対決
私達は急いで聖堂にいくことにしました。
聖堂では霊泉の波動で、霊獣が地上に降り立つのを長年にわたって監視してきました。
そのような神官さまなら、過去にどのような霊獣が存在したかを知っているかもしれないからです。
この霊獣を監視しているのは、まだ若い見習い神官さんが多いのですが、この神殿で一番ご年配の神官さまはうまい具合に霊泉の責任者でした。
「ようこそおいで下さいました。私はナギと申しまして、こちらでは長老と呼ばれております。私なぞは年寄というだけのことで、それほど知識があるわけではございませんがのう。なんでも聞いてくださいませ。霊獣様方」
長老のナギさまはいかにも好々爺といった風情の優し気な印象のお方でした。
「長老さま。私は執政官を致しておりましたレイと申します。長老さまには霊獣がむごたらしく殺された事件をご存知でいらっしゃいますか?」
「それなら聞いております。霊獣さまを弑したてまつるなど、ずいぶんな罰当たり者でございますなぁ。その件でのお尋ねでございますか?」
「はい、どうやらその犯人は影を操る力、もしくは相手を自由に操る力を持っているようなのでございます。ナギ長老さま。そのような力をもつ霊獣について何かご存知ではございませんか?」
「影使いでございますと、カメレオンの霊獣さまでいらっしゃいますなぁ。人を操るとなりますと精神感応を得意とされるアライグマの霊獣さまでしょうか?」
「それでその霊獣様方はどのような色を纏っていらっしゃいますか」
そう尋ねるレイも私たちも、心臓が大きくドクン、ドクンとなるのを感じていました。
長老さまのお返事次第では、犯人が決まるかもしれないのです。
「そうですのう。お二方とも最近になって地上に降りておられますから、そのような事件に関わっている可能性はありそうですがのう。 カメレオンさまは、うっすらとした黄緑色を纏っておられます。まぁ無色に近いような薄い黄緑色ですがのう」
黄緑色の実をもいだのはサムです。
医学生のサムが犯人なの?
「アライグマさまは精神感応が得意なので、その目に見詰められると言われた通りに動くことしかできなくなります。霊山に帰られる前の戦では、恐ろしい活躍をなさいましたが結局お味方の霊獣に殺されてしまわれたのですよ」
「色でございましたのう。アライグマ様も薄い色でしたなぁ。そうそう薄いピンク色でございますな。かなり神経質なお方であったようですじゃ」
うそでしょう。
薄いピンク色を選んだのはシンなのよ。
地球を救う大活躍をしたシンが犯人なの?
「その2人ですが、どちらの地に降り立ったかわかりますか?」
レイは感情の高ぶりを抑えるように聞きました。
「それはわかりますとも。毎日きちんと日誌をつけておりますでのう。 お2人とも同じ場所に降りていますぞ。緑の大森林シャーリーンの森ですじゃ」
コハク!
みんなが一斉に頷きました。
コハクの転移の力があれば、彼等はどこにでも一瞬で移動することができます。
コハクが、まさか精神感応などで操られるとは思いたくはありませんが、コハクが地球の霊獣殺しに関わっていると考えるよりは、操られていると考える方が自然でしょう。
レイは長老様が目の前にいらっしゃるにもかかわらず、すぐさま通信機器をオンにしました。
「レイだ。シャーリーンの森に何か異常はないか? 新参者は来ていないのか?」
「レイさま。こちらにはなんの異常もございません。平和そのものですよ」
「そうか。引き続き監視を頼む」
くっそう! レイは歯噛みをしました。
間違いなくレイの部下たちは既に洗脳済みです。
「レイ! ミカたちは? 」
私が叫ぶとすぐに、レイはミカを監視している部下を呼び出します。
「レイだ。そちらの様子を聞かせてくれ」
「レイさま。こちらにはなんの異常もございません。平和そのものですよ」
ぞっとしました。
さっきの人と一言一句同じ答えです。
抑揚まで同じです。
「サクラ! サクラ! 名付けの絆にかけてお願いします。私たちをフェステルの町にあるリュウ先生の診療所まで転移させてちょうだい! 仲間の命がかかっているの。お願いよ!サクラ」
ナナの血を吐くような叫びに応えるように、ナギ長老さまおひとりだけを残して、私たちの姿は一瞬にして消えてしまいました。
私達が転移すると、何やら嘲笑うような声が聞こえてきました。
「さぁ、ケイ。その娘の顔を自慢の怪力でぶん殴ってやれ。 化け物みたいな顔になるぞ。いやぁ、お前の馬鹿力なら顔なんぞ跡形も残らないだろうなぁ。オレは優しいだろうケイ。お前の女を苦しまずに殺させてやるんだからさぁ」
「無理だよ。ケイ。抗ったって無駄なことさ。お前みたいな脳筋野郎にオレの呪縛が解ける筈ないからさぁ。影使いのサムも、転移術のコハクもみんな俺の下僕なのさ」
「面白れぇんだぜ。サムにはスミレを殺させたんだ。コハクには白のコウモリを殺させた。そうしたらすっかり絶望して心を明け渡してしまうんだ。いまやただの傀儡さ。苦しみも悲しみも感じなくてすむ。さぁケイ。ミカを殺せ!」
その言葉が終わる前に、シンの身体は雷に打たれてゆらりと倒れていきます。そこにケイの猛烈なパンチが繰り出され、確かにシンの言うように、その顔は跡形もなく吹っ飛びました。
ゆっくりと薄いピンクのアライグマが空にのぼっていきます。
アライグマは嬉しそうに頭を下げましたから、よっぽどシンに取り込まれたのが辛かったのでしょう。
ケイはすぐさまミカを抱きかかえましたし、ミカはケイの胸に顔をうずめて号泣しました。
「こ、こわかったよぉう。うぇ、うぅっぐ。うわぁーん」
えぐえぐ泣き続けるミカを、黙ってケイが抱きしめています。
あの分ではケイの服は涙と鼻水でぐっしょりと濡れてしまうでしょうねぇ。
リュウ先生が、ぼんやりとした足取りでやってきました。
「いやぁ。何がおきているかわかるのに、指1本動かせませんでした。動ければ私だって毒物ぐらいは持っていましたのに」
と、怖いことを言います。
「それは、僕が影を縫い留めたせいです。すみませんでした」
サムは深々と頭を下げるとモリの顔を見ていいました。
「司令。僕がスミレを殺しました。恐ろしく酷いやり方で。処罰は覚悟しています」
「いいや、サム。殺したのはシンだ。お前ではない」
「しかし、しかし司令。それでは、それでは僕が納得できません!」
そう叫ぶサムを、リュウさんが優しくさとしました。
「サム。君は医学生だったな。それじゃスミレの命を奪った詫びに大勢の命を救いなさい。私が自分の持っている知識も技術も全部教えてやる。私の弟子にならないか?」
「リュウ先生!」
そう言ってサムはぼろぼろと涙をこぼしました。
そのサムの肩をリュウ先生が、優しくたたいてやりました。
まったく嫌になってしまいますねぇ。
なんだかみんなもらい泣きしてしまったようで、みんな顔を人見られないようにうつむいてしまっています。
コハクがレイに頭を下げました。
「レイ。ありがとう。だけど俺はもうシャーリーンの森には帰れない。白のコウモリを殺したんだ。償いをしたい。自分なりのけじめをつけるまではシャーリーンには帰らない。レイ。君の部下としてアイオロス王の元で働かせてくれないか」
「コハク。この件はお前の責任じゃない。オレの責任だ。そこまで気にやむ必要はないぞ」
レイはこの事件の責任は自分にあると決めてしまっています。
「それは違うだろう、レイ。この天球を守るためにお前たちが何をしてきたかオレは見て来たつもりだ。ずっと天球の平和の為だけに尽力してきたろう? 今回地球人に霊獣を取り込ませたのも、より天球にためになると思ったからだ」
「レイ、見ろよ。あのリュウ先生とサムの姿を。ミカとケイの姿を。彼等はこうして天球に根を張ってくれるだろう。それはレイ。お前の手柄じゃないのか。オレは自分の身柄をお前に預けるよ。残念ながら頭を使うのは苦手でな」
レイは黙って手を差し出し、コハクはその手を握りました。
ほぇーー。
なんかカッコイイですね。
その時ぽんと頭に手が置かれました。
見上げるとノリスの顔があります。
「ほら、よそ見なんかすんな。お前はオレの女だろう」
「うん!」
私はそう言って、ノリスに抱き着きました。
ちょっとぶっきらぼうで、単細胞なところもあるけれど、ノリスが私の一番大事な人です。
ノリスが待っていてくれるって思わなければ、地球の浄化なんて頑張れませんでした。
この恐ろしい事件だって、ノリスがいつも傍で守ってくれなければ、きっと途中で倒れてしまったとおもいます。
「ノリス。大好き!」
そういったら、いきなり抱き上げてキスされてしまいました。
ちよっと。
待って!
見てる。
みんなが見てるってば!
ん、ぁんん。
ふぁ。
もうダメ。
絶対に顔が真っ赤になってるに違いありません。
だって頭がぼぅっとして、ほっぺが熱いんですもの。
「ノリスのばか!」
ノリスの腕の中で小さくそう言ったらノリスはにやりと笑いました。
「そこはねぇさあや。ノリスさま、ありがとう、っていうところだよ」
な、な、なんですって!
「ノリスのばかーー! 大馬鹿ノリス!」
そう叫んだら、さも愛しそうに額にキスをされてしまいました。
ほんとにもぅ。
ノリスったら。
ノリス、すき。
だいすきよ。




