告白
魔王城一階の食堂は、昼食と夕食の間で休憩時間だった。厨房の奥へズカズカと入っていく。だが安心してくれ。私の体は毎朝様々な薬品でピカピカに磨いているから――除菌も完璧だ。
「あの……メイド……さん」
なぜ私が緊張しなくてはならないのか!
「はい?」
白黒のメイド服が……可愛い。ピンクよりもやはり、このスタンダードな白黒こそがメイドらしくて良い。
どうしよう。ここでまさかの逆転劇が発生したら……。「私は魔王様なんかより、宵闇のデュラハン様のことが好きなんです」とか言われたら、どうしよう~!
絶対に魔王様にぷち殺される――。
ああー、聞くに聞けない。聞くのが怖い――。
「今日はいい天気ですね」
「……ええ、そうですね」
何聞いてんだ俺――! これでは情けない中学生男子のようではないか!
落ち着け、落ち着くんだ。それとなく……聞きたいことに気付いてくれないだろうか。あ、その作戦がいい。そうしよう。
「あの……メイドさんって……好きな……」
「?」
ハア、ハア頑張れ――俺!
今こそ宿れ――魔の力よー!
「……好きな……色ってあるの?」
色聞いてどうなるのだー!
ああ……死にたいぞ。こういうのって自殺願望とはちょっち違うぞ。
「好きな色は、セルリアンブルーかな」
セルリアンブルーって何色――! 青か、青っぽい色か。赤ではないだろう。
「……僕も好きです。ビリジアンブルー」
「セルリアンよ」
ちょっと首を傾げないでくれたまえ――。口が滑っただけなのだ、顔は無いのだが。
「そう、それ。そのセルリアンブルー」
なんとか話をそっち方面に向けなくては。恋バナへと方向転換しなくては――。
「君の瞳の色……セルリアンブルーだね」
「ヘーゼルよ」
間違った。間違ってしまった。綺麗な瞳で見つめられると……緊張してしまう。
顔のある辺りの後ろの壁を見ているのだろうが。
「デュラハンって、面白いのね」
――! 呼び捨てですか。魔王軍四天王の一人であるこの私を――! そこにヤバさを感じるぞ。
長年にわたり培った魔王軍での功績。その結果、ようやく得ることができた四天王の地位。馴れ馴れしくすることでその地位を得た私に急接近しようとする策略か。
次期魔王候補ナンバーワンの、この宵闇のデュラハンを呼び捨てするとは――。キュンキュンしてしまうぞ!
――じゃなくて!
「あのお……」
やばいくらい会話が続かない。
「言わなくても分かるわ。本当はわたしに魔王様が好きかどうかを聞きに来たのでしょ?」
――!
まさかの考えていることが分かるスキル? ひょっとして、私の脳ミソ垂れ流し状態?
他人の気持ちを考えてあげるのとか、人の考えを理解するのって大切だよね。でも、全部分かっちゃ駄目だよね。隠し事できなくなるもんね。プライバシーの侵害だよね。
「隠さなくても分かるわよ。態度とか目の動きとかで」
クスクス笑ってらっしゃる。
嘘つけと言いたい。首から上が無いのに、目の動きで分かるはずがない! ペロッと小さく舌を出すなと言いたいぞ……。
いや、実はこのメイド……なにか怪しいと思っていたのだ。魔王城に最初に来た時から!
「人間になって暇だから、メイドやります~」とかなんとか言っていたが、元々この子は……、
――女神の像だったのだ!
長年の石化から解放され、力をすべて無くし人間になったと聞いていたのだが……。
ちゃっかりスキルそのまんま?
強くてニューゲーム状態?
だ・か・ら・小さく舌を出すなっつーの! 腹立つから!
「そのことは誰にも内緒ですよデュラハン。もちろんわたしが元々女神だったことも」
「はい」
「魔王に伝えなさい。わたしの気持ちは魔王と同じでしたと」
「御意……ぎょい?」
なぜに食堂のメイドの前で片膝ついているのだ私は!
「そして、わたしのために魔王城にメイドカフェを作るようにと」
「……」
なんなんだ、この昼メロのようなやり取りは!
魔王様、魔王城にメイドカフェは――無理ッス!
あー。なにもかも……垂れ流したあとは心地よい。
男子トイレで用を足したあと、半ば放心状態で魔王城の階段を上がった。普段から清潔好き、半分ほど潔癖症の私が……手を洗うのも忘れていた。
魔王城内を幼稚園児のように走り回って遊んでいるスライム達が……羨ましい。悩み事もなさそうだし、考え事もなさそうだ。自分の考えを遮ることなく読まれてもへっちゃらなのだろう。
魔王様に……なんと申し上げればよいのか。
包み隠さず、食堂のメイドも魔王様のことが好きでしたと言ってよいものだろうか。そうしたら、これから先はいったいどうなるのだ。
魔王様と元女神が結婚して、ハッピーエンドで……。いいのだろうか。いいことにしようか。
魔王様がハッピーエンドって……ありか。魔王様は平和主義だからなあ……平和を願う者こそが真の幸せを掴むってことなのだろう……。
次回作くらいは、「魔王様、祝儀は三万円ですか」……とかになるのか。誰が興味を持ってくれるのだろう。ちっとも面白くなさそうなタイトルだぞ――。
なぜこんなにも頭の中がモヤモヤするのだろうか。
「答えはどうだったの」
四階に上がると、玉座の間に辿り着く前にサッキュバスの方から声を掛けられた。
「まさかのイエスだった。だが、なにかがふに落ちないのだ」
「わたしもよ。あんな小娘を魔王様が好きになるはずがないわ」
「……」
その小娘が……酷いスキルの持ち主なのは……言わない方が身のためなのかもしれない。
サッキュバスよりも怖い……。逆らうと首から上に「へのへのもへじ」のような顔を無理やり付けられそうで……怖いのだ。
「ねえデュラハン。わたしと組まない?」
組むだと?
「組むも組まないも、四天王の一人として我らは仲間ではないか」
「そうよね。笑っちゃうよね」
笑ってる。笑える要素ってあったのだろうか。
「もしメイドカフェができても、直ぐに叩き潰してやるわ」
「……やり過ぎは禁物だぞ」
「分かってるわ。油断は禁物、男は金持つでしょ」
……ちょっと何言ってるのか分かんないや。
「ようデュラハン。結果はどうだったのだ」
柱の裏からソーサラモナーとサイクロプトロールもこっそり姿を現した。
「ああ……。さすがは魔王様。魔王城内すべてのモンスターは魔王様のためにお仕えする。それが常識だ。メイドも当然魔王様のために尽くす……」
魔王様のことが好きなのは、本来であれば決して悪いことではないのだ。
「そうか。ならば俺達もその常識に従わなくてはいけないな」
「そうだ」
「何かあったら手を貸すぞ」
「俺達は四天王なのだからな」
……。
「何かったらとか言うが、いったい何がある。何もないぞ」
サイクロプトロールとソーサラモナーも何かしらのうさん臭さに気付いているのだろう。
この私がメイドに口止めされていることにも……。
「まあ、これまで何度も一緒に戦ってきた仲じゃないか」
「そうそう。水臭いことは言いっこなしだ。いつでも手を貸してやるぜ」
「……」
すまない。そして、ありがとう戦友よ――。
食堂のメイドがいったい何を企んでいるのかは分からない。であれば、易々と魔王様を危険な目に合わせる訳にはいかない――。我ら四天王は、命をかけてでも魔王様を守る立場なのだ。
これまでも、これからもずっと――。
「ならば、魔王様に報告する役を……ジャンケンで決めないか」
一人はみんなのため、みんなは一人のためだ! 四天王は一致団結し、協力し合おうではないか!
「いやよ」
「それはデュラハンの役目だろ」
「そこは逃げるんじゃねーよ」
……やっぱりこいつら……頼りにならん――!
玉座の前で跪ずいた。
魔王様と二人だけの玉座の間は、広く感じる。というか……広い。中学校の体育館4コぶんくらいある。広いせいでぜんぜん空調が効かずに寒い。なぜ魔王様と私はいつもここにいなくてはならないのか……。
「あのー」
「デュラハンよ待ちわびたぞ。して、どうだった」
目をキラキラ輝かすのはやめて頂けませぬか……。
汗が額から顎にかけて……伝い落ちる。いや、落ちぬ。
「とりあえず……友達からと……言っていましたよ」
少し言葉を濁す。メイドの思い通りに事を進ませてはならない。戦況を把握し、作戦を練るためには時間が必要なのだ。
「そ、そうか。それってどういうことだ」
友達からで……察して欲しいぞ。
「うーん。三角?」
「三角!」
魔王様の目も三角になる。
「いや、半丸……バツではないけど丸でも……ないってところでしょうか」
苦しい、苦しいぞ。本人から直接聞いて下さいとも言えないし……心苦しいぞ。
「うーん。では、何としてもメイドカフェを作ってやらねばならぬな」
――なんでそうなるの――!
「友達以上、恋人未満ってことなのだろ。では、予が押しの一手を見せる、つまり優しく強いところをバーンと見せつけることが大事なのだろう」
――どこで調べたのか、その普通過ぎる攻略方法! ひょっとすると、誰かに入れ知恵されたのか。
「あ……のう……」
「どうした」
「……いえ、なんでも御座いません」
あのメイドは危険です――とは……口が裂けても言えなかった。
魔会議で多数決を取ると……メイドカフェの案件は通ってしまった。サッキュバスだけは最後まで反対意見を唱えていたが、男が全員賛成で過半数を超えた。
私は逆らう訳にはいかないのだ……魔王様に。
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