1話 実力と評価
4章に入りました。
俺が帰ってきてから、1か月ほどたった。
この1か月であったことをいろいろ振り返ろう。
まずは、俺がSランク冒険者になった。
黒竜の件、ダンジョンの件、ヴェリアストの件が評価されたとのことだった。
次に、カンナが10歳になった。
職業『神薙』に目覚めたカンナは、
神への交信と神の力の片鱗を操ることができる。
つまり死神である俺との、遠距離通信と俺の力の一部を使うことができるようだった。
『常闇』を使えば闇を発することができる。俺は無制限だが、カンナの場合は、半径30メートルほどだろうか。十分に使える。
『闇夜の友』を使うと俺から見ると完全に存在感をなくすことはできないが、ほかの人からみると完全に消えることができるみたいだ。
鎌を持てば絶対切断も持っているし、普通にその辺のBランク冒険者よりは強いかもしれない。
だが、本人は俺と連絡が取れるのを一番喜んでいた。
戦闘スキルはぶっちゃけどうでもいいらしい。
カンナらしいな。
次に、ミゼリ達のパーティがDランクにあがったらしい。
これは、王都では最速らしい。
オーザーという冒険者の先生がいるのが大きいのだろう。
最後に、リシアとセシアのほかにカシアも来るようになったことだ。
カシアは本が好きで、うちに来てもずっと本を読んでいる。
なぜ、うちに?と聞いても、なんとなくと言って濁される。
多分公務を放ってうちに遊びに来ているリシアとセシアがうらやましかったのではないかと予想する。
そんな一か月を過ごしていた俺だが、今日王城からの呼び出しがあった。
だが、いつものような呼び出しではない。
冒険者ギルドを通して、指名依頼としてだ。
つまりは公務。
今は城に向かって歩いている最中だ。
最近の俺の冒険者のスタイルは、
フードをかぶれば顔が隠れてしまうローブをフードをかぶらずに着て、
煉獄を背負って歩き回っている。
実際、鑑定されなきゃ死神なんてバレないし堂々としなさいというカンナの助言をもとにしている。
黒竜の件は城からお触れとして情報公開された。
冒険者アシナが黒竜を単独討伐。Sランクとして最速での昇格。
この情報を見た人間は2パターンの反応を示す。
1つ目は、黒竜を倒したなんてのは、嘘だろう。どうせ落ちてた鱗とかで武器を作って威張っている軟弱野郎が。
っていう反応を示すタイプ。
2つ目は、凄いと純粋に評価してくれるタイプ。
俺にとってはどっちでもよかった。
黒竜の死体のほとんどは国に売ってしまっているので、討伐証明ができるものはない。
だが、俺が黒竜を倒したときの話をするとどうしても死神の絶対切断の話をしなければならない。
信じられないならそれはそれでいいのだ。
信じてくれるタイプならば、それはそれで、話す必要はないので別に構わない。
城に付き、門番に話しかけ、受付を済ませる。
Sランクのギルドカードを見せると一瞬だ。
門を通りぬけると案内がいた。
今日の案内はライだ。
「今日は珍しく姫様を侍らせてないんですね。」
ライが話しかけてくる。
「人聞きの悪いことを言うな。俺は侍らせていない。」
「でも、いつもリシア様かセシア様を腕に絡ませて歩いてますよね。」
「それは誤解だ。」
「どこが誤解なんですかね。リシア様やセシア様を泣かさないであげてくださいね。」
「どっちかが泣くことになったらお前がもらってあげればいいだろ?」
「え?」
「え?」
気まずい沈黙。
俺は空気をよくしようと話しかける。
「やっぱり、身分差とかってあるのか?」
ライにそういうが、ライは黙っている。
「おい、どうした?ライ。」
「もういいです。行きますよ。」
テンションが下がり切ったライが、歩き出した。
俺はライの後ろをついて歩いていく。
何を間違ったのだろうか。
今回は初めて玉座の間に通されるといわれた。
「ここです。」
ライが言う。
「ライ、この後どうしたらいいんだ?」
「このあとのことは、ほかの者が来ますので、その人に聞いてください。」
「あ、あぁわかった。」
厳しいライの反応にそれ以上聞けなかった。
ライがいなくなる。
ぼーっと待っていると、
急に横から裾を引っ張られた。
横を見るとカシアがいた。
「お、カシア。おはよう。」
「おはよ。」
もしかして、カシアがこの後の動きを知っているんだろうか。
「カシア。このあとのことわからないんだが、何すればいいか知ってるか?」
「うん。いく。」
カシアが言うと俺の手を引っ張りながら玉座の間に入っていった。
玉座の間に入った俺は、圧倒された。
物凄く広い。
天井も見上げるほど高い。
そんな広間だが、左右に偉そうな恰好をした貴族っぽい人たちが立っている。
俺が歩いているのは、レッドカーペット。
玉座に座っているシルファに向かって一直線に伸びている。
カシアと一緒に歩いてシルファの前まで行く。
「父様、冒険者アシナを連れてまいりました。」
「うむ。」
カシアが報告するとシルファまじめな声で対応した。
真面目なシルファに、少し笑ってしまいそうだった。
「冒険者アシナよ。この度は指名依頼という形だが、依頼の内容を聞きに来てくれてありがとう礼を言う。」
こういうときは反応したほうが良いのかわからない。
だが、膝もついていないのでそのままでもいいだろう。
「さて、では依頼の内容について詳細を話そうと思う。」
冒険者ギルドで聞いたときは、
指名依頼は外部に話せない内容が多いので、直接貴族や王族から話があるとのこと。
だが、俺は王族との絡みが強いので、
貴族も依頼が出せないように絞られているとシルファが言っていた。
「はい。」
「だが、その前に。残念なことに、ここにいるもの全てがお前を認めているわけではないようだ。」
多分俺が、黒竜を倒したと信じていない連中が貴族にもいるということだろう。
「はい。」
「今回の依頼はお前をこの国の代表の一人として連れていくことになる。
そのため、お前がこの国の人間に認められなければならない。わかるな?」
「はい。」
呼び出しておいて、認められてないだのなんだよ。
と少しカチンときたが、理由があるのだろう。
素直に応じる。
「そこでだ。こちらで用意した人間と模擬戦をしてもらう。」
「わかりました。」
「よしよし。では、ランスル卿あとは任せたぞ。」
すると横に並んでいる貴族達の一人が、前に出てきた。
如何にもな金持ち雰囲気を漂わせている。
体系はふっくら。裕福を感じさせる。
「私は、ランスルという。正直に言って私はお前が黒竜を討伐したとは信じておらん。その大きな鎌もどこぞで黒竜の素材を拾って作っているだけだと思っている。」
にやにやしながら言ってくる。
「私の息子と一戦戦ってもらおう。もちろん殺しは無しだ。
また、武器の差があっては困るからな。お前にはその背中の武器を使うことを禁ずる。」
「わかりました。」
「ついでに、もしもお前が負けたら、この鎌はわしがもらう。」
思わず、シルファの顔を見る。
シルファも申し訳なさそうな顔をしているが、何か理由があるんだろう。
「では、私が買ったら何をいただけますか?」
「なぜ私がお前にものをやらねばならぬのだ?」
「冒険者の魂ともいえる武器をかけねばならないのに、貴族様であるあなたは何も提示できないのでしょうか。」
ランスル卿が顔を真っ赤にしている。
「分かった。好きな物をやろう。家でも金でも私の娘でも何でもだ。」
「シルファ王様、よろしいでしょうか?」
「あぁ。構わん。私が聞き届けた。」
シルファがそういう。
さて、なめてくれている貴族様にお灸をすえなければな。