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最終決戦

「お父さま」


 私が厳しい声でお父さまに呼びかけると、アイオロス王は少し猫なで声になって私に問いかけました。


「どうかしたのかな? ねぇナナ」


 アイオロス王が実は娘に弱いというのは、お父さまの側近たちには良く知られています。


 アイオロス王がナナに『お父さまサイテー』といわれてすっかりしょげこんで王妃さまに慰められたという逸話はけっこう有名な話になっていました。



「お父さま。優先順位はお間違えにならないでくださいましね」


 私の言葉を聞いて私がどうしてこのタイミングで自分に話しかけたのかを、お父さまは悟ったようです。


 私はお父さまが優先順位を間違えるはずなどないことを良く知っています。

 それなのにあえてその言葉を口に出すのは、この場で説明しておくべきだと思うからでした。


 アイオロス王は自分の頭の回転がどうやら人よりは早いことは承知していますが、それでもいちいち説明することを面倒がる悪癖があります。


 この天球の危機に際して、その悪癖が致命的な間違いに繋がることがあるかもしれません。



 お父さまは破顔するときっぱりと言い切りました。


「もちろんだとも。何をおいても天球の人々を優先する。現在レイの代わりにダンが魔獣の発生状況を管理している。もしも魔獣発生の連絡をうければ、すぐさま地球との絆を断ち切り、魔獣殲滅を優先させるさ」


 アイオロス王がそう断言すると、みるみるうちに周囲に安堵の気配が広がりました。


 ここにいるのはアイオロス王の子飼いの人々だけではありません。

 各国から霊獣とともに少数とはいえ精鋭の騎士が来ているのです。


 彼らは勿論今回の任務を忠実に果たすでしょうが、もしも天球にとってアイオロス王が不利な決断をすれば黙っていられる訳がありません。


 しかしすくなくともこのアイオロス王の言葉を聞いた今は、引き続き任務にまい進してくれることでしょう。



「それではお父さま、この気持ち悪い人たちが見えないように配慮していただけませんか? すぐにも食い殺したそうにしているゾンビに取り囲まれてのんびり待機なんて出来ませんわ! お父さまはデリカシーにかけているんです」


 ビシリと指をさされて、またもお父さまは凹んでしまいました。


「あぁ、そーだよね。うんうん。防御の術式に不可視の術式もくわえよう。うん、そーしよう」


 アイオロス王が焦った顔をするのを初めて見た人々は、さしものアイオロス王も娘には弱いのかとアイオロス王の弱点を見つけた気がすることでしょう。


 人は自分に弱点を見せた人に親近感を抱くものです。


 いつの間にかアイオロス王の父親としての側面を垣間見た人々は、すっかりアイオロス王に親近感を抱いてしまいました。


 また聖女よ、癒しの姫よと、もてはやされてもレティシア王女は我儘な子供でしかないのだと、生暖かい目で私を見ています。



 アイオロス王の側近たちには、ナナがこのような公式な場所で我儘などいうはずもないことをよく承知していましたから、今の一幕がこの作戦をスムーズに成功させるための親子の茶番だとすぐにわかりました。


 しかしそれにしても即興で行ったにしては、とても息があっています。

 ナナはやはり血は繋がらなくてもアイオロス王の娘なのでした。


 それからは交代で見張りや防御にあたる者を除き、少しでも身体を休めていざという時に備えるのが霊獣たちの仕事になりました。


 待機状態で士気を低下させずに、しっかりとリラックスするというのは、けっこう難しいものです。


 そーなってみると、あのおぞましいゾンビの視線を感じなくてもいいというだけでも、随分身心の負担が減っていることがわかります。


 たまたまレティシア王女がダダをこねてくれてよかったと、特に付き添ってきた人間たちはおもいました。


 騎士としてのプライドが不可視の術式を展開してくれと頼むことを、潔よしとしないからです。




 くしゃくしゃと私の頭を乱暴に撫でながらお父さまは言いました。


「なかなかいい女になって来たじゃないか」


 フフフ、ちょっと嬉しいですね。

 それでも私はツンと鼻を上に向けて当たり前みたいな顔をしてみせました。


「私だって、お母さまの娘ですからね」


 それを聞いてお父さまはいかにも愉快そうに笑いました。


「まぁ、お前はノリスの家でのんびりやすんでいろ。 ノリスよろしくな」


 お父さまからお許しを得たノリスは喜々として私を自分の次元倉庫に連れていくと、私を抱きかかえたままいかにも幸せそうに微笑んでいます。



 そんなことをしている最中にも、次々と大いなる災いの船は落ちてきます。

 このバリアの外にはすでに数万のゾンビが取り巻いていることでしょう。


 それにしても地球で指揮をとる人々も相当にできる人なんでしょうね。

 これだけのゾンビを次々とぼろ船に集め、即座に天球に転移させてくるとは……。


 ゾンビは夜になると光がささない場所で眠るといいます。

 このぼろ船はゾンビたちの夜の拠点となっていたのかもしれません。


 けっこうな手間と時間をかけて、ゾンビが安全に眠れる場所としてぼろ船を認識させていったに違いありません。


 それこそぼろ船を永久のゾンビの棺となすために。



「それで、どーだ? 地球上のゾンビの気配は?」

 アイオロス王は先ほどから熱心に地球の様子を探っている霊獣に尋ねました。


 気配探知をおこなっているのは白い蝙蝠の霊獣です。

 彼女は10歳ぐらいの白髪の少女の姿を取っていますが、実はすでに5百歳にはなっています。


 いわゆるロリババアというやつですね。

 面と向かってこの霊獣に、それを言える猛者は存在しませんけれども。


「うーん、地球の奴らはこの船をポットと呼んでいるようじゃのう。残ったポットはあと2つじゃ。そろそろ全員を待機させておいた方が良いぞ。すぐにも最終ポットが落ちてくる筈じゃ」


 それを聞いてアイオロス王は部隊に臨戦態勢をひかせます。

 アイオロス王の合図とともに、防御バリアは解除されその途端にゾンビとの死闘が始まるのです。


 すでにこの砂漠の迷宮に集まったゾンビは数百万体を超えており、これ以上はこの空間にも収まりきらないでしょう。


 まさに潮時なのです。



 ズズーン。

 最後のポットが落ちた音を聞くとアイオロス王は合図をおくります。


 たちまち凄惨な戦いの火ぶたが切られました。


 業火で焼き払おうとする者、氷の刃を使う者、凄まじい竜巻でゾンビを吹き飛ばす者。物理攻撃でひたすらぶん殴る者、ドッカーン、ドッカーンと爆発音がするのはセンでしょう。


 私達はノリス達にまもられながら、除霊を開始します。


 私のフルート、ムラサキの唄声、そしてミズイロのバイオリンの音色が一つにまとまって、ゾンビたちをオーロラが絡めとっていきます。


 オーロラはその形や色を自在に変化させながら、ゾンビの放つ禍々しい瘴気を静かに溶かし続けます。


 さすがに膨大な瘴気の前に、私達はとうとう音楽を奏でる余裕すらなくなり手の平に術式を集めてはひたすら放出を繰り返しています。


 賑やかだった戦闘の音がおさまると、アイオロス王は全ての霊力をもっとも絆が弱まっている一点に集中させました。


 いまこそ、天球が双子星の定めから解き放たれる時です。


「続けろ! 霊力をきらすな! 最後まで踏ん張れ!」


 アイオロス王の檄が飛びます。


 こんなにも必死な顔をしたお父さまをみたことがありません。


 霊獣たちも必死に踏ん張りますが、ひとり、またひとりと霊獣たちが倒れていきます。



「ノリス。 ミドリ。アカツキ。 お前たちもこっちに加われ!」


 最後の一息なのに、そのあと一押しが足りていないのです。


 ノリスたちはすぐさま私たちから離れると、霊獣たちに霊力を合流させます。


 少しづつ弱まっていた霊力がまた本流のように復活しました。


 その時、凄まじい旋光とともに絆が断ち切られ、霊獣たちはそのまま意識を失ってしまいました。




 やがてゆっくりと起き上がったのは、ノリス、ミドリ、アカツキの最後に攻撃に加わった面々でした。

 まだ霊力に余裕があったのでしょう。


 彼らは倒れている人々を次々と目覚めさせていきました。


「やったのか」


「あぁ」


「終わったんだなぁ」



 凄まじい戦いに勝利をおさめたというのに、彼等英雄たちはとても静かにその勝利を噛みしめていました。

 なんだかすべてが終わったという実感が持てないようです。


「いやぁー。こいつはかなりきつい仕事だったんじゃないか? おいレイ。地上で待っている奴らに作戦の成功を伝えてやれ! もう魔獣に襲われる心配はないってな」


 レイが通信装置を起動させて勝利宣言をすると、装置の向うから怒涛のような歓声が聞こえてきました。


 それを聞いてようやく勇者たちも勝利の実感がわいてきたようです。


 うぉーという地鳴りのような声とともに、あちらこちらでハグをしたり、肩を叩きあって勝利を喜ぶ姿が見られました。


 とうとう天球は勝利をおさめたのです。




 ふっとノリスはナナの姿がどこにもないことに気がつきました。


「レティシア王女はどこだ? 誰か見なかったか? 」



 それを聞いたミドリとアカツキも己が守っていた女性の姿がないことに気がついたのです。


「ムラサキがいない!」


「ミズイロはどこだ?」


「馬鹿な! 除霊能力者が全員消えただと! やっと天球は瘴気の危険から免れたんだぞ! 今さら除霊能力者たちを攫ってなんの得があるっていうんだ!」


「信じられない! なにが起こったんだ」



 ノリスたちが騒ぎ立てる姿をみて、アイオロス王をは嫌な予感がしました。


 まさか。

 いくらなんでも、そこまでするのか?


 やりかねない。

 それがアイオロス王の結論でした。


「シロ、気配探知を地球へむけろ! ナナ、アカツキ、ミズイロ。誰でもいい。気配が探れないか?」


 まさか!

 人々は呆然としてしまいました。


 確かにこちらに人を送れるなら、こちらから人を召喚することもできるでしょう。


 しかし、そこまでするのか?

 そこまで読み切ったというのか?


 こちらが地球との絆を断ち切る、その直前を狙いすましたような召喚。


 そんなことが考えられるのだろうか。


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