僕が僕であるために-11
城跡の北東側のコンビニの駐車場に、前田らはたむろしていた。缶コーヒーを飲みながら、無駄話をしていると、大柄な男がすっと現れた。一瞬、警察か補導員かと驚いた前田らは、大島だと認めると馴れ馴れしそうに話し掛けた。
「よぉ、どうしたぁ。また、仕事が欲しいのか。でも、たけぇよ、一人やってもらうのに、十万も取られちゃ」
「まぁまぁ、いいじゃないの。直接やったら、パクられるんだから。そのくらいは」
「もう、いいよ。また、何かのときは頼むから」
大島は黙ったまま聳えていた。
「なぁ、こいつ、仲間に入れて欲しいんじゃないの」
「まぁ、入れてやってもいいけどな、こないだのケンカ見ちまうと、怖いよ。やっぱり。『戦鬼』のあだ名は伊達じゃないね」
「『戦鬼』か」
大島は呟いた。
「あんだぁ、何言ってんだ?」
「金のため、妹のため、鬼になったつもりだったけどな、鬼は悪事を働いた者を戒める役目を持っているはずなんだ」
「あんだぁ。おかしいんじゃないのか、おまえ」
「ラリってるんじゃないの」
「鬼は、悪しき者を罰する地獄の使者だ」
「おい、前田。ヤバイよ、こいつ」
「大丈夫だって。金だけなんだよ、こいつは」
「そうだ。金だけだった。『戦鬼』じゃなく『銭鬼』だったってことだ。だけど、もうやめだ」
「何?」
「ガキだったから、虐げられてきた。ガキだったから『戦鬼』を気取ってた。ガキだから許されるっていう訳じゃないんだ。おれは、おれを罰しなければならない。その前に、お前たちも」
大島は右手で前田の頭を掴むと片手一本で立ち上がらせそのまま握り潰し始めた。絶叫の響く中、制止しようとした数人に殴られても蹴られても微動だにしなかった。うめき声が途切れると、前田は泡を吹いて失神した。そのまま、そこに投げ捨てると、周りにいた連中を順番に叩きのめし始めた。
遠くからパトカーのサイレンが響いて来た。しかし、大島の耳には何も聞こえていないようだった。ただ、一人残らず動かなくなるまで、殴り続けていた。