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ピンクの兎登場

 皇女殿下の私室は、なんといったらよいのか、とても乙女チックなお部屋でした。

 私の部屋がナチュラルティストなので、すこし色彩がうるさいような感じがします。


 そう考えると、皇国に来てから私に与えられている部屋は、私の趣味にぴったりでした。

 少しぞくりとしてしまいます。

 まるでストーカーにあったような気分がしますが、これもおもてなしなんですよね。


 食事室に案内されると、アラム王子とレイがいました。


「やっときたか、セーラといいレティシアといい、女というのは着替えが遅くてかなわない」


「お洒落して下さったのに、憎まれ口を叩くものじゃありませんわ。レティ、とてもお似合いよ」


「セーラさまも、お可愛らしくて素敵ですわ」


 もう間違いない、セーラさまはロリータ趣味ですね。

 基本ピンク一色なんです。

 それに部屋に大きなピンクのうさぎのぬいぐるみが……。


 あれ?ぬいぐるみが動いてますけど。

 えっ、こっちにやってきますよ。

 この学園では、ぬいぐるみが動くんですか?


 ピンクの大きなうさぎは、ナナのもとにゆっくりとやってくると朗らかに声をかけてくれました。


「やぁ、当代のカナリア、初めまして。先代と違ってとても可愛いね。僕、前のカナリアとは喧嘩ばかりしてたんだ。今度は仲良くしたいな。よろしくね」


「初めまして、ピンクの兎の霊獣さま。私は金の金糸雀の庇護を受けし者。レティシア・ウィンディアと申します。よろしくお願いします」


「固いよ金色ちゃん、僕ね、君を見つけてから、カナリアちゃんと遊びたくてたまらなかったんだ。皇帝ってば、いくらせっついても待ってくればかりでさー。ホント待ちくたびれたけど会えてよかったよ」


 なんと犯人が自白しやがりましたよ。

 皇国の不可思議な行動の原因は、ピンクのうさぎの霊獣のせいだったんですね。

 霊獣は、基本我が儘で、人間の事情などそんたくしませんから、皇国も必死だったんでしょう。

 

 それにしても、「うちのピンクのうさぎが、金色のカナリアに会いたがってるから、ちょっと来てくれませんかね」なんて正直に言えませんよね。


 だからわずか10歳の皇子を人質に出してまで、私を追い込んだんですね。

 理由がわかったら、脱力してしまいました。

 どうしてくれましょうかね、このうさぎ。


 いつの間にか、センが私とピンクの霊獣さまの間に立ちはだかっています。

 とめる暇もなくセンはピンクのウサギを怒鳴りつけてしまいました。


「いい加減にしろ!このエロうさぎめ!迷惑かけまくってんじゃねえぞ」


 気持ちはわかりますけれどセン、ピンクがエロ認定なのは日本だけだと思いますよ。

 ピンクは愛と優しさを司るオーラですからね。


「セン、おやめなさい」


「とめるなナナ。このくそウサギ、火炎放射器で丸焼きにしてやる」


 センは怒りを抑えきれないように叫んでいますが、その相手であるはずのピンクの兎は、全く気にした風もありません。


「セン、ピンクの霊獣さまは、私とお話をしているのです。下がりなさい」


 私は使い慣れない王女の権限を使ってセンに命令すると、センは不承不承というように、後ろに控えました。


 「失礼いたしました霊獣さま。このたびのご招待は霊獣さまからでしたのね。」


「そんなにかしこまらなくっていいよ。ナナちゃん、そこの黒猫と遊んでるときみたいに、リラックスしなよ」


 やはり情報は筒抜けでしたか。

 そうすると思った通りこの霊獣の能力は透視ですかね。


 それだけでなく空間を司る能力も持っていそうです。

 厄介ですね。


「ねぇ、カナリア、猫とカナリアじゃ相性悪すぎでしょ。もうずっと皇国に住みなよ。僕きみが気に入ってるんだ」


 センの事など歯牙にもかけないようにピンクの兎が言えば、センは殺意を抱いた目でウサギを睨みつけます。

小さく「誰がねこだ、この野郎」と呟く声まで聞こえてきます。


「まぁまぁ、ともかく食事にしない?僕はお腹が減って死にそうなんだよ。さぁ座って座って」

と、場を仕切ったのはアラム王子でした。


アラム王子グッジョブ!と言いたいところですが、単に空気をよまないオレ様気質なのかもしれません。


「そうですよねー。せっかくのお料理が冷めてしまいますもの。皆さんいただきましょう」


 オロオロしながらも健気に取り持ったのはセーラ皇女、きっとこの気ままな霊獣のお世話係を押し付けられているんでしょうね。

 セリフ棒読みでしたよ。


 お昼ご飯を、のんびりと楽しむアラム王子やピンクの霊獣とは違い、セーラ皇女は居心地悪そうにセンの顔色をみていました。


 セーラ皇女の気分を少しでもよくしたくて

「セーラ、ピンクの兎さまのお名前は何とおっしゃるのですか?」

 と、話題を提供すれば、セーラ皇女はびっくりしたように返事をしました。


「ピンクの霊獣さまはピンクの霊獣さまですわ。それ以外にお名前なんかありません」


「そうなのですね。ですから私のことも金色とか、カナリアと呼ぶのですね」


 そんな2人の会話に食いついたのは、ピンクの兎です。

「ねぇ、金色、僕に名前を付けてよ」


 途端にセンが素早く反応します。

「何を甘えてやがる、ピンク。ナナそんな奴の言う事なんて無視しろ。ムシだムシ!」


 そうですよね、センの言う通りです。

 さすがに他国の霊獣さまに、名前を付けてはいけない気がします。

 私はセーラ皇女に、このお話を振ることにしました。


「他国の霊獣さまに、お名をお付けするのははばかられます。セーラさまがお付けになればいかがですか?」


「金色!僕は君に頼んでるんだ」


「私ごときが、霊獣さまにお名前をお付けするなど、勿体無いことでございますわ」


 2人から一刀両断に却下されてしまいました。

 これってもうお名前をつけるしかおさまりそうもない雰囲気ですから仕方ありませんよね。


「私のふるさとには、桜というそれは美しい花がありますの。桜の花が咲くとあたり一面がピンクに染めあがり、風が吹けばピンクの花びらが空を埋め尽くします。その桜の花にあやかり、サクラというお名前はいかがでしょうか」


「サクラかぁ、それいいね。今日から僕の名前はサクラだ」


 霊獣がそう叫ぶと同時に、霊獣とナナがほんのりとした桜色のオーラに包まれ、2人の間に絆が出来たことは、誰の目にも明らかとなりました。


「フン、サクラなんて女みたいな名前じゃないか」

 センが突っ込みましたが、間違えたのはセンのほうです。


「セン、サクラさまは女性の霊獣さまですよ」


「うげぇ、なんだよ、僕っこかよ」


 センがうめき声をあげると、アラム王子が不思議そうに僕っこについてセンに質問し、それから2人は、ひそひそといやに熱心に話をしています。


 それを見るとセーラ皇女は男性陣を私室から追い払ってしまいました。

 ロリータ趣味といい、僕っ子といい、もしかして皇国では腐女子が流行しているのでしょうか?


 名前を貰って気を良くしたサクラは、上機嫌です。

 頭をなでてあげると、フワフワの手触りが気持ちよくて、セーラさまといっしょに思いっきりモフらせていただきました。 


「ねぇ、レティ。私たち霊獣様とお昼寝しましょ。寝着を用意しておりますのよ」


「まぁ、女子会ですね。パジャマパーティなんて久しぶりですわ」


 セーラさまに夜着を借りたら、それにはうさ耳と尻尾がついています。

 セーラさまはブレないお方みたいです。


 3人で居間にあるベッド3つ分はあろうかという大きなクッションに飛び込んで、モフモフなでなでしている内にすっかり寝入ってしまいました。


 侍女たちは、とろけるような目でそれを眺めていたようで、なぜか私付きの侍女たちまで見学にきたようです。


 それを知ったのは、アラム王子とセンが早めに迎えに来てくれた時に、ぐっすり眠る3匹のピンクのうさぎと、それをうっとり眺める侍女軍団の姿をセンが見咎めたからで、あとでセンに叱られました。


 サクラがそうと知っていて、私に名づけを許したのかどうかはわかりませんが、気ままな霊獣をある程度コントロールできる力を貰ってしまったことには違いありません。


 サクラは既に八百歳を過ぎている老練な霊獣ですから、名を縛ったと思い込んで無茶なことをしたら、あっさりと呪縛をといてしまうでしょう。


 名前は友好の証とでも思っておけばよいでしょう。

 なんて呑気に構えていたら大変な騒ぎになってしまいました。


 そうですよねー。

 精霊を縛るような相手を国外には出せませんよねー。


 顛末を聞いた皇帝はアラム王子との婚約を打診してくるし、報告を受けたレイからはお怒りのメッセージが届くし、両国の大人たちがそろいも揃って頭を抱える事態になってしまいました。


 しかも私のせいでセンはお兄様になったゴードンから、わざわざ通信機を通して侍従の心得についてみっちりとお説教を受けたようです。

 

 ゴードンの立場からするとセンがきちんと私をみてさえすれば、こんなことにならなかったと思っているみたいです。


 あの時ちゃんとセンは注意してくれたのに、調子に乗ってその忠告を聞かなかったのは私なのに、センはゴードンだけでなくレイからも随分叱られたんですって。


「自重という言葉を知らんのか?この爆弾娘!」


 さっきから延々とセンのお説教が続いています。

 センの言うお仕置きとは、このお説教のことなのですが、長い、とにかく長いのです。


 正座して聞いていますが、もう脚がしびれて持ちません。


「セン~。もう脚が持たないよぉ~」

 涙目で見上げると、ようやく許してくれました。


 でも「レイの説教はこんなもんじゃすまないぞ」

 ってぼそりと呟くのはやめて下さい。

 実感がこもり過ぎて恐ろしすぎます。


 やらかした後始末のために、王様とレイが動いてくれているようです。

 王様たちが本気で仕掛けなきゃいけないほどのことを、やらかしたんですね。


 神妙にしているとセンが

「あのさぁ…。王様の遊びを知ってるだろう?戦争になる訳ないんだよ、今回のことは!だったら遊びだろう?遊びに関しちゃ王様は大概のもんだぜ。腹黒レイもついているんだ、任しておけって」


 私は泣き笑いをしながら、

「腹黒って言ったのレイに言いつけてあげる」

って言ったのね。


 そしたら……

「泣きながら、生意気言うんじゃねえよ」

て、ギュッと抱きしめて頭をなでてくれました……。


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