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スミレの受難

「それじゃ、ナナ。男性陣が全員地上に降りたら、最初にナナが来てくださいね。 ナナの力が必要になる事態は、あまり考えたくはないのですが、備えあれば患いなしですから」


 レイはかなり慎重になっているようです。


「悪いがムラサキは、最後にきてください。あなたなら防御結界がつかえる。少なくとも女性陣の中では、あなたが一番安全ですからね」


 ムラサキはしんがりを任されて、ちょっと嬉しそうにしています。


「1番がナナ、2番手がスミレ、3番手はミズイロ、4番手がミカ、5番手がムラサキ。この順番で泉に入ります。どこに出たとしても、先ずは人目につかない場所に隠れていること。男性陣とペアになればモリと合流。この手順でお願いします」


 レイは何度も注意を繰り返すと、泉に消えていきました。


それじゃそろそろ行きますか。


「ムラサキ、ミカたちをよろしくね」


 私がそうお願いするとムラサキは頼もしく頷いてくれました。


「あぁ、任せときな。全員ちゃんと送り出してやるさ」


 それを確認して、私は泉に足を踏み入れます。

 これで2度目ですからね。

 慣れたものですよ。


 さて、私はどこについたのかなぁ。

 光の見える方に歩いてみて、私はへなへなと座り込んでしまいました。


「いやだ。なんでまたこんなところに」


 目の前に広がるのは、広大な砂漠です。

 じりじりと照り付ける太陽にあぶられて、私はあわてて倉庫から砂漠で使うベールを取り出し、全身を覆いました。


 これで少しでも熱を遮ることができるでしょう。


「ナナ、着いたな」


 イヤリングからノリスの声が聞こえてきます。


「場所は確認した。そこまで15分あればつく。しばらく倉庫に入っていろ。10分経ったら倉庫から出てくれ。それだけでも随分、身体の負担が違うはずだ」


 私はノリスの言葉に甘えることにして、いったん自分の倉庫に入いりました。


「今のうちに着替えておきましょう」


 砂漠の衣装の中でも動きやすいものを選んで、上からベールをしっかり纏といます。

 これで安心です。


 私が倉庫から出て上空をみると、青龍が旋回しています。

 手を大きく振って合図を送ると、瞬く間に人化したノリスが空から降ってきました。


「よーし、無事に合流で来たな。このままレイやモリと合流するぞ」


 そういうなりノリスは私を自分の倉庫に放り込んでしまいましたから、私は腹がたってきました。


「なによ、なによ。 失礼しちゃうわ。ハグもしないでいきなり倉庫にほっぽりだすなんて! ノリスって、なんてデリカシーないのよ!」


 私は普段はノリスがベタベタし過ぎる! って文句を言っていたのを忘れたみたいに、不平を言いましたが女心って複雑なんですよ。


 やがてゆったりとソファに座ると、私もようやく落ち着いて考えることができるようになりました。


 ノリスがかなり急いでいたので、モリの落ちた場所とこの砂漠はどうやら相当離れているようです。

 いったいモリはどこにいるのでしょう。


 前回あの泉を使ったのが3人だけでしたから、ほぼ同じ場所に落ちましたが、今回あの泉を使ったのは地球からの転移者12名とムラサキ、ミズイロ、ノリスをあわせた15名です。


 そのために扉の出口が大きくことなっているのかも知れません。


 スミレやミカは大丈夫でしょうか。

 もしもいきなりあんな何もない砂漠に出たら、パニックになってしまわないでしょうか。


 裏切りのユダは本当に存在するのでしょうか?

 もしも存在するとしたら一体だれが?


 私はそんなことを考えているうちに、いつの間に寝込んでしまったようです。

 それも仕方がありませんよね。


 転移前まで、浄化の術式をギリギリまで使っていましたから、むしろ今までよく持った方なんです。


 私はふわぁっと自分の身体が浮き上がったのを感じて、目を覚ましました。


「起きたか。悪いな。もう少し寝かしてやりたかったが、そうもいかなくてな」


 ノリスはそう言いながら、ナナを抱いたまま椅子に座りました。


 ここは氷の国の客室の居間だわ。

 私はその部屋を見回して、すぐに気がつきました。


 ノリス、レイ、モリ、マリウス、ミズイロ、アカツキの6人が揃っています。


「どういうこと、モリ。ミズイロがここにいるのに先に泉に入った筈のスミレはどうしたの。しかもスミレの守護者である筈のモリがなぜこんなところにいるの!」


 私が思わずモリをなじると、それをレイがとめました。


「ナナ、これでも随分探したんだ。信じられないことなんだが、スミレの気配がどこにもない。ウィンディア王国のアイオロス王に泉の探知をお願いしたんだが、それによるとたしかにスミレは地上に降りているんだが……」


「それでもお父さまの神殿で泉を探査している人たちは、大まかな場所を特定できるでしょう? 」


 みんなは黙ってナナを見ましたから、私にもすぐにわかりました。

 スミレはこの氷の国で気配を絶ったのですね。


「マリウス王、それで何も手がかりはつかめなかったの。ラベンダー色の髪なんてとっても目立つ筈なのに」


 私のごく当たり前の質問にマリウスは苦しそうに答えました。


「兵に国中にを調べさせているところだ。ナナのいうとおりそんな異邦人が現れれば噂にならない筈がない。それなのに欠片も気配がつかめないんだ。申訳ない」


 マリウスはなんとかしてアイオロス王への恩返しをしようとしているのですが、全くなんの成果もえられないので、焦っているのでした。


「レイ?」


 私はレイに助けを求めました。

 レイならこの状況をなんとかしてくれるかもしれません。


「スミレがここに来た途端におびえて次元倉庫に逃げ込んで、そこから出てこないって考え方もできない訳ではないが……」


 その考えをまっこうから否定したのはモリでした。


「おじい様、それは絶対にありません。私はこう見えて司令としてスミレの信頼は得ていると自負しています。その私すら拒絶して自分に殻に閉じこもる理由はありませんよ! スミレは誰かに囚われているんです」


 レイはそれを聞くと苦笑してしまいました。


「モリ。確かに私はお前の祖父だがね。ここではレイと呼んでくれないか。スミレが自分で閉じこもったとは私だって思っていない。しかしそうするとどうやって犯人はスミレの居場所を一瞬で把握し、しかも地上に降りた瞬間に拉致できるのか? ここはミカの力に頼るしかない。ノリス迎えに行ってくれるか?」


ノリスは黙って立ち上がると、次の瞬間には大空を舞う青龍の姿がありました。


「ミカの守護者であるケイの能力は、恐ろしく単純で物理でぶん殴るの一択なんですよ。ケイはどうらや大森林に降りたらしくて、そのままウィンディア王国に行くように指示しています。ミカは砂漠に降りたのでノリスが行く方が早い」


 そー言えば紺熊さんてまるで怪獣みたいに大きくなれましたっけ。

 とにかくぶん殴るって言うのも凄いですねー。


 センの武器化といい、ケイの身体強化といい守也一族ってちょっとバトルジャンキーの傾向があるのかもしれませんね。


「ムラサキとミドリにはそのままゴルトレス帝国に戻ってもらいました。スミレが行方不明の今、彼等にできることは少ないし、それならゴルトレス帝国で情報を集めて貰いたいですからね」


 レイがそいうぐらいですから、もしかしたらレイは犯人もスミレもすでに氷の国にはいないと考えているのかもしれませんね。


 ノリスを待つ時間が怖ろしく長く感じます。

 マリウス王の元には、なんども部下が報告に訪れますが、その報告の全てが、該当者なしでした。


 ノリスがミカを抱きかかえてやって来た時、部屋にはほっとした空気が広がりました。


 これでようやくスミレを見つけられる。


「じゃぁミカ。なんとかスミレを見つけるまでゆっくりと術式を広げていってくれ。何か見つけたら教えるんだ。それを覗き込むんじゃないよ。場所を特定するだけだ。いいね」


 レイがしっかりと言い聞かせましたが、レイのその言い方だとまるでミカがなにか酷いものを見つけるみたいではありませんか。


 ミカはこくりと頷くと、片膝をつき片ほうの手のひらを地面におきました。

 その手の平から鮮やかなオレンジ色の光が溢れ、その光がどんどん広がっていきます。


 その光はみるみるうちに速度をあげて、ドンドンと広がっていきます。


「いました!スミレさんです」


「ここから300キロ先のレフェブレ渓谷に大きな洞窟があります。その入り口にスミレさんが……。キャァー、嫌ぁ―」


 ミカさんは突然大声で叫びだすと意識を失ってしまいました。


 マリウス王が合図をしたので、ミカさんは侍女たちに部屋に連れていきます。

 すぐに医者もやってくるでしょう。


 ミカさんはなにを見たというんでしょう。

 まさか、まさかスミレさんは!


 いいえ、少しでも息があれば私が回復させる。

 行かなきゃ!

私が絶対にスミレをたすけるんだ。


 ノリスはここにいた全員を倉庫に入れて、レフェブレ渓谷に向かいました。



 なんと美しい場所でしょうか。

 樹氷がとりかこみ、そこに光があたり木々がきらきらと光り輝いています。


「こっちです」

 マリウス王が洞窟へと案内してくれました。


 みんながぞろぞろとその後をついていきます。


 やがて大きな洞窟の前に立った時、全員が氷ついたように身じろぎできませんでした。


「こ。これは」


 スミレさんは洞窟の入り口をふさぐように四肢を大の字に縛りあげられています


 そして酷いことに、身体中に無数のつららがささり、大量の鮮血が流れ落ち、それがすでに氷ついているのでした。


 ゆらり、っとスミレさんが動きました。


「待っていたぞ。これは始りにすぎない。呪われろ聖獣どもよ! 天球とともに滅びるがよい」


 それは確かにスミレさんの唇から漏れ出ていますが、しゃがれた恐ろしい声でした。


 私が素早く癒しの術式を展開しようとすると、ノリスが制止します。


 ノリスが視線で示した先には、ラベンダー色の猫がぼんやりと浮かんでおり、猫は軽やかに霊山に向かって飛んでいくのでした。


 あとにはスミレのむごたらしい遺体だけが残りました。

 アカツキが黙って進みでると、スミレの身体が一瞬で燃え上がり、跡形もなく消え去ります。


 その跡地に全員で黙礼をするとレイがきっぱりと言いました。


「ウィンディア王国に帰るぞ! スミレの敵討ちだ!」


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