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なやみごと1「多多良良々の決断」

言いたいことや伝えたいメッセージなどは特にありません。

オールフィクションですから。

 時々、自分が何処に立っているのかわからなくなる。頭ではちゃんと何処に立っているかはわかっている。おかしな話だ。物質的にいえば、彼は確かにここに立っている。でも、なんだかとてもふわふわしてしまって、自分が宙に浮いているような感覚になる時があるんだ。それは、目的もなく散歩をしているような、目標もなく部活動に勤しむような、そんな感覚に似ている。


 大学一年生の多多良良々(たたらよしよし)は週に二回、塾講師のアルバイトをしている。秋の始まりの9月中旬、通塾指導の最中にまた、例のふわふわした感覚に襲われた。多いときでは一日に五回、少なくても二回はこの感覚に襲われる。初めてこの感覚に襲われたのは、忘れもしない三ヶ月前。6月の初めのことだった。

 自宅で英語の課題を淡々とこなしていた多多良は、ふと目の前がねじ曲がったような気がした。勉強用デスクに確かに座っていたはずなのに、気がつくとそこは妙に懐かしい匂いのする場所だった。過去現在未来の自分がただそこに存在している。そんな匂い。家族の誰に話してもわかってはくれなかったけど、彼は確かにそう思った。きっと何かの間違いだろうとか、そんなことは微塵も感じなかった。彼に確信させる何かが、それにはあった。

「多多良先生、そろそろ授業の時間ですから準備してください。」

この教室の塾長。一番偉い上司からの言葉で、ふと我に返る。わかりましたと返した後、塾長と入れ替わる形で教室に入った。

 いつもどおりの生徒といつもどおりの授業をこなす。彼の仕事はそれだけだ。詳しく言えばそうではないけれど、ほかはテストの丸付けだったり教室の掃除などの雑務のみなので、お給料の殆どは授業に対して払われている。

「ここは、三平方の定理の応用問題だね…。」

淡々と予習しておいた箇所の説明をする。体に合わない椅子に腰は痛み、話し続けて喉は摩耗する。

彼は最近思うことがある。自分のやっていることに、意味があるのだろうか。これは多多良の持論であって、データを見たであるとかそういった話ではないのだが、おそらくアルバイト塾講師の受け持った生徒の成績は伸びが悪い。アルバイトである多多良の生徒がそうなのだ。彼の授業を受け始めてから二回目の定期試験が終わり、帰ってきた結果には驚かされた。今まで保ってきていた成績が、グンと落ち込んでいるではないか。彼が受け持つ数学科目だけではなかったのが不思議だったが。

自分には塾講師が向いていないんじゃないかと思い始めたのと、ふわふわした感覚が体を襲い始めたのと、タイミングが同じなのは、きっとそういうことだろう。相談相手も居ない多多良は、どうしようかと迷った挙げ句、少しの間勉学もお仕事も暇を頂いて旅に出ようと決心した。何処か遠くに逃げてしまえば、あの懐かしい匂いの正体を明かすきっかけぐらいはつかめるだろうと思っていた。

何処へ行こうかな。多多良良々の顔は、何処か十歳ほど幼く見える。

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