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森のシャーマン

 森のシャーマンが直接ナナと接触を試みたという話はウィンディア王国の首脳部を困惑させました。


「なにがやりたいんだ? 天球にとっての重要な問題だって理解できないのか?」


 ノリスがうんざりしたように言いますが、それはその通りです。

 こうやってゴルトレス帝国ですら歩み寄りを見せているのですから。


「ともかくお前たちは予定通りに灰色の狼に会ってこい。灰色の賢者どのから霊獣たちに協力を呼び掛けてもらえれば、隠れている霊獣たちも出てくるかも知れないからな。森のシャーマンへのけん制にもなるだろう」


 お父さまからはそのような指示がでましたので、私たちはこのまま辺境の離島へと旅立つことになりました。


 森のシャーマンの動向はダンたちが探ってくれますから、灰色の賢者のお墨付きをもらうころには事情がわかるでしょう。


 賢者の住む離島に行くには本来なら船で3ヶ月もかかります。

 今回はノリスが青龍になって2昼夜飛び続ける予定でした。


「ノリス大丈夫? そんなに飛び続けられるの?」


 私は心配でたまりませんが、青龍にとってはそこまで心配しなければならないことでもありません。


 たしかにかなりきつい旅程ではありますが、自分が力尽きたら私まで危険にさらすのですから、ノリスは死に物狂いで飛び続けるつもりなのです。


 きつい旅程に備えてノリスはたっぷりと食べて、ぐっすり眠りました。


 ムラサキはノリスに、2度と絶対にナナのお守だけはしないからなと念を押したんですって!


 つまり私を一緒に連れていけと言いたい訳なんですが、ノリスは元々そのつもりだったのでムラサキの言葉を聞いて笑ってましたよ。


 よっぽど私の護衛は辛かったんですねぇ。

 私を置いていくんじゃないかとおびえるほど。


 まぁセンですら私の護衛には文句をつけてばかりいますものね。


 不思議なぐらいに私はトラブルを呼び寄せます。

 今回だって何がおこるかわからないぞ! とノリスは言ってるんですけど、まさかねぇ。


 朝日が昇る前に私を次元倉庫に入れてノリスは旅立ちました。

 ノリスはひたすら飛び続けるだけですし、私はいつもの小さな家でゆったりと到着を待っています。


 ノリスは雲を避けて高高度を保つことになっています。


 その分、酸素が薄くなり体力を消耗しますが、地上の人々を驚かせずにすみますし、天候に左右されることもありません。


 さすがに高高度で音速に近い速さで飛ぶのは、頑丈な竜体だからこそできることです。


 出発から2日目の朝、無事にノリスは灰色の賢者がすむ街に降り立ったと連絡がありました。


 前もってアポイントメントがとってあったので、ノリスはすぐさま医者によるメディカルチェックを受けて、速やかに寝室に案内されたんですって。


 今回は、私が同行することは伝えていません。

 なるべく私の存在を秘匿する方向にウィンディア王国の方針が転換されたのです。


 森のシャーマンの件もありますし、この先どうしてもナナの能力が必要になります。

 ナナが現在どこにいるかは、ウィンディア王国のごく一部の者しか知りません。


 ノリスはたっぷりの食事をとり風呂にはいると、そのまま死んだように眠り続けたそうです。


 私は同行できませんでしたが、ノリスと灰色の賢者との会談はこんな風に進んだそうです。


 1昼夜眠ったノリスは、さっぱりとした顔をして、灰色の賢者との面会をはたしました。


「私は、もうすぐに霊山に旅たつ。そのまえに役に立つことができるのは嬉しいことじゃ」


 灰色の賢者はそうしみじみと述懐すると、ノリスの肩に手を置いて言いました。


「年若き勇者よ。こののちの困難はさぞかし厳しいものになるじゃろう。そのような場所にわしは立つことが許されない。選ばれし者たちよ。どうか天球を、民を守っておくれ」


 そう言う灰色の賢者は、年齢に似合わず覇気に満ちていましたので、ノリスはいまでこそ賢者といわれる灰色の狼も実は、かなりのバトルマニアであったのではないかと思うのでした。


「お任せ下さい。灰色の賢者どの」


 こうしてノリスはしっかりと灰色の賢者のお墨付きというか、世界の霊獣に向けた檄文を受け取りました。


 そこには天球を守って欲しいとの灰色の賢者の切実な願いがしたためられていたのです。


 この檄文はレイのホットラインを通じて各国首脳に届けられ、首脳たちは即座にその檄文を国中に配布しましたから、灰色の賢者の想いは全ての霊獣に届けられたはずでした。


 ノリスは帰国に備えて疲労回復に効能があるという温泉施設に招待されました。


 ノリスがゆっくりとくつろげるように、その日はノリスの貸し切りでしたから、ノリスは私を次元倉庫から呼びだしたのです。


「ノリス、ここはどこなの?」

 私は見慣れない風景に戸惑ってしまいました。


 だって次に倉庫から出るのはウィンディア王国に帰国した時だと聞かされていたからです。


「どうしても会いたかったからさ。温泉はナナも好きだろう?」

 ノリスは少し照れたような顔をしています。


「ええ、温泉は大好きよ。ノリスありがとう」


 私は嬉しくてノリスに抱き着きました。


 私が温泉に入っている間、ノリスが入り口で見張りをしてくれるんですって。


 私がゆったりと温泉楽しんで待ちわびているノリスのもとに向かった時、おかしなことにノリスはいなくなっていました。


「ノリス。ノリス。どこにいるの?」


 奇妙なことにどこにも人の気配はしません。


 私は、ようやくその理由に気が付きました。

 ここは霊獣が持つ次元倉庫の中だ!


 いつの間に次元倉庫に足を踏み入れていたのでしょうか?

 どこかにひっそりと次元倉庫の入り口を仕掛けていたに違いありません。


 ちょうど狩人が獲物が罠にかかるのを待つように。


「森のシャーマンさま。いったい私に何の御用なのですか?」


 ふっと琥珀色の瞳をした男がその姿を現しました。


「私だとよくわかりましたね。金のカナリアどの」


 そういう琥珀の亀の霊獣さまは、この場面にそぐわないほど優し気です。


「今、一番私に会いたがっている霊獣さまは、あなたさまですから。それでどうかご用件をお話くださいませ。ノリスが心配してしまいますから」


「そう急がせないでよ。座って。美味しいお茶があるよ」


 なにもない空間に、ゆったちとした椅子とテーブル。

 テーブルの上には緑茶とお団子が現れました。


 私が椅子に座って、懐かしいお団子を見てみると、緑色のずんだ餡、濃い茶色の小豆餡、そしてみたらしを絡めた団子の3種類が盛合せてあります。


 湯気をたてているお茶を飲んでみたら、爽やかな香りのお煎茶です。


「抹茶の方がいいなら用意できるけど、どう?」


 嘘でしょう! お抹茶が飲めるんですってよ。


「では、お薄をたてていただけますか?」


 すぐさまお薄が提供されました。


 私はまず、ずんだ餡を絡めたお団子を楽しみました。

 そうしてお薄をいただくと、お茶の甘味が舌を喜ばせます。


 ふぅー、私は思わず満足のため息を吐きました。

 とっても美味しいです。


「やっぱり女の子を篭絡するなら甘味が一番だね」

 そんなことをいいながらも、緑のシャーマンには嫌味は少しもありません。


「だって、久しぶりなんですもの。それで?」

 私は話を促しました。


 私だって森のシャーマンが、私をお茶に誘っただけとは思っていませんからね。


「うーん。ちょっと困まっててねぇ。私の守る森はこまった人の駆け込み寺みたいな側面もあるんだよ」


 そうですよね。

 もともと国から逃げ出していき場所のない人が集まっている場所ですもの。


 もっとも犯罪者とかは、絶対に受け入れません。

 もしも犯罪者が入り込んでいるのが見つかったら、森の入り口の木に縛り付けられて放置されます。


 よくしたもので、犯罪者を捉えることをなりわいとする賞金稼ぎたちが、森の入り口に犯罪者が放置されると嬉々として捕まえますから、そうした人たちがミイラになることはありません。


 しかしこの話の流れですと……。


「もしかして霊獣たちが逃げ込んでいると?」


「大当たり! それだけなら別にいいんだけどね。霊獣が欲しい国々からうんざりするぐらい人がやってきてうるさくてかなわないんだよ」


「しかも灰色の賢者さまからのお墨付きも貰ったろう? もう国を守護しない霊獣はまるで悪人みたいな扱いなんだよね。 でも僕らは自由を保障しているんだ。意思に反した契約を迫られるわけにはいかないのさ」


 それは確かに正義という名の暴力ですわね。


「わかりました。お父さまにお願いして森に逃げこんだ霊獣を追わないように約束させますわ。その代わりに、もしも災いの船がやって来た時には、この天球を地球から切り離すために霊獣さま方のお力を借りられないでしょうか?」


「うん、僕も最低限そこは協力しなければならないと思っているよ。すでにそのせんで霊獣たちとの約束も取り付けているしね。じゃぁよろしくね」


「お待ちください。森のシャーマンさま。そのようなお話でしたら直接アイオロス王にお話下されればよかったのではありませんか?」


「なに言ってんの? おっさんと話すよりかわいい女の子と交渉する方が楽しいにきまってるじゃない。まぁいちおう正式な同意文書が欲しいから、君のおやじどのにも会いにいくよ。その時はぜひカナリアに王都を案内して欲しいな」


 そう言って森のシャーマンは、やさしく私のほっぺに口づけして消えてしまいました。


 そして私はいつのまにか、お風呂の入り口にぽつんと立っていました。


「ナナ、随分ゆっくりだったな。のぼせたんじゃないのか? 顔が真っ赤になってるぞ」


 ノリスが待ちかねたようにそう言いました。


「ノリス―」

 私はノリスに森のシャーマンとした話を伝えましたが、案の定ノリスは冷気を纏い始めました。


「それだけじゃないよね。何をされたの? なんでそんなに真っ赤な顔になってるの。ちゃんと言うまで許さないよ」


 いやいや、ノリスさん。

 ちゃんとお話したら、それはそれで怒るじゃないですか!


 もーいやだ!

 誰か助けて!


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