4話 職業
俺はボタンを離し、ラーナに駆け寄りながら後ろを振り返る。
そこには笑顔のサティがいた。
「どういうことだ。」
俺はサティに問いかける。
「どういうこと?見てわかんないかい?」
サティが答える。
先ほどとは別人のようだ。
今までのような優しそうな雰囲気は消え去り、すべてが憎いような顔をしている。
「何が目的だ。」
俺は鎌を構えながら聞く。
このまま放っておくとラーナはあと10分も持たないだろう。
「目的?私の目的は昔からの幼馴染で、大親友で、大好きで、大切な仲間で、そして大嫌いなラーナを殺そうとしてるのさ。」
サティが再度弓を射ってくる。
俺はその弓を鎌でたたき落とした。
「なんでだ?どうしてだ?」
俺は再度聞く。
サティが語りだす。
「むかーしむかーしあるところに、友達と二人でずっと生きてきた女の子がいました。その子は、ほかに友達もいなく、いつもその友達と一緒でした。何をするにしても一緒。女の子は友人がとても大好きでした。大人になってからも女の子と友達はずっと一緒でした。冒険者になるのも一緒。寝るのも起きるのも、何もかも。」
こういうのはだいたい、しゃべらせている間に切りかかるにかかる。
鎌を持ち直し走り出そうとする。
するとぎろりとサティがこちらを見る。
「だが、その友達はあろうことに二人きりの世界に他所者を入れたんだ。パーティは多いほうがいいという理由で、アサシンとガーディアンの二人をねぇ。私は許せなかった。」
「そんなある日私は外を歩いていたんだ。すると、とある男が話しかけてきた。私はついて行ったんだ。彼は格好良く暖かい温もりで私を温めてくれた。そして私は彼に抱かれた。この世のものとは思えない感覚だった。」
狂っている。そう言わざるを得ないだろう。
2人の世界に他所者が入ってきたから殺すだなんて。
「彼は、『ヴェリアスト』という集団にいる人でね。たくさん教えてくれたよ。この世界のことを。」
「この世界のこと?」
「あぁそうさ。この世界は今終わりに向かっているんだよ。私達増え続ける人間のせいでね。終わりがくるとこの大地そのものが消え去っちまう。だからこそ私達は人間を減らすのさ。最後は0を目指す。美しい世界の浄化さ。」
まさかここでヴェリアストのことを聞くとは思わなかった。
「どうやって人間を減らすんだ。」
何でもいい。何か情報を得るんだ。
「そんなもん。なんで私が教えてやらなきゃならないんだ。『連速弓』」
再度弓を射ってくる。高速で何度も何度も。
リシアの槍よりは1撃が重くないしそこまで速くはないので、ガードしきれるだろう。
スキル無しで両手剣で力任せに全てたたき落としていく。
「ふ~んやるじゃないかい。まぁ、ここであんたたちがどんだけがんばろうと。私達がこうやっている間にも彼が今このダンジョンの最下層に向かっている。彼がこのダンジョンの最下層に付いた時。王都は終わりだ。」
「何?どういうことだ。」
「普通に考えたら、教えてもらえるわけがないだろ。そんなこと聞くかい?ば~か。まぁただ、あんたたちじゃ最下層に届かないとは思うから教えてあげるよ。ここは12層。このダンジョンの最下層は70層だよ。化け物がうろうろうろついている。そこでとある作業をしているってわけさ。」
サティの情報はありがたい。
「さて、それで私がラーナを殺そうとした理由だったね。単純にさっき言ったとおりだよ。どうせだれかに殺されるくらいなら、私が殺してやりたかった。ただそれだけさ。」
サティが走りだし、壁に触れる。
何事かと身構えると、俺とラーナの下の床が開いた。
落とし穴だ。
「さぁて、ばいばい。おバカさんたち。これであんたたちも終わりだよ。ラーナ。あんたと生きるのも楽しかったよ。でも私を裏切ったのは許さない。悔い改めな。」
その言葉を聞きながら俺たちは、落ちていった。
俺は急いで武器を両手剣から鎌に変更した。
★★★★★★
地面が見えてくる。
ラーナを片手で抱きながら、鎌刃を地面に向けさけぶ。
「調鎌!」
鎌先を地面にさし勢いを殺す。
少しずつ鎌の長さを調節していき地面に降り立つ。
「ラーナ。大丈夫か。」
ポーションを用意する。
「いや、私はもうだめさね。」
「あきらめるな。」
ポーションを口元に持っていく。
ラーナが飲もうとするが血を吐いてしまい全然ポーションが飲めない。
ズキン
頭に痛みが走った。
ラーナを見るとラーナの頭の上に数字が見える。
少しずつ減っている。
10…9…8…
「ラーナ!諦めるな。飲むんだ。」
ハイポーションを差し出す。
無理やりにでも飲ませようとする。
口に入れようとするが、手で止められた。
「私はもうだめさね。少しの間だったけど楽しかったよ。あの子のこと。頼むね。」
ラーナが目を閉じる。
3…2…1…
「ラーナ」
俺の声が虚しく響いた。
そしてラーナは二度と目を開けなかった。
「ラーナ…」
憎い…憎い…憎い…憎い…憎い…憎い…憎い…憎い…憎い…憎い…憎い…憎い…憎い…憎い…憎い…憎い…憎い…憎い…憎い…憎い…憎い…憎い…憎い…憎い…。
負の感情が俺を支配する。
『ヴェリアスト』が憎い。
サティが憎い。
俺は鎌を地面に向けて振る。
絶対切断の力で床が切れる。
即席の落とし穴だ。
「俺はやつらを許さない。」
このまま最下層に行き、ヴェリアスト達を根絶やしにする。
俺は落とし穴に飛び込む。
すると白い光が俺を満たした。
目を開けると何もない白い世界。
ここはカリア様がいた世界と同じ?か別だが似た世界だ。
急に頭に声が聞こえてきた。
『やっと目が覚めたようだな。』
後ろを振り返る。
そこには…俺がいた。
黒いローブに黒い大鎌「煉獄」を持っている。
顔は隠れているが間違いなくこいつは俺だ。
「どういうことだ。目が覚めたとはなんなんだ。」
『どういうことだって?お前は、死神とはなんだかわかっているのか。』
「死神とは職業だろう?ゲームの世界であるような。」
『だからお前は甘いんだよ。この世界はゲームじゃない。この世界における職業。それはその人間の根本だ。』
『人を守りたい。そんな思いがあるやつがガーディアンになる。そんな思いが強いから王はガーディアンの上位職である聖騎士になった。それでお前はどうだ?お前は死神なんだよ。この世界においてはな。』
「俺は死を司る神なんかじゃない。俺は人だ。人を殺したりはしない。」
『本当にそうか?少し前を思い出せ。お前はどうして最下層を目指そうとしたんだ?』
確かに俺は負の感情のコントロールされていた。
間違いなく俺はヴェリアスト共を根絶やしにしようとしていた。
「だが、俺は平和な世界を作るためにやつらを…。」
『本当か?では、やつらを根絶やしにしたら、お前はどうするんだ?この何もない世界で自分の根本を偽って生きていくのか?どうせ我慢できない。お前は日本に戻ることもできないんだ。ずっとこの世界で生きていく。お前はこの世界においては死神なんだよ。』
「俺はそんなものになるつもりはない。」
『まぁ構わないさ。だが、お前が自分を見失うと一歩ずつ自分の深層に支配されていく。死神に近づいていくんだ。せいぜいがんばりな。』
「まて、もしかしてヴェリアストの言う、大地そのものが消えるというのは俺のことなのか。」
スゥーっと光が引く。
『それは別物だ。せいぜい頑張りな。』
頭の中にそんな声が響く。
目が覚める。
次の地面が見えてきた。
14層だ。
「だが、俺はこの世界のためにもヴェリアストと戦いたいんだ。俺の家族や、この国、この世界の人々を守るために。」
拳を握り締め俺はそう言った。




