揮されるんだと思うの。その場面で男でないような男は、正義の味方でも王子様でもなくて、なんていうのかな、ダメなやつなのよ。

 ごめんね、ボキャブラリーが貧困で。逆に、身を挺してかばってくれたら、その人は、かばってもらった女の子からは、ヒーローなの。ね」

「はい」

「やっぱり、オトコがらみね」

ニッコリ微笑みながら顔を寄せて早野先生はそう言うと、千津子は照れながら頷いた。

「いいじゃないの、青春してるね」

「でも、先生、詳しいんですね」

「なんのなんの。あたしなんて、ただの空想乙女なの。昔からこの通りメガネザルだから、オトコには縁がない分、こんな夢ばっかり見ててね。恥ずかしいったらありゃしない」


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