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護りしもの  作者: たたききゅうり
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序章

昔の夢を見た。

でも目が覚めると、どんな夢だったのか思い出せない。


あれは間違いなく、過去の自分。

過去の自分は、現在の自分を見てどう思うのだろうか。





チュンチュンとスズメが鳴く朝。

大きく開けられた窓から、紫紺の夜空とそれを白く染め上げた朝焼けが見える。


俺はゆっくりと起き上がり、窓辺に歩み寄った。


「(久々に見たな…夢)」


顔に手を当て、小さくため息を吐く。久々の早起きに、俺は空を見上げた。

赤茶の髪の毛を揺らし、優しく撫でる風が心地良い。


また寝る気にはなれなくて。

ふと、お店の裏にある小川を思い浮かべる。そこを散歩しようと、俺は静かに部屋を出た。




サラサラと流れる小川のせせらぎを聞いていると、誰かが歩み寄る足音が響く。朝早くから奉公に出る商人だろうかと思い、俺は静かに音が聞こえた方へ目を向けた。


「どうしたの暁。随分と早起きね」

日輪(ひのわ)…」


たった今上げたばかりであろう暖簾を手で払いのけた日輪--俺の幼馴染が声をかける。

口元に手を当てて小さく微笑む日輪を見て、俺は少しだけ顔が赤くなった。


「…朝焼け、とても綺麗ね」


そう言いながら俺の隣に立ち、空を見上げる日輪。切りそろえられた前髪と横髪が靡き、穏やかな顔を晒す。

その横顔をちらりと盗み見た俺は、懐かしくなり-小さく口を開いた。


「…今朝、夢を見たんだ」

「夢?」


日輪は首を傾げる。


「うん。だけど思い出せなくて」


本当は、心の奥底にしまっておきたいだけかもしれない。人には、言いたく無いことの一つや二つはある。

言おうか、言うまいか。少しだけ視線を泳がせる俺を見た日輪は、また小さく微笑んで少し顔を出した朝日へ視線を戻した。


朝を迎えようとしているのに、紫紺の夜空はなかなか沈まない。何かを迷っている俺と同じように、空も曖昧だ。でもその境目は、はっきり見て取れる。朝と夜の境目を。


「この空…暁にそっくりね」


日輪は俺の傷跡-右目にある傷を見ながら、静かにそう言った。どんな意図でその台詞を言ったのかは分からないけど。慈しむように見るその目が、「思い出せる時が来たらで良い」と言っている気がした。


「朝日が昇るわ…。少し早いけれど、お店の準備をしましょう」


ゆるく束ねた後ろ髪を翻しながら、お店の中に入っていく日輪の姿をじっと見る俺。ふわりと揺れる髪の毛に、感慨深いものを感じる。


「暁?」

「いま行くよ」


こちらへ振り向いた日輪に、笑顔を見せる。俺は最後に、昇りそうな太陽を見て、小さい日輪の背中を追いかけた。


-いつもの日常を噛み締めながら。

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