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ピンクのハート人参の危機

 それからしばらくしてピンクの霊獣がとても不機嫌になる事態がおきました。


 ピンクの霊獣は、人参が大好きです。

 人参の中でも、ハートの形をしたピンクの人参が一番好きです。


 ハート型の人参は熟成させると、頬っぺたが落ちるくらい甘くて、トロリと口の中で溶けてしまうのです。


 サクラは毎日ピンクの人参を食べることを、それはそれは楽しみにしているのです。それなのにそのピンクの人参、人参の名前はノバといいますが、ノバが市場に出なくなってしまったのです。


 だからサクラが不機嫌になって困っていると聞いて、私はセンとセーラのお部屋にやってきたのですが、扉の外にまでサクラの大声が聞こえてきます。


「セーラ、どういうことだい、僕はノバが食べたいんだ。プリンなんてセーラの好物じゃないか。セーラは僕を馬鹿にしてるの」


「そんなつもりじゃありません。霊獣さま。今日はどうしてもノバが手に入らなかったんです。今探しておりますから」


「探すって、ノバの場所は僕がおしえたろ?何でないんだ!」


「それは……」


 そこへ、侍女の案内も待たずに、センが飛びこんでしまいました。


「セーラにあたるんじゃないよ。ピンク。セーラだって探しているんだ。どうせピンクが言った場所のノバが売り切れだったんだろ。ねぇセーラ」


「ええ、せっかく霊獣さまが教えてくださったのに、行った時には売れた後だったんです」


「なんだよ、セン。お前なんかには用はないぞ。僕はノバが欲しいんだ」


「わかってるよピンクが辛いのは。でも今日はセーラに免じてプリンを食べてやってくれないか。きっとノバは手に入れるからさ」

 そう、言ってセンはピンクの霊獣をなだめました。


 ピンクの霊獣はしぶしぶプリンを食べだすと、すぐに機嫌を直しています。


「セーラ」センが目顔でセーラを誘うと、セーラもすぐにセンと場所を変えました。


「セーラ、君はがんばりすぎだよ。無理をするなよ。ピンクの我が儘に付き合う必要なんてないんだからな」


 センがそう言うと、よっぽどがまんしていたのでしょう。セーラの頬を涙が伝いました。


 センはセーラの頭をよしよしと撫でながら、

「きっとすぐに、ノバの件は解決するよ。辛かったらオレに言え。無理に我慢するな。いいな?」


 センの言葉にゆっくりと頷いたセーラの頬は、ほんのりとピンクに染まっていました。

 センってばとっても女の子の扱いがうまいんです。

 干物女だった私とは大違いですね。


 それから私たちはセーラを守るためになるべくサクラの側にいるようになりました。


「よし、ノバ畑を見つけた!」とサクラがいえば

「へぇ、どこだい?」とセンが聞きます。


「東地区にあるドバイ村さ。たっぷりノバがなっているぞ!僕いってみる」

 ノバがそう言えば、

「いってらっしゃい」とセン。


 センは何やら機械をいじくっています。

 何をしてるんでしょうかねぇー。


 やがてプリプリしながら、ピンクが帰ってきました。


「お帰り、ピンク。ノバはどうした?」

「全滅した。僕の目の前で、雷が落ちたんだ。ノバは黒焦げさ」


 ノバはすっかりしょげかえっています。

 いつだってノバは売り切れか、さもなければ雷で黒焦げなんです。


 もうそろそろ頃合いかな?

 そう思った私はレイに手紙をだしました。


「サクラがしょげて、真っ赤なお目目になっているから、もうそろそろ許してあげて」


 この返事はすぐにきました。

 レイがプレスペル皇国第二皇子を同伴し、大量のノバを持って皇国にやってきたのです。


 レイが到着してすぐにセーラ皇女殿下から、プライベートなお茶会のお誘いが来ました。

 というより念願のピンクの人参をたっぷり受け取ったサクラが、上機嫌で呼び出したというのが本当のところなんでしょうね。


「せっかくレイに会えるのに~」

「まぁ、行って来いよ。レイならこれからいつだって会えるんだからな」


「センはどうするの?お茶会に来る?」

「おれはやめとく。久しぶりにレイの顔でも拝んでくるよ。とりあえず侍従としての報告もあるしな」


 という訳で皇女殿下のお部屋に来てみたら、いやぁ~圧巻ですね。

 ピンクでしかもハート型の人参が、まるでシャンパンタワーみたいに、積みあがってますよ。


 その前ではこれまたピンクのうさぎが、でれっとしまらない顔をして鎮座しているのですから、なんだか目がチカチカしてしまいます。


 これが平気なのですから、ある意味セーラ皇女は大物ですね。


「レティ、待ってましたわ」

 そういうなりセーラさまが抱き着いてきました。


 少し力を緩めてくれないと息ができません。

 セーラさまと私は、恥ずかしながら親友になりました。


 だってセーラさまは、とっても素直で可愛いらしい方なんですもの。

 しょっちゅう抱き着いてくるのは、困りますが、こんなに愛らしい人に慕われたら悪い気はしませんよね。


 言い忘れてましたが、セーラさまはピンクの巻き毛にバイオレットの瞳というとても華やかな美人さんです。


「サクラ、良かったね!」と、声をかけると

「フン!もともとあの陰険な狐が悪さをしたのが悪いんだから、僕に貢物を持ってくるのは当たり前だ」


 ふんぞり返ってますが、顔がにやついているので、効果はありません。


「サクラさまは、このモバで作った塔を全部食べてしまわれたんですの。さっきあわててもう一度積み上げさせたんですのよ」


「じゃあ、もうお腹いっぱいでしょ。ちょっと頼まれてくれないかなぁ。レイの様子をみたいの」


 レイの様子を知りたいという気持ちもありますが、一度サクラの能力を確認しておきたかったのです。


「あら、レティ―はレイさんみたいな方がタイプなの?」

 と、セーラが興味津々で聞いてくる。いつだって女の子は恋バナが大好きですものね。


「違うわセーラ。レイってお説教大魔神だからさ、会う前に様子を知っておこうと思って」


 それを聞くとセーラにも思い当たる人がいるのでしょうね。


「ピンクの兎さま、構いませんか?」

 と、聞いてくれました。


 サクラが機嫌よく

「いいよ!」

 と頷いた瞬間、目の前にレイとセンの姿が浮かびあがりましたよ。、


「すごい、まるでここにいるみたい」


 わたしは思わず手を延ばしてレイに触れようとしてしまったのですが、その手はレイの身体を通り抜けたから間違いなく立体映像なんですよね。


 私たちが見ているとは知らないレイたちは、ナナの話で盛り上がっていました。


「確かにダンを雇ったこととその後のダンの活躍それにセンの適格な情報はお手柄といえますが、セン、あなたはナナの侍従としてここにいるんですよ。ナナが余計なことをやらかす前に止めるのが、あなたの仕事ですよ」


「そんなこと言ったって、あのナナが相手なんだぜ。あいつは思い込んだら周りが見えなくなる。サクラの一件だってオレは止めたんだ!」


「セン、言い訳は見苦しいですよ。止めるならきちんと最後までとめなさい。この件でナナの存在を秘匿したまま、ウィンディア王国に連れ帰ることはできなくなりましたよ」


 正論を突きつけられたセンは、ぼすりとソファーに躰をなげこみました。


「覚えてるかレイ、地上におりる時もさ、俺たちがあいつを守るために必死になってたとき、あいつは勝手に俺たちから離れるつもりでいたんだ。なんだってそうも簡単に切り離してしまえるんだ」


「ナナは薄情なのではなく、おびえている子どもなのですよセン。見捨てられるのが怖いから、信じて裏切られるのが怖いから、だからナナはその前に自分からすべてを諦めようとするのです」


「セン、君は獅子だ。なにものも恐れない誇り高い百獣の王。それが君の魂の本質なのです。ナナはカナリア、弱くて臆病でひとりでは生きられない。不思議ですねセン。私たちが霊獣を食べたというのに、まるで自分の核に相応しい魂を霊獣が引き寄せたかのようじゃありませんか」


「だけど、レイ。強いのはレイの方だろうが」


「いいえ、私は狐。狡猾な狐なのですよセン。そうですねセン、君ならかたくなに殻に閉じこもっているナナを、光のもとに連れてくることができるかもしれませんね。ナナのいる場所はとても寒くて寂しい場所ですから……」


 そう言うと2人は黙って静かに何かに思いを馳せているようでした。


 映像が消えたのも気づかないで、私は自分でも知らないうちに涙をボロボロとこぼしていました。

 セーラとサクラが両側からしっかりと抱きしめてくれている、そのぬくもりを感じながら、ただ黙って涙を流し続けたのです。



「あー!サクラ、もう金輪際、絶対、私の部屋を覗くの厳禁ね」

 たっぷり泣いたらと~ってもスッキリしたので、大事なことを思い出しました。


 サクラの能力って、透視なんてレベルじゃない。


 私室での私のあんな姿やこんな姿を見られていたなんて、いくら女の子同士だといっても許せない!


「え~~」

 サクラは不満そうだが、こればっかりは譲歩しませんからね。


 クスクスと笑いながら

「私も、レティの姿が見れなくなるのは残念ですわ。せっかく親友になれたのに」

 と、セーラがシレっと言ってのけました。


 そーですか。セーラは私やセンやレイのこと地上におりた時から知ってたんだ。

 つまりは皇国も、と言う事だろう。


 サクラの能力もチートだよね。

 霊獣の力って、どれもこれも半端ない。


 これは王様やレイに報告しなきゃいけないけど、レイの部屋を盗み見たなんて知られたくないなぁ。


「ねぇ、サクラ。ダンの様子見られる?」

「いいけど、どこにいるの?場所がわからないと見ることはできないよ」


 なんとサクラの能力は、指定した場所をみる力でした。

 ということは、サクラはきっと王様の執務室を見てたんだろうなぁ。


 この分なら帝国の執務室も見てるだろうし、皇国との同盟はメリットが大きい。

 王様には早急に、秘密の場所を探してもらわないと機密情報がダダ漏れになってしまう。


 この部屋にも諜報担当の侍女が張り付いているだろうから、私が知ったことは今頃は皇帝の耳に入ってるだろう。


 急がなくっちゃ。

 情報は鮮度が大事。

「サクラ、私をレイの部屋に転移させて!すぐに。セーラさま、失礼します」


 いきなり部屋に転がりこんだ私をみても、レイは眉ひとつあげなかった。

 黙って通信機器を操作して、私の報告が王さまたちと共有できるようにしています。


 私の報告がおわると、にっこり笑って

「ありがとう、助かったよ」って、言ってくれた。


 センは「あのウサギ、いつか焼いて喰ってやる!」って言ってるけど、よしなさい聞こえるから。


「レイ、皇国も無茶ぶりしてきたけれど、レイたちが皇国で暴れまわったことは皇国のプライドを傷つけたでしょう?」


 そうなんです。多分、今回の人参騒動はダンたち傭兵団とレイの共同戦線だと思う。


 たかが人参、されど人参。

 皇国としては他国人に簡単に出し抜かれたことになってしまうから、表だって非難することは無いだろうけれど面白くはない筈なんですよね。


 だったら私がするべきことは決まっていますよね。


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