6話 二つ名
城につき登城する。
今朝まではラフな服装をしていたカシアもしっかりとおめかししている。
正直こんなに変わるなんてドレスや化粧はすごいなと思う。
さて、これから向かう玉座の間だが。
何かあっても困るので、護衛が2名まで入っても良い。ということらしい。
といっても2人ついていたところで、軍勢が押し寄せてしまえばひとたまりもないと思うのだが、
一応政治的なあれらしい。
あれって言葉便利だよね。
要は、大人の事情ってことだ。
俺は知らない。
カシアはもっと年下だけど。
ということで、カシアについて行くのは、
レティナとライ…ではなく、レティナと俺になった。
「なんで俺なんだ?」
使用人について行き、
レビュナでも最近入ったばかりの玉座の間に向かっている最中で、
レティナとカシアに聞く。
「父様が言っていましたが、この国は武の国。強きものはそれだけで価値があります。」
「そういうことだ。憲兵のスーラがいただろう?あいつが私を見たときに黙り込んだのは、私に以前敗れているからだ。この国では強き者にこそ発言権がある。」
カシアがいい、レティナが続ける。
要は何かあった時に戦いの生贄にされるってことね。
理解したよ。
「分かったよ。」
と言っていたら、玉座の間についてしまった。
カシアを先頭に左後ろがレティナ、右後ろが俺で3人で入る。
さすがに国のトップレベル同士の対面。
お互いに頭を下げるようなことはしないようだ。
玉座には、
猫のような男性がいた。
種族的には、猫人ってやつだろう。
見た目は若い。
「よく来てくれた。カシア姫。それと護衛の方々。知っていると思うが私はケルザ。この国の王だ。」
「お久しぶりです。ケルザ様。」
カシアが挨拶を返す。
「この度は、私の一人娘であるレイナの成人の儀に来てくれてありがとう。感謝する。」
「いえ、私共レビュナとカリフォアは100年続く同盟国。その大事なご息女様の成人の儀。ぜひにとも参加させていただきたく思います。」
「そうだな。昨年のセシア姫の誕生パーティも素晴らしいものだった。」
「はい。妹もとても喜んでおりました。」
「そうかそうか。では、堅苦しいのはこの辺でやめよう。すでに乗ってきてもらった馬車は向かってもらったが、来賓用の館を用意させている。今日はそちらで休まれよ。」
「ありがとうございます。」
そうして、カシア、レティナ、俺は退室する。
だが、玉座の間を出るとカシアとレティナが止まってしまった。
「どうしたんだ?」
「ここまでは表向きの挨拶です。これからケルザ様の私室に向かいます。」
何か大人の事情があるんだろうな。
黙ってついて行くことにした。
使用人に連れてこられ、再度別のドアの前へ、
カシアがノックを2回する。
「入れ。」
先ほどの声が聞こえる。ケルザ様だ。
カシアに続き、レティナと部屋に入る。
あまり、シルファの私室と変わらない。
どこの王様もこんなもんなんだろうか。
「座ってくれ。」
カシアがソファに座る。
俺も横に座ってしまった。
レティナはカシアの後ろに立っている。
「あ。」
俺の汚い声が部屋に響く。
気づいたときには遅かったのだ。
「申し訳ございませんね。ケルザ様。この方は迷い人でして、私の護衛を今回お願いしているんです。」
「なるほど。初めて見る者だと思ったが、迷い人であったか。」
俺が急いで立とうとするが、カシアが裾をつかむ。
このままでよいということなのだろう。
黙って座っていることにした。
「して、なぜ迷い人がいるのだ?」
「彼はSランク冒険者です。そのため、私の護衛をお願いしました。」
「Sランク冒険者だと?だとすると『黒破』か?」
「はい。その『黒破』です。」
黒破とは何だろうか。
そう思っていたら、カシアが補足してくれた。
「そういえば、アシナには言っていませんでしたね。レティナの持つ「雷閃」のように、この世界では、国から二つ名を与えられることがあります。あなたは「黒破」。」
俺も二つ名持ちになってしまったようだ。
心の中二病が沸き上がるが抑え込む。
「カシア様。その黒破とは何をもってつけられたのですか?」
「黒き竜を破りし者。黒破です。」
「ありがとうございます。」
俺とカシアの会話が終わる。
「さて、『黒破』。いや先ほどアシナと呼ばれていたな。アシナ。頼みがある。」
「模擬戦でしたら丁重にお断りいたします。」
「んな…。」
頼みをしようとしたケルザ様が驚く。
だって俺は別に戦いたくて、護衛を申し出たわけではない。
カシアを無事に届けたかっただけなのだ。
「そうか。分かった。」
思ったよりあっけなく引いてくれた。
カシアのほうをちらっとみるも特に問題はなさそうだな。
「では、本題に入りますね。アシナ。ダンジョンで起きたことを話していただけますか?」
あ、それで俺がここにいるのか。
「承知しました。」
先日、シルファに行ったように、ダンジョンでの話をする。
死神などの情報を隠し、ヴェリアストの情報を伝える。
一通り話すと、カシアが引き継いでくれた。
「ということで、ケルザ様、この国にも、ヴェリアストのナンバー持ちがいるはずです。」
「なるほどなぁ。確かにそうだ。だが、今まで尻尾もつかませなかった奴らだ。この情報があっても何か動きを起こせはせんな。」
「えぇ。ですので、警戒だけは怠らないようにお願いいたします。」
「重々承知した。」
その後は、お互いの近況について話した。
ある程度話したところで、時間もいいところとお開きになる。
「では、続きは後日にでも。娘の誕生パーティは7日後だ。それまでは、自由に過ごしていてくれ。」
「かしこまりました。」
部屋を出て、城門に向かう。
あてがわれた馬車で、あてがわれた館に泊まる。
食事は、今までに食べたことのない豪勢なものだった。
さすがの姫様達と同じ食事だ。
ミゼリ達は、カシアと一緒に席に着くのを嫌がっていたが、
カシアが一言
「リシア姉様やセシアとは食べたのですよね?」
というと皆黙ってうなずき席についていた。
食事も終え、落ち着いた皆。
この家には、風呂がついているとのこと。
家に風呂がついているのなんて、こちらにきてからは入るのは初めてなので、
俺は喜んで一番風呂をもらった。
この世界には一番風呂という考え方はないらしい。
風呂場に入り身体を洗い流し、
湯舟に浸かる。
両手足を伸ばしてもまだ余裕がある湯舟。
この3週間の疲れをいやす。
「ふぅ~。疲れた。」
独り言を言いながら。目を閉じ。上を向く。
すると外からどたどたとあわただしい音が聞こえてきた。
脱衣所からだ。
何事だろうと立ち上がり、脱衣所に向かう。
ちょうどドア前に立ち、引き戸を開けようとしたとき。
ドアがピシャっと開いた。
入ってきたのは、茶色の髪のショートヘアの女の子。
頭には、猫耳がついている。
当然だが俺は裸だ。
「にゃあああああああああああああ」
脱衣所に女性の声が響く。
あぁ。俺死んだかも。