ショートショート
「ねぇ、ちょっとゲームしてみない?」
最大300人収容できると言う大講堂の前列に座り学問への熱意を視線からビームのようにして教授に発する秀才達とも、後列に女友達をはべらかして何もかもに余裕を発しているかのような勝ち組大学生とも違い、中途半端の頭文字を取った中列に座り、ただ黒板に掛かれた情報を理解もせずA4の紙に転送するアナログ板書機械に化して約一時間。
自我と集中力が失われた、空いたスペースに眠気が「ここ入って良いですか?」と御伺いを立ててきた頃、隣に座るAが同じく眠気を醒ますためだろうか、俺にしか聞こえないような声で話し掛けてきた。
「ゲームってどんな?」教授の口から流れる催眠音波に打ち勝つ方法を模索していた俺はAの誘いに乗ることにした。
「ルールは簡単さ。今キミの目の前にある何か1つを選んでソレの長さと僕のチンコの長さを比べるのさ。もしキミの選んだものが僕のチンコより長かったらキミの勝ち。僕が持っている物なんでもキミにあげるよ。でも僕が勝ったら君はその選んだものを僕にくれなきゃいけない。どう?簡単でしょ?」
我々が後列に座れていないのはこういう提案をし、そしてそれを少しでも面白いと思ってしまうからだろう。
Aのルールを聞いてすぐに俺は自分の手に持っているシャープペンシルが目についた。
「これでも良いの?」
「質問は無し。選んだもので一発勝負だからね」
そう言うとAは俺が何を選ぶかニッコリ笑いながら待っている。
コイツ負けたら自分の持っている何でもくれると言っていた。もし腕時計や財布と言ったらそれもくれるのだろうか?
いやいやこんなしょうもないゲームでそんな高価なもの要求するとこっちがユーモアの効かない奴だと思われてしまう。せいぜい後でアイスでも奢ってもらうとしよう。
おそらくAは自分のイチモツが大きいことも併せてお知らせしたいのだろう。だとすればここで負けてアイツのイチモツのデかさを自慢されるのも不愉快だ。だからといって圧勝出来るような、例えばこのレジュメを挟んであるバインダーなんかを出しても遊び心がないと思われてしまう。
負けたときに獲られても良いもので成人男性のチンコよりちょっとだけ大きいもの。そう言えば一緒に銭湯に行ったことはあったけどコイツのチンコは見てないなぁ。
そして通常時の大きさと比べるのだろうか?それとも勃起時?
「なぁどの状態の大きさの時と比べるんだ?」
「それも質問は無し。さぁ早く選んでよ。」
うーん、くだらない勝負のわりに意外と考えさせられる。お陰で眠気はスッキリさめている。
俺は何か良いものがなかったかと筆箱のなかを漁ろうとした。するとAが遮るように言った。
「ダメダメ、今キミの目の前にあるモノから選ばないと。対象はこのゲームを受け入れた時点でキミの目に映る範囲内に有るものだからね。」
筆箱の中にスティックのりがあり、それが程よいサイズかと思ったがそれが使えないとなると今目の前にある手頃なものと言えばこのシャープペンシルか消しゴムだけだ。
消しゴムは流石に勝負にならなさそうだがシャープペンシルもまた圧勝してしまうだろう。
Aはシャープペンシルと消しゴムで迷うだろうと言うことを見越して「目の前にあるモノ」と言うルールを生かして男性器の大きさに程よく近いモノを見つけてごらん?と試してきているのだろうか?
だとすれば少しめんどくさい。このゲームを盛り上げる最適な答えがあるのかも知れないが俺はシャープペンシルで勝負に出ることにした。
「じゃあこのシャープペンシルで」
「ホントにそれで良いんだね?もし僕が勝ってたらそのシャープペンシルは貰っちゃうよ?」
「いいよ。その代わり俺が勝ってたらスーパーカップ奢れよな」
「そんなのでいいの?腕時計でも財布でも何でもあげようと思ってたのに。まぁいいや。勝負は僕の勝ちだよ。ホラ」
そう言うとAは机のしたを指差した。
私が机の縁とAの腹の間の空間を見るといつの間にかAのズボンは開かれ、そこには確かにシャープペンシルよりも少し長いチンコが私を見上げていた。
平常時だろうか?勃起しているのだろうか?と考えていた私にAはこう言った。
「じゃあこのシャープペンシルは貰うね。でもここで追加ルール。もしこのシャープペンシルを取り戻したかったら別の人呼んで来てその人と僕を勝負させるんだ。もしその人が勝ったらその人にこのシャープペンシルを取り戻させれば良い。但し僕が勝負をするのは一人一回だけ。つまり君はもう勝負できないんだ。」
「分かった。じゃあ他の奴誘ってみるよ。でももう俺はお前のチンコの大きさ知っちゃってるからお前の方が不利なんじゃない?」
「そうかな?チンコは大きくなるんだよ?」
授業が終わり次の教室へと移動する間に俺は別の友人にさっきの勝負の話をした。すると友人は面白がって乗ってきた。
友人は15cm物差しを机の上に置いた状態でAにゲームを仕掛けた。
さっきのシャープペンシルがおおよそ10cm 。
物差しならおそらく勝てるだろうと思ったが
「勝負は僕の勝ちだよ、ホラ」
我々が見たAのチンコは物差しよりも少し長かった。
その後俺はAに次々と刺客を差し向けたがどれもことごとく打ち破られてしまった。
「勝負は僕の勝ちだよ、ホラ」
現金とカードの入った財布を奪れたもの、キーチェーンを奪われたせいでクルマと家を失った者、恥ずかしいポエムや日記を書いた手帳を獲られてしまった者までいた。
Aはどんなモノを出されてもそれよりも少し上回る長さのチンコを出して涼しい顔をして勝っていった。そのうちAはとてつもない巨根を持つと言う噂を聞きつけた女からもモテるようになった。
ついには外国からも挑戦者があらわれるようになった。
西暦20XX年、人類は国家間の小競合いを止め世界が1つとなって国際宇宙機関を結成した。健康なものは皆汗と知恵を振り絞り、大富豪たちも私財を惜しみ無く投じ、人類初の月へと続くエレベーターを完成させた。
完成披露の式典で合衆国大統領が祝いの言葉を述べるため全世界が注目するなか壇上に上がりマイクを手にこう言った。
「勝負は僕の勝ちだよ、ホラ」
ロングロングやん!ってつっこんでほしいです。