殺人鬼を探せ
最初にやるべきことは、今ここにいない5人の異世界人の情報を少しでも多く得ることです。
「モリ、ケイ、ミカ。情報は多い程ありがたい。どんな些細なことでも遠慮せずに教えてほしい
アイオロス王がそうお願いすると3人は真剣な顔で頷いていました。
最初に名前が挙がったのはリュウさんです。
最年長でもあり面倒見も良い人なので、リュウのことは3人とも良く知っていたからです。
リュウは医者で、国境なき医師団にも所属しており、困っている人や弱者に対してよく心配りをする人です。
地球救済軍のメンバーになってからも、若い人たちを助けてきました。
「ふむ、こう見るとリュウに怪しい所は無いようにみえますね」
「リュウさんはいい人なんです。とてもあんな酷いことなんてできません」
大方の意見がリュウは犯人ではないだろうというところへ傾きかけた時、ノリスが発言しました。
「しかし犯人はスミレの殺害のさい見事なほど正確に致命傷を避けている。医学的知識がある証拠だ。医者であるリュウはその点では怪しい」
皆は愕然としました。
そうです。
確かに犯人には、ある程度の医学的知識があります。
「話し合いで犯人を見つけられるとは思っていません。でも犯人に医学的な知識があるだろうというのは良い読みです。しかしその知識は剥製師、臨床整復師、看護師。医療秘書、介護福祉士、救命士などいくらでもかんがえられる。必ずしも医師だけに限定できるものではありませんよ」
モリが念の為というように発言しましたが、モリとしてはまさかリュウがという思いがありました。
次に私達戦闘能力を持たない者を馬鹿にした男性に話題が移りました。
彼はノブと呼ばれていましたが、救済軍では真面目だけれどもあまり目立つ言動のない人物でした。
あのように他人を馬鹿にするような発言をするからには、よほど戦闘力の高い能力を得たのではないでしょうか。
「しかしこのノブという人物が我々が探している敵とはとても思えないね。あんまりにも脇が甘すぎる。もしも霊獣に復讐するつもりなら、あんな目立つ発言をするとも思えません」
レイの言葉に全員が賛同しました。
ノブは目指す敵ではなさそうです。
「しかし、こういう人間はいいように操られやすいだろう? もしかしたらもう既に敵の手下になているかもしれないぜ」
そう言ったのはセンでしたが、これにも全員が賛成しました。
ノブがひとりで異世界を旅する姿が想像できません。
きっと誰かと一緒にいるでしょう。
そして敵ならやすやすとノブを手中に収めることができそうです。
ノブを捕捉することで、敵の影を捉えることができるかもしれません。
そこに伝令が飛び込んできました。
なんでも異世界から来たという人が、レイかモリに会いたいと言っているというのです。
グットタイミングですね。
アイオロス王はその人物を執務室に通すようにいいました。
やって来たのは私にも見覚えがある人物でした。
確か作戦本部にいた情報官のひとりではないでしょうか?
モリがその人物に声をかけました。
「遅かったじゃないか、アキ」
「司令、いやモリ。だって随分遠くに落とされちまったんだよ。見渡すかぎり草原でさ。人を見つけるだけでも大騒ぎさ」
「モリ、話の前にミカに検査させろ」
アイオロス王が厳しい声で言いました。
ミカがアキに触れた瞬間、なにやら禍々しいものがミカに向かって伸びるのが見えました。
私はすぐさま浄化の術式をミカにかけましたが、それよりも早くケイがアキをぶん殴っていました。
アキもミカも意識を失っています。
私はすぐにフルートを取り出して部屋全体を浄化しましたが、その時アキの身体から黒い霧のようなものが立ち上り、勝利の雄たけびをあげました。
「見つけたぞ! もうどこにも逃げられないからな」
「危ない!」
そういうなりケイがアキの身体を窓から外に放りなげました。
空中に飛び出したアキにレイが雷撃をくらわし、既に真っ黒になった身体をセンが火炎放射器で焼き尽くしてしまいました。
「いったい何が?」
私がそうつぶやくと、ケイが答えをくれました。
「アキに何かが埋め込まれていた。少しでも遅れたらきっとこの城ごとふっとばされていたぜ」
「あぁ。しかしこれで敵の能力が少し解明できた。敵は人を操ることができる。さっきミカに取り付こうとしたのがそれだろう」
「そう言えば、ミカがスミレに何かが取り付いていて、地上に降りると影が彼女を捕まえたと言っていたわ。敵は影を使うのではないかしら」
私がそういうと、全員がぞっとしたようです。
自分の影になにかを仕込まれてしまっては、自分でも気づくことができないでしょうからね。
「アキの影に何かを潜ませていたのか? ミカが検査をすると見越して、ミカを傀儡にしようとしたんだろう」
レイがその計画が成功していたときの事を想像したらしく、身震いをしました。
「ナナ、念のため再度全員の除霊と解呪を頼む。特にミカは念入りにな」
アイオロス王が厳しい声で命令しました。
私の解呪がすむまで、皆はぴくりとも動きませんでした。
誰であろうとも取り付かれている可能性がある限り、動けば攻撃を受けることになると全員が知っていたからです。
私が解呪の成功を伝えると、ようやく場の空気が和みました。
「もしもミカが少しでも何かを見ていれば、敵に近づけます。アキはどこかで敵と接触した筈なんですから」
モリの言うことは最もでしたが、この戦いはミカに負担がかかりすぎます。
ミカのような能力がある霊獣がもっと見つかればいいのですが。
ミカが目を覚ますと、全員の視線がミカに集中しました。
ミカも何を求められているのかわかっているのでしょう。
静かに語りはじめます。
「私が触れた時、アキさんから小さな悲鳴が聞こえました。自分の意思とは関係なく動かされているようで、その原因をアキは分身と呼んでいました。敵は影を自在に操るだけではなく、自分の影をいくつもに分身させて、それを人に取り付かせることができるんです」
「それからほんの少しだけ敵の気持ちが流れ込んできました。彼はとても愉快そうでした。霊獣を壊し、人を破壊していくのが楽しくてたまらないんです」
そういうミカの顔は青白くて、私はミカが壊れていくような不安な気持ちになりました。
ミカの能力は人の深遠に触れてしまいます。
それが怖ろしい闇だったら?
ミカはどこまで耐えられるのでしょうか?
ケイがミカの身体をしっかりと抱きかかえると、みんなに宣言するように言いました。
「ミカには休息が必要だ。休ませてくる。僕は守護者としてミカについているから」
そうしてミカを抱えあげるとケイは部屋を出ていってしまいました。
はぁーとため息をついてゴードンが呻きました。
「しっかたねえなぁ。おこさまにはきつすぎるぜ」
「しかし、お子さまだからといって敵が手を緩めることはないんだ」
モラルはそう反論しましたが、その言葉はいかにも苦しそうです。
「とにかくアキは死んだ。あの場合アキを殺さずに救う暇はなかった。全員の命がかかっていたのだからな。つまり容疑者はあと4人に絞られる。会議を続けるぞ」
アイオロス王は冷淡ともとれる声で言いました。
「あと2人の情報でしたね」
モリがはじかれたようにそう言うとその2人の名前を告げました。
サムとシン。
元の名前はイサムとシンイチです。
サムは部隊の看護兵として、救命処置や負傷者の移送などの任務についていた20歳の若者です。
医学生であったのですが、看護兵として志願したのです。
正義感の強い若者でした。
シンはコンピューターの解析などを担当する情報担当官で、各地の瘴気の発生予想やゾンビ化した人間が好んで潜む場所などを的確に見つけだし、かなりの手柄をあげています。
しかし人とのコミュニケーションは苦手です。
「医学生と情報分析官、どちらも敵となりうるだけの能力を持っていますね」
敵の候補に挙がっているのは、リュウ、ノブ、サム、シンの4人です。
このうちノブは能力不足で却下。
残った3人のうちリュウとサムは医学知識有り、シンには医学知識はありませんが情報を得るスペシャリストなので医学的な知識を得たいた可能性を排除することはできません。
「何色の実を食べたか覚えていないか? 影を操るんなら黒い実を食べたのかも。もしくは光がある処に影が出来るから白い実とかさ。 色がヒントにならないか?」
そうセンが言ったので、あの時に霊山にいた人たちが必死でその時の記憶を手繰りよせます。
霊樹にはあの時何色の実がなっていたかしら?
灰色、これはモリが食べました。
紺色、これを食べたのがケイ。
ラベンダー色がスミレ。
オレンジ色がミカ。
赤茶色はさっき殺すことになったアキが食べてました。
私はその時のアキのはしゃいだ顔を思い出して、胸がズキズキと痛みました。
えーとそうだ。
ラベンダーと似た色がありました。
薄桃色でそれをシンが取ったので、スミレが女の子みたいな色なのねって言ったのを思い出しました。
シンは薄い桃色です。
この色で影を操るなんてありえませんよね。
そして黄緑色を取ったのが、サムです。
サムがこの色は植物の色だから薬を調合できるようになるかもねって笑ってましたっけ。
お医者さんの卵らしいわとミカが言ったんです。
深紅を選んだのはノブ。
ノブはその実って血のように真っ赤じゃないかと言われて、にやりと笑っていました。
そしてリュウが選んだのは暗い銀色。
そうです。
レイが白銀なのに対して随分黒っぽい銀色だなぁっておもったんです。
暗銀色のリュウ・深紅色のノブ・黄緑のサム・薄桃色のシン。
こうして並べてみると一目瞭然です。
「リュウだったのか……」
ぽつんとモリが呟きました。
「ノブって線が浮上したようだがな」
ってノリスが呟きます。
あの霊山でのおバカな発言がわざとなら、ノブかもしれません。
どちらにしても、早急にサムとシンを保護しないと……。
なぜか敵は一緒に転移してきた仲間たちから生贄を選んでいるからです。
もしかしたら仲間に恨みでもあるのかもしれません。




