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聖女伝説の始り

 サクラの能力が場所を固定する必要があることは、大きな情報で、今まで王の執務室での情報が筒抜けだったことが確定しました。


 王はすぐさま秘密の場所をつくりあげるだろうし、この力をつかってゴルトレス帝国の正確な情報をプレスペル皇国が掴んでいるだろうと予測できます。


 プレスペル皇国との同盟の価値が高まったと言えるし、またこの情報がすぐにレイやウィンディア王国に知られたことも皇国は掴んでいることも間違いないでしょう。


 私が出来ることはひとつしかない。

 私はレイを見つめると、しっかりとした声で言い切りました。


「王国がサクラの力を望むなら、皇国には私の力を分け与えなければなりませんね」


「話が早くて助かるよ、ナナ。アイオロス王もその考えだ。君はこれから困難な道を歩むことになる」


「自分のまいた種です。自分で刈り取ります」


 いよいよナナは、その力を余すことなく人前に晒すことになるのだった。



 

 レティシア王女による癒しの秘儀は、皇都の大神殿で3日間にわたって、おこなわれることになりました。


 プレスペル皇国とウィンディア王国の同盟を祝福して、ウィンディア王国の秘された姫君が、そのベールを脱ぐのです


 その姫君は、煌くような金髪と霊力によって青にも赤にも変化する神秘の菫色の瞳を持っており、その容姿は可憐そのもの。御年わずか12歳の天使のような姫だというから驚きです。


 ウィンデアの聖なる姫は、この世のあらゆる病やケガを癒す力を持っており、大昔に欠損した手足でさえ、元に戻せるというから、奇跡の姫とはレティシア王女のためにあると言ってよいでしょう。


 このような噂話があっというまに皇都に広まり、聖なる姫が本当にすべての病や欠損を治療することができるかどうかという賭けまで行われているありさまです。




 先ほどからセーラを相手にナナは延々と愚痴をこぼしています。

 セーラ皇女は外見の華やかさに反して、とても心優しく細やかな気遣いのできる少女なのです。


 「ひどいよね、聖なる姫、可憐な姫、神の御使い。どーやったらこんなキャッチコピーが作れるのよ。人間きっと恥ずかしくても死ねると思うわ!」


「まぁまぁレティ、それより癒しのご褒美に街に繰り出すこと、お父様にお願いしたら、初日の2時間だけだけど、何とか許可がおりたわよ」


「ほんとうセーラ!嬉しい。私、街歩きって霊山からこの地におりたほんの少しの間だけなの。しかも屋台で買い食いする暇も与えて貰えなかったんですからね」


「買い食いってレティ、食事ならお城でも食べられるじゃない」


「違うのよ、屋台ってそれだけでワクワクするんだから。きっとセーラも気に入るわよ。だけどたった2時間なの。けちんぼだね」


「同感よレティ、女の子の買い物にどれくらい時間がかるかわからない朴念仁ばかりよね。それでね、お揃いはアンクレットにしない?他のだと私たちいつも身に着けることができないもの」


「それって、すごい良いアイデアだわセーラ。それならずっとお揃いで付けてられるわね。楽しみねぇ。街に行くの」


 皇国が国の威信をかけて入念に準備している大神殿の秘儀よりも、よっぽど街歩きの方が大事だと思っているセーラとナナの姿がそこにありました。




 いよいよ大神殿で秘儀が執り行われる日がやってきました。秘儀が行われる3日間は、皇国はお祭り騒ぎで、大勢の人がやってくるのをあてこんで、屋台を開くものやら、旅芸人、なにか儲け話にありつこうとするものまで集まっています。


 秘儀を受ける本人と、介護者しか入れないようにしても、初日には入場できない人が続出し、皇国は入場予約券を発行しましたがその結果初日にすべての予約は埋まってしまいました。


 そこで予約券を求める人々に対し、皇国では5都市で3日ずつ、計15日間秘儀を開催することを約束して、騒ぎの鎮静化を図ることになったほどです。


大聖堂では、開催初日に入場できた運の良い人々が、いまや遅しと奇跡がおきる瞬間を待ちかねていました。


 パイプオルガンの荘厳な演奏にあわせて、この日のために練習を重ねてきた聖歌隊が見事な歌声を披露すると、つづいて教皇自ら、プレジデント皇国とウィンディア王国との同盟を寿ぎます。


 壇上に柔らかな光が差し込むと同時に、身体全体を薄いベールで覆われた少女が、闇の中から突然その姿をあらわしました。


 少女は純白のローブをその華奢な身に纏い 壇上に広がるベールには、美しい縫い取りが金糸で彩られています。

 

 少女がどこからともなくフルートをとりだすと、たおやかに豊かな音色を奏で、そのフルートの音色にあわせて、金色の光の粒子が、大聖堂中に広がってゆくのです。


 金色の光に包み込まれた人々は、身体中が暖かで穏やかな、まるで母親の胎内にいたころのような安心感に包まれていきました。


 やがてゆるやかにフルートの音色が止まると。聖堂を包んでいた光が、名残惜し気に煌きながら消えてしまいます。


 まるで夢から覚めたばかりのように、ぼんやりと壇上をみれば、今まさに少女はその両の手を天に向かって差し伸べているではありませんか。


 その手を掴んだのは、空中にあらわれたプレスペル皇国の守護霊獣であるピンクの兎さまでした。


 霊獣さまは、少女の願いに応えるように、少女をかきいだくと、かき消すように2人の姿がみえなくなってしまったのです。


 我に返った人々が自分の身体の欠損は見事に修復されて、痛みや苦しみてが跡形もなく消え去ったことを知ると聖堂中に歓喜の声が轟き、あまりの興奮状態に警備の兵たちもなすすべもなく民衆に飲み込まれそうになりました。


 それを押しとどめたのは、再び壇上に現れた教皇さまです。

 教皇があらわれると、人々は固唾をのんで次の言葉をまっています。


「プレスペル皇国の民よ。いまおこなわれた奇跡こそウィンディア王国の癒しの姫君、聖女レティシア王女の御業である。かの王女はその身に霊獣金の金糸雀を宿せし守護姫である。プレスペル皇国はウィンディア王国と同盟を結び恒久の和平を約束した。これにより金の金糸雀の守護はプレスペル皇国の民と共にある」


 その宣言を受けてさらに人々は歓呼の声をあげ、プレスペル皇帝とウィンディア王を称える声はやむことがありませんでした。



 私は街中にばらまかれた、聖女の奇跡と書き立てている文書を読んで、恥ずかしさのあまりクッションに抱き着いて顔を埋めてしまいました。


 そんな私をしり目に、レイとセンはのんびりと話を続けています。


「よかったですね。皇国のプロデュースは完璧です。これで金の金糸雀の再来、金の守護姫が聖女として伝説になった」


「しっかしさぁ、レイ。きっと誰も思わないぞ。聖女がここでクッションに抱きついてふるえている、こんなちっぽけな娘だなんて」


「だからこそのプロデュースですよ。アイドルなんてそんなものです。ナナと聖女が結びつかないように、徹底的にやってもらうように頼んだんですからね」


「レイ、セン、いい加減に人で遊ぶのはやめて頂戴。あんまりよ」


 私が堪りかねて叫ぶと、しらっとした顔をしたレイが

「大人っていうのは、自分の責任は自分でとるものですよ。ナナちゃんは大人ですよねぇ」

 と言うではありませんか。


 忘れてた!一番の腹黒冷血人間はレイでした。

 もう癒しはセーラさまだけです。


 私はすくっと立ち上がると黙って部屋を飛びだしてそのままセーラの元に駆け込みました。


「セーラ、レイとセンが意地悪言うのぉ~」


「ほら、レティ、ご褒美に街に遊びに行けるんだから、元気をだして頂戴。私たちの親友の証を選ぶんでしょう」


「そうよね、自分でお店に行って選ぶのって、すっごく楽しいのよセーラ」


「はしゃぐのはいいがお前は絶対にセーラから離れるなよ。サクラがセーラに追尾の術式をかけてお前らの様子をこちらで監視する。何かあればすぐにこの部屋に転移させる予定だが、追尾の術式は一度にひとりにしか使えないんだ。ナナがセーラから離れたら追えないんだからな!」


 いつの間にかセーラの部屋に入り込んでいたセンが注意を促します。


「わかってるわよ、セン。もう私の保護者ってうるさいのばっかり」

 ナナがこぼせば、セーラも


「私だって、うるさがたなんていっぱいいるのよ」

 と、小声でささやいた。 

 どうやら近くにお目付け役がいるらしい。


「ねぇ、先に着替えちゃおうか、セーラ?」


「いいわねぇ、レティ。着替えましょう。もうすぐ出発の時間よ」


 

 それから30分後には少女たちの姿は皇都の大通りにありました。


「見て見てセーラ、お猿さんがいるよ!」

「可愛い芸をしてるわね、上手だわね、レティ」

「セン、セン、おひねりあげて頂戴。まぁ可愛い。お礼をしたわ」


「ねぇ、ねぇ、レティ、あれは何?」

「飴細工よ、飴でいろんな形を作ってるのよ。セーラ」

「セン、買って、買って」


 楽しそうな少女たちが、周りに浮くことはありませんでした。

 少女たちの髪はしっかりとスカーフで隠されていましたし、あけっぴろげにはしゃぐ少女はあまりにも自然だったからです。


「1時間経過」

 センがぼそりと呟くと、少女たちは急に慌てだしました。


「レティあっちの方に、女の人ばかり集まっている店があるわよ」


「セーラ、急に走りださないでよ」


「まぁ、素敵。ここのお店なら素敵なアンクレットが見つかるわよ。レティ」


「お嬢様は、お目が高い。そのアンクレットは、流行のピンクゴールドという素材を使っているのですよ」

 ニコニコしながら、店主らしい男がセーラの接客をしています。


 しかし……。

 ナナは、男の舌が蛇のようにチロチロと動き、恐ろしい腐臭がするのに、気がつきました。

 

 悪魔に取りつかれた者は、舌が蛇のように裂け、腐臭がするとものの本にはあります。

 これほどの瘴気を纏っているのに、センもセーラも気が付く気配すらありません。


 ナナは気分が悪くなり、まともに声も出せなくなっていました。

 身体がふらふらして今にも倒れそうです。


 その様子に気づいたセンが心配そうに

「どうした?ナナ」と声をかけます。


「この暑さと人込みで気分が悪くなられたようですね。よくあることです。うちの娘に介抱をさせます。なに、少し休めが気分がよくなりますとも」


 店主はそういうと、娘を呼び寄せ、ナナを店の奧に連れていかせました。


「どうぞ、若さまはあちらのお嬢様の側についていておくんなさい。お嬢様には冷たいものでも飲んで休んでていただきますから。お任せ下さい」


 センは娘がかいがいしくナナを介抱しているのをみると、ちらりと外に合図を送り、自分は素直にセーラの元に戻ってしまったのです。


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