9章 スタンピード
常闇を解除する。
周りを見渡すと、水晶を持った爺さんがこちらを見ていた。
「フォッフォッフォ。ロストは死んだかね。」
「あぁ。あとは爺さん一人だぞ。」
「まぁ確かにそうじゃな。だがまぁ忘れてもらっては困るんじゃよ。ここはダンジョン。ダンジョンマスターが地の利では有利じゃよ。」
「ここまできたら何も怖くはないぞ。」
「フォッフォッフォ。そうかい。そうかい。いいことじゃな。それじゃこいつらと戦ってもらおう。」
周りにはスケルトン集団が現れた。
だがレベルで考えても50がいいところだ。
俺を足止めするにはそんなに持たない。
「こんな雑魚でどうするつもりだ?」
俺が聞き、爺さんは答える。
「戦えばわかる。」
そういうとスケルトンたちが襲ってきた。
あまりにも遅い。
ロストとの闘いで感覚が研ぎ澄まされている今。
あまりにもスケルトンの攻撃が遅すぎるのだ。
右から左から上から後ろから
全てのスケルトンを高速で切る。
10体…20体…こんなの数ではない。
周りのスケルトンを蹴散らしながら、
爺さんとの距離詰める。
だが、爺さんは逃げようともしない。
「もらった。」
鎌を振りかぶる。
するとその間に何かが割り込んだ。
目が合う。
俺はぎりぎりで鎌を止めた。
「おや、どうした小僧。わしを斬らんのかね。彼女と共に。」
「これはどういうことだ。」
怒りで震える。
俺の目の前には13階で別れたはずのラーナがいた。
身体は矢が貫通したまま、つまり、欠損が見られる。
彼女で間違いはないのだ。
「どういうこと?わからんのかね?だとすれば死神殿もあまり状況分析は得意ではないようじゃのう。」
爺さんが煽ってくる。
「では、教えてやろうかのう。彼女は13階でお主が看取ったラーナ嬢の死体じゃよ。正真正銘のな。ところでこのダンジョンがなんて呼ばれているか知っておるかね。ここは『不死』のダンジョン。アンデット系が多くでる魔物じゃよ。」
当たり前のように爺さんはいってくる。
「アンデットにはのう。死体を操るタイプがいる。そんな能力は見せれなかったが、先ほどのエルダーリッチもそのたぐいじゃのう。ここはダンジョン。わしの匙加減でそんな魔物も作れるというわけじゃ。ほれ、後ろをみてみい。」
後ろを見るとそこにはサティの死体がこちらに向かって歩いてきていた。
首はくっついている。
前にはラーナ、後ろにサティ。
だが彼女たちを解放する術がある。
「こいつらを操っている魔物を倒せばいい」
俺はそういい回りを見渡す。
だがどこをみてもいるのはスケルトンだけだ。
「フォッフォッフォ、確かに操っている魔物を倒せば助けることができるぞい。がんばりたまえ。」
そういうと爺さんはラーナを盾に後ろに隠れた。サティが弓を俺に射ってくる。
「生前のスキルまで使えるのか!」
弓を交わす。勢いよくそのままラーナの身体に刺さってしまった。
唇をぐっと噛む、唇が切れてしまった。
俺の中での闇が膨れる。
死体を弄ぶこいつらを根絶やしにしなければ。
殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。
復讐の炎が身体の奥底で燃え上がる。
ドクン。
煉獄がまた脈打つ。
俺が我を失いそうになると反応してくれているのか。
皆の顔が頭に浮かぶ。
確かにそうだな。俺が帰るのを待ってくれている人がいる。
俺が帰らないと路頭に迷う皆もいる。
俺が抱えているのは俺の命だけじゃないんだ。
煉獄を頭の上で回転させる。
「どうした。小僧。ほれ、がんばれ、がんばれ。ラーナ嬢、サティ嬢を操っている魔物は確かに存在するぞ。」
俺は頭の上で回転させていた煉獄のスピードを上げる。
煉獄が反応するように黒い炎を纏いだした。
ぐるぐるぐるぐる。
周りを燃やし尽くす黒竜の炎だ。
俺はこの鎌の持ち主だからか全く熱くない。
「小僧。お主何をするつもりなんじゃ。」
「何をするって?この部屋ごと全てを燃やし尽くす。ラーナだってサティだってこんなところで魔物に操られるくらいなら、許してくれるさ。許してくれなくても俺は言うよ。俺は『死神』だ。と。」
死神は皆から嫌われる存在だ。
許してなんかくれなくても構わない。
死神が死を下す。
そんなのは当たり前だ。
俺は煉獄を地面に突き刺す。
「じゃあな。爺さん。『黒炎陣:闇龍』」
黒炎陣は『黒炎鎌』煉獄の武器スキルだ。
ソネストアでいう、レジェンダリーレベルの装備には武器自体に武具スキルがついている。
地面から黒い炎でできた龍が出来上がる。それは高く飛び上がると地面に向かって真っすぐぶつかった。本来であれば対象に対して噛みついて行く技だろうが、今回は敵を絞ったわけではない。全体的に燃やすように地面にぶつかったようだ。
周りを燃やしつくしていく。
残ったのは俺と…。爺さんだった。
「まだ生きていたか。」
しぶとい爺さんだ。
ダンジョンマスターの力で目の前の地面から壁を錬成したようだ。
だが、熱波は防ぎきれなかったようだ。
全身が爛れている。
爺さんの頭の上にはラーナのようにカウントダウンが始まった。
どうやら、このカウントダウンは、絶対にもう死ぬことが確定した人間の頭の上にでる最後の秒読みのようだ。
10…9…8…0。
「爺さんも死んだか。これで一件落着かな。」
そういうと俺の目の前にはダンジョンコアが転がってきた。
手に持つ。
すると、ダンジョンコアが話しかけてきた。
「あなたが新しいマスターとなります。」
どうやらダンジョンマスターにさせられそうだ。
「なる気はない。」
俺は返答する。
だが、少し気になったことがある。
ダンジョンコアを持って各階層の状況を見るように念じる。
「んな…。」
すでにスタンピードは起こり始めている。
10層くらいまでの魔物が外にでている。
まだそんなに強い魔物達は出ていない。
どうしたらいいんだ。
「ダンジョンコア。魔物を止めろ」
命じてみる。
「あなたは、ダンジョンマスターではありません。そのためその権限がありません。」
「ならダンジョンマスターにでもなんでもなってやる。だからスタンピードを止めろ。」
「あなたはダンジョンマスターにならないと宣言されました。そのため権利を持っていません。」
「ふざけんな。」
このままではまずい。
俺はダンジョンコアを見る。
こいつがすべての現況であれば、破壊するのはどうだろうか。
ダンジョンコアを左手に持ち、鎌で一閃。切断する。
ダンジョンが暗くなる。
そしてダンジョンが崩壊しはじめた。
「まじかよ。」
ここは70層。助かる方法は浮かばない。
俺は目をつぶった。




