7話 男に二言はない
俺は今パンイチで脱衣所の床に正座をしている。
目の前にいるのは、レティナとカシア。
それとカシアの後ろに隠れているのは先ほどの茶髪の女の子。
「さて、遺言があるなら聞こう。」
「いえ、ありません。不可抗力です。」
「そうか。死にたいと言っているなら死のうか。」
レティナが俺に質問しているのに、俺の回答を聞いていない。
「待ってくれ、本当に俺は何もしていない。ただ、風呂に入っていて、脱衣所から音が聞こえたから見に行っただけだ。」
「だが、セシア様がいない以上それが本当かはわからない。疑わしければ罰せよ。死ね。」
レティナがレイピアを抜く。
「待ってくれ、本当なんだ。」
俺が死ぬ気で弁明していると、
カシアの後ろにいる茶髪の女の子が声をだした。
「あの、その人は嘘をついてはいないと思います。」
レティナが止まる。
「確かに、私が確認しないで入っちゃったのが悪いんです。よく見るとこの部屋には彼の脱いだ服があります。私がその時に気づくべきでした。久々にカシアお姉ちゃんがきてくれたから、うれしかったのです。」
「カシアお姉ちゃん?」
女の子がカシアのことをお姉ちゃん呼びしている。
「あぁ。そうか。お前はわからないんだったな。彼女は、この国の唯一のお姫様。レイナ様だ。状況を理解したか?」
レティナがレイピアを構えたまま言う。
「申し訳ございませんでした。」
レイナ様にとりあえず土下座する。
「やめろ。動くな。レイナ様はあまり男性が得意ではない。急に動いたらびっくりするだろう。」
レティナが後出しで情報を出してくる。
「そういうのは先に言え!」
俺の暴言風な突っ込みが炸裂する。
ヒィというレイナ様の小さな悲鳴。
「すみません。あの服を着て、もっとソファとかの広いところで話しませんか。」
「まぁそうだな。いいだろう。行きますよ、レイナ様、カシア様。」
先に部屋をでる3人。
俺は服を着てから一呼吸おいてから脱衣所を出た。
★★★★★★
「先ほどは申し訳ありませんでした。」
全員が席についたところで俺の謝罪から始まる。
「いえ、私も中を確認せずに、入ってしまい申し訳ありませんでした。」
レイナが言う。
「なぜ、脱衣所にいたのかを教えていただけますか?」
「今回はカシアお姉ちゃんが来ていると聞いていたので、驚かそうと思った次第です。男性がお風呂に入っているなど考えもせず。申し訳ありません。」
レイナが恥ずかしそうに答える。
「待ってくれ、普通こういう時は風呂に入らないのか?」
「あぁ。一般的にはこういう時に風呂場を利用されるのは、貴族かその位以上の者だけだな。爵位を断っている貴様を除くと、今回入っている可能性があるのはカシア様くらいだろう。」
レティナが答えてくれた。
完全に俺が悪いと思う。
「本当に申し訳ありませんでした。」
俺がそういい、お互いにぺこぺこ。
落としどころが見つからない。
「もういいよ。アシナ。レイナもごめんね。」
カシアがまた割り込んでくれた。
リシアの着替えを除いてしまったときといい、
カシアは本当に気が回る。
「だけど、この件は王様には報告しないとならないから。覚悟は決めておいてね。」
「あ、はい。」
明日のほうが命日になりそうだ。
今日はそこで解散となった。
俺は一人ベッドで震えて寝た。
★★★★★★
「申し訳ありませんでした。」
次の日の夕方、ケルザの時間が空いたタイミングで私室を訪れ、
昨日の報告を行う。
ケルザとその横にレイナ姫。そしてその横には知らない青年がいる。
青年は兎に近い。
兎人だと思う。
「まぁ、聞いていた話だけを考えればレイナに問題があったように思える。」
ケルザはしっかりと理解をしてくれたようだ。
どこぞのシルファとかいう金髪王様とは大違いだ。
「申し訳ありません。」
再度謝る。
「レイナ次第だ。私からは何も言えん。」
そういうケルザ。俺は懇願するような目でレイナを見る。
「私は昨日も申し上げた通り、私の責だと思っていますので。」
これにて一件落着かと思ったところで、青年が声を出した。
「父上、これでは民に示しが付きません。即刻、この男を処刑すべきです。」
父上?子供は一人でレイナだけでは?
というよりいきなりしゃしゃり出てきて処刑とはいい御身分だな。
あ、ケルザの子供ならいい御身分で間違いないのか。
「言ったであろう。これはレイナの問題だ。文句があるならレイナを通すか正々堂々と正面から言いなさい。私を通すんじゃない。」
ケルザの声に青年がこちらを向き直る。
「おい。お前。」
「アシナです。」
「名前なんてどうでもいい。お前今すぐ俺と戦え。」
「遠慮します。」
「お前。許されると思っているのか。」
「レイナ様次第だと思っております。」
「おちょくっているのか。」
「おちょくっておりません。」
キレる青年と落ち着いた俺。
どんどんヒートアップしていく青年を見ていると逆に冷静になっていく。
「アシナ。戦ってあげなさい。そうしたら彼も満足するでしょう。」
後ろからカシアの声。
逃げ場を塞がれてしまった。
「俺が勝ったらどうするんだ?」
「お前が無実だと認めよう。」
「無実もくそもないんだが。」
「この国は武の国。強き者にこそ正義がある。」
「わかったわかった。なら、俺が負けたら俺が悪いということでいい。命でもかけてやろう。その代わり俺が勝ったら、お前の大事なものをもらう。いいな?」
そういうと青年は黙りこくってしまった。
大事なものが本当に大事なんだろうか。
青年とケルザの目が合う。
ケルザが青年をにらみつけている。
「わ…わかった。男に二言はない。」
どこの世界でも男に二言がないのは共通なのだろうか。
俺たちは、戦の場へ向かった。