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11話 ベヒーモス


街を出て3時間ほど。

小さな森などを抜けた先に大きな平原があった。


草は長すぎず歩くには困らない程度。

ただ道があるわけではないので、馬車はここで一旦ストップだ。


「さて、ついたな。」


「あぁ。そうだねぇ。」


俺の声に、カケルが反応する。


「んじゃ行ってみるけど。どの辺なんだ?」


「この先少し行くとねぇ。平原には似合わない崖があるんだけど。そこを降りて行った先にあるのさ。」


「なるほど。」


2人で歩き出す。

ただ、黙っていても微妙なので、話しかけることにした。


「ところで、なんで花火師になったんだ?」


「なんでってねぇ。それが俺の職業だったからさ。そして俺の成し遂げたかったことだからさ。」


カケルが語りだす。


「俺の出身国は日京(ニッキョウ)。別名、和の国と言われていてね。そこはもともと迷い人が作った国って言われている。夏になるとそこでは祭りってのがあって、花火があがるんだ。」


日本人寄りな名前がしていたから気になっていたが、

迷い人の子孫たちなのだろうか。和の国というのもの気になる。



「俺にはねぇ。幼馴染が居たんだ。2つ下の女の子でねぇ。その子とはいつも祭りに行って花火を見に行ったもんだよ。毎年花火を見上げる彼女の顔がかわいくてねぇ。いつか俺がキレイなどでかい花火をあげるからって約束なんてもんもしていたよ。」


「それじゃ今はその子も喜んでるだろうね。花火師カケルは有名なんだろう?」


「あぁ。そうだといいねぇ。」


カケルの顔が暗くなる。

さっきカケルは幼馴染が”居た”と言っていた。

過去形だということに気づいてしまったのだ。


こちらが黙ったからか、カケルがこちらを見て悲しそうに笑いながらいった。


「彼女は死んだよ。俺たちが住んでいた街でテロがあったのさ。人口の半分が死んだよ。」


「そうか…。」


他に何も言えなかった。

2人とも黙ってしまった。


気まずいまま5分ほどあるくと崖が見えてきた。


「こっちだ。」

「あぁ。」

横道に入っていく。


少し降りて行ったところで。カケルが振り返り、立ち止まった。


「まぁあれだね。あんまり気にしなくていいよぉ。」


カケルがこちらを見据える。


「おかげで俺は自分でやるべきことを知ることができたから。」


花火師として大きな功績を残しているかれはやるべきことを知り成し遂げた結果だろう。


「あぁ。すまないな。」


その後、1時間ほど下に下りながら歩いたところ、曲がり角前で急にカケルが止まった。

合わせて俺も止まる。


「しっ。ここだ。この先にある。」


小さい声でカケルが話しかけてきた。


「分かった。」


俺も小さい声で返す。


「だが、ここから少しだけ顔を出してみてみろ。」


俺は言われた通りに、曲がり角の先に顔を半分のぞかせ、

奥を確かめる。


すると大きな毛の山があるのが見える。


「見えるか?あれがベヒーモスだ。」


「いや、毛の山しか見えないんだが…。」


「それがベヒーモスだ。」


「まじか…。」


俺のげんなりした顔に対し、カケルが返答する。


「あぁ。ベヒーモスというのは、大きな山のような獣だ。犬のような四足歩行の動物で頭に大きな角が2本。世界でも数体しかいないといわれている。」


「なんでそんなのがここにいるんだ?」


「理由は二つだ。」


カケルが指を2本立て、1つを折る。


「1つ目は、暮らしやすさ。ここは地中に深いため暖かい。それにこの奥にはダンジョンがあるとか金銀財宝があるとか色んな噂があるため、人間が良く来る。餌にも困らないのさ。基本寝ているから、あんまり食べなくても持つみたいだしな。」


「いや、普通に考えて命を捨てるためにこんなところに来るのはおかしくないか?」


「何を言ってるんだい。あんたも冒険者だろう?冒険者というのは、何よりも功績を求めるものじゃないか。だから冒険者としてのランクなんてもんにこだわるんだろう?」


カケルの発言に納得できない部分もあるが、

言い返すことはできない。

確かに、冒険者には成り上がろうとするものが多いのは事実である。


「2つ目は、出たくても出れない。」


「え?」


「ベヒーモスをいるのはさっき上で見た崖の下だ。だが、なぜベヒーモスは崖の下から出てこない?なぜ俺は上からベヒーモスを紹介しなかった?なぜ、こんな危ない魔物がいる場所から3時間ぽっちのところに一国の王都があると思う?」


確かに全体像が見えたほうがわかりやすいので上から見た説明を受けたほうがわかりやすかっただろう。

わざわざ、崖下に降りてきてから説明する理由はない。

危険な魔物の近くに王族がいるような王都を置く理由はない。


「上からみたら崖の下は何も見えないようになっている。ベヒーモスが上に出ようとすると見えない壁に阻まれる。ベヒーモスはこの崖下の空間から出られないのさ。」


「それはなんでなんだ?」


「100年ほど前?とか噂で聞いたが、まぁ噂は尾ひれ背びれがつくもんだ。噂程度に聞いてくれ。」


「あぁ。」


「この国のお偉いさんが昔迷い人で勇者とか呼ばれる人間を召喚したことがあるらしい。そいつはめちゃくちゃな強さで世界の戦乱を収めていったらしい。」


確かにこの世界に来た時にあった神様であるカリアも勇者が召喚されたりしていたと言っていた記憶がある。


「そいつらのパーティが国からの依頼でここに閉じ込めたって話だ。最初は情報すらも秘匿されてたって話だから怖いねぇ。」


「なるほどなぁ。」


「そうだね。んじゃこのベヒーモスをできる限り刺激しないようにして横を通って行こうか。」


そういうカケルの背を追い、二人で静かにベヒーモスの横を歩き出した。





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