魔人来襲
とりあえずノリスをなだめつつ森のシャーマンの意向を伝えたところ、大方はダンたちの調べと合致していたようです。
ノリスはかなり不機嫌でしたが、ともかくもウィンディア王国までひたすら飛び続けてくれました。
「お父さまただいま帰りました」
ノリスには休息をとって貰っていたので、報告は私が担当することになっています。
「よう、遅かったな。待ってたぞ」
爽やかな笑顔で迎えてくれたのは、まさかの森のシャーマンこと琥珀の亀の霊獣さまでした。
「な、な、なんでこんなとこにいるんですかー!」
私が思わず大声をだすと。
「こんなとこってことはねーだろうが。お前の国なのに。」
琥珀さまはいけしゃあしゃあとおっしゃいますが、そんなことを言ってるわけじゃないんですよね。
「だって一昨日には灰色の賢者さまの島にいたでしょう。どーやってここまできたんですか」
「あーそれですか。 転移が出来るのはサクラだけじゃないってことかな」
そっかぁ。
でも、サクラは灰色の賢者さまの島までは遠見できなくて、見ることのできない場所には転移できなかったんですよ。
そーゆー意味では、琥珀さまのほうがサクラよりも転移能力が高いのかもしれませんね。
私はお父さまのほうを振り返りました。
「お父さま。それでもう琥珀さまとのお話合いは上手くいきましたの?」
「まぁな。面白い奴らだなぁ。森の自由民ってのは」
どうやらお父さまは琥珀さまと上手くいっているようです。
「なぁ、約束したろ。ウィンディア王国を案内してくれるって」
自由すぎですよね。
森のシャーマン。
「あのですねぇ。私も王都なんて散歩したことなくてですねー」
私があわあわと断っているのを、お父さまたちは面白がっています。
見てないで助けてくださいよー。
「へっ? なんで自分の国すら歩かないの?」
自由人の発想は自由すぎる。
「私が外歩くと危険てゆーか。わりとすぐに誘拐されるとゆーか」
「えーすっごい過保護なんだなぁ。誘拐されるのが怖くて自分の国もあるけねぇのか」
うん、それ普通なら正解なんだけど……。
「いやぁー、面白れぇ。行ってこい。」
お父さまがそういいましたが、これってもしかしてノリスへの当てつけですよね。
ぜーったい面白がってますよね。
「あのですね。琥珀さま。私には婚約者がいましてですね」
そういうと琥珀さまはさらにきょとんとしてしまいました。
「ただ王都案内するだけだよ」
そう軽く言われてとうとう私はなにも言えなくなりました。
これを知ったらノリスはぜーったいに怒りますよね。
「では誰か案内を付けますね。私は町はよく知らないので」
とにかく二人っきりにだけはなるまいとしたのですが、これもあえなく却下されてしまいました。
「大丈夫だよ。僕は道に迷ったりしないんだ」
あーそーですか。
だったら案内不要じゃないですかね。
「じゃぁ姫。お手をどうぞ」
え、え、今からですかぁ。
うん、ここってはじめて霊山から降りてきた時の広場だ。
やっぱり屋台がならんでる。
いー匂い。
「琥珀さま、屋台がありますわ。行ってみましょう」
そー言って駆け出した途端、どんと誰かにぶつかって、ころころと転がってしまいました。
ゆっくりと身体をおこすと、なんだか巨体の人がお伴を連れて私を睨んでいます。
わーん。さっそくやっちゃいましたよ。
「おい、いきなり人にぶつかるとはいい度胸じゃねえか」
私はあわてて立ち上がって、丁寧に礼をとりました。
「申訳ございません」
その途端、男たちの目が物欲しげにぎらぎらとし始めます。
「いやぁー。可愛い娘さん。お詫びにちょっとオレたちと付き合ってくれねえかなぁ」
そこに琥珀が割ってはいりました。
「すまないね。お兄さんたち。この娘は僕のツレなんだ。遊ぶんならそういう処にいきなよ」
そこからはおきまりのバトルになって、まぁ普通の人間は霊獣にはかないませんから、巨人さんたちは警邏に連れていかれることになりました。
「ごめんなさい琥珀さま、せっかくの王都見学だっていうのに」
私が謝ると、琥珀さまは愉快そうに言いました。
「いやぁ。僕はかまわないよ。面白かったしね。しかし王都に出てちょうど5分だったよ。カナリアの事件遭遇率はありえないレベルだって聞いてたけど本当だね」
時間を測ってたんですか。
もう絶対におもしろがっていますよね。
「琥珀さま!」
私が叫べば、琥珀さまもうなずきました。
変です。
ありえない位の瘴気が漂ってきます。
この間の魔獣の大量発生の時みたいです。
私は急いで、このことをレイに報告しました。
人間では太刀打ちできるレベルではないので、すぐにレイが合流してくれるそうです。
私たちがそぞろ歩きをして5分ですから、レイは直ぐにやってきました。
「ナナは王城に戻りますか?」
レイがそう聞くということは私の力が必要だということです。
「いいえ、瘴気の浄化は私でないとできません。同行します」
そういうとすぐに私はレイの倉庫に放り込まれました。
どうやらアンジェ用に、レイも倉庫に家を用意しているようです。
とりあえず椅子に腰かけて出番を待ちます。
あの瘴気なら、私の出番は直ぐに来る筈です。
出番は直ぐにやってきました。
ここは前回の魔獣襲撃のあと、まだ復興出来ていない地域です。
廃墟の中に、信じられないものをみました。
魔獣化した人間。
魔人です。
元が人間だとわかるのは、かろうじて2足歩行体型を取っているからです。
見た目はもう人間の姿など、どこにもありません。
イメージは悪魔でしょうか。
かぎ爪が長く折れ曲がり、やはり山羊のような折れ曲がった角があります。
どす黒く変色して、身体は倍ぐらいに大きくなっています。
琥珀さまが、結界を張って閉じ込め、レイが電撃で攻撃していますが、魔人はびくともしていません。
恐ろしい声で呪いの言葉を紡ぎ始めました。
こんな魔人の呪術をかけられてはたまったものではありません。
私は即座に解呪のスペルを魔人にぶっつけました。
魔人が苦しんでいるすきに、琥珀が結界を狭めて押しつぶそうとし、レイが電撃を落とします。
私は素早くフルートを取り出すと、解呪の術式を拡大しました。
フルートの音色が聞こえると魔人から、少しづつ瘴気が剥がれ落ち、魔人が徐々に小さくなっていきます。
すべての瘴気を浄化し終えた時には、小さく歪にゆがんだ人間の死体が残りました。
レイは警邏にこの人間を調べるように指示を与えています。
「ごめんなさいレイ。すぐに収納してくれる」
レイは素早く私を倉庫のベッドの上に落としました。
またもやしばらく私は寝込むことになりそうです。
大いなる災いというものに、いささいか呑気に構えていた琥珀の亀も、実際に魔獣と戦ってその考えを変えたようです。
森に戻ったら集まっている霊獣たちに今の危機的な状況を正確に伝え、有志を募って小国への派遣を検討してくれるそうです。
ずっとひとつの国に絡めとられるのは嫌でも、期限付きで人間を守ることならよしとしてくれそうです。
実際先ほどの魔人も、琥珀だけなら倒せたかどうかわからないレベルです。
そんなのが大量にやってきたらと思うと、自分の森だけを守ってすむことではないでしょう。
この魔人騒動は、呑気な森の自由民の目を覚まさせる効果がありました。
瘴気の発生と魔人化をアイオロス王たちが知らなかったとは考えにくく、ナナの街歩きを勧めたのはどうやら琥珀に実際に魔人を見せる狙いがあったようです。
そーでもなければあのアイオロス王が、ナナを初対面の琥珀に預ける訳はないでしょう。
結果的にはこの事件があってから、森の自由民も国連に加盟することになりました。
レイご謹製のホットラインは、国連加盟国の元首にしかくばられませんから、何十、何百という魔獣を自分達だけで退治する自信がなければ国際連盟に加盟するしかありません。
そして森の自由民の国際連盟加盟に伴って、森に逃げ込んでいた霊獣たちがそれぞれ小さな国々の守護獣となりました。
最初は派遣でいいと言っておいたのですが、それが逆に霊獣たちのプライドを傷つけたらしく、結局いまのところ天球には野良霊獣がいなくなりました。
ただし森の暮らしが気に入った霊獣2体は森の自由民の守護霊獣となっています。
紆余曲折はありましたが、結局はアイオロス王が引いた青写真通りにことが進んでいます。
アイオロス王がどこまでよんでいたのかは誰にもわかりませんが、琥珀にしてみればしてやられた感が強いようです。
今回も私が意識を取り戻すまでノリスはウィンディア王国に残りましたし、その間に琥珀がいいようにアイオロス王にやられているのを見て留飲を下げていたようです。
目が覚めた私は、自分がいろいろ拙いことをやらかしたという罪滅ぼしをしたくて、ノリスのあーん攻撃も甘んじて受け入れていました。
周りもノリスの給餌行為にはすっかり慣れてしまって、私の席を用意しなくなるほどでした。
それぐらいノリスは私を自分の膝から降ろそうとはしませんでしたから、ノリスが満足して砂漠の国に帰るまで私にとっては羞恥の日々が続きました。
ようやくノリスが砂漠の長の催促に負けて砂漠の国に帰った時、私は思いっきり琥珀を罵倒しました。
琥珀が余計なことをしなければ、ノリスだってあそこまで激アマにはなりませんよね。
ならないって言って下さい。
お願いします。




