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プレスベル皇国の内紛

 今夜の晩餐会の席次ですが、セーラ皇女が尽力してくれたので、私はセーラ皇女の隣に席を用意してもらうことになりました。


 私も他国からの賓客なので本来なら皇太子殿下のお隣の席に座る筈だったのですよ。


 今夜の晩餐会にはゴルトレス帝国の大使閣下も出席予定でした。


 そうなんです。

 ナナが昼間に会ったのはゴルトレス帝国の大使だったんですよ。


 それだけでも出席が憂鬱になりますよね。


 私は自分の次元倉庫からクローゼットを取り出しました。

 このクローゼットはノリスから贈られた服だけを収納しています。


 ノリスからのプレゼントだけは、私室ではなくこうして自分の倉庫にしまって持ち歩いているんです。


 こういう点だけみれば、私もけっこう乙女チックなのかもしれません。


 砂漠の民の作り上げる精密なレースや染色技術を使ったローブは、どれもため息をつくような美しさです。


 私はノリスの瞳の色である紺碧のローブを選びました。


 深い青色のドレスには小さな宝玉が散りばめられていて、私の華奢な身体でも華やいでみえるから不思議です。


 セーラ皇女はセンの瞳の色である黒のドレスに、細かなダイヤモンドが大量に縫い留められている素晴らしく豪奢なドレスを選びました。


 このセーラ皇女のローブは、センから贈られたものです。

 セーラ皇女にもいろいろと思うところがあるのでしょうね。


 私は控室でセーラ皇女と一緒に呼び込みを待っていましたが、なんだかセーラが緊張しているようなのが気にかかります。


 私はこの晩餐会を終えしだいサクラに転移してもらう約束なのですから、どうか何事もなく和やかな晩餐になるように真剣に祈りました。


 さすがにこれ以上だれにも迷惑をかけたくありませんからね。



 セーラにとっても私が隣に座っているのは、心強いことのようでした。

 なぜなら皇太子殿下の様子がとても奇妙だったからです。


 心配事でもあるかのように自分の妃をしきりに気にしていますし、その視線がゴルトレス帝国の大使とレティシア王女の間を何度もさまよいます。


 おかしいですね。


 皇太子殿下とは何度かお話をしたことがあります。


 皇帝陛下とは違い少し気弱な面はありますが、それでも次代の皇帝としての立ち居振る舞いには全く問題がありませんでした。


 なのに今夜の皇太子殿下は誰の目にも挙動不審に見えてしまいますし、しかもそれを隠す余裕すら失っているように見えます。


 皇帝陛下も、もちろんその事はわかるらしく時々咎めるような鋭い視線を皇太子に送っているのですが、それすらも気がつかない様子なのです。


 もしかしたら判断を間違えたのかもしれませんね。

 皇太子殿下の招待をうけるべきでした。


 皇太子殿下には明らかに、何か悩みがありそうです。

 だから癒しの力を持つ私に相談したかったのかもしれません。


 突然、皇帝陛下がはぁはぁと息をあえがせ始めました。


 しまった! 毒を盛られましたね。

 私は素早く術式を編むと、皇帝陛下の解毒をしました。


「なに! 毒だと。」


「皇帝陛下に毒が盛られた!」


「犯人はだれだ!」


「捉えろ!」



「馬鹿な! どうして父上が……。」


 皇太子殿下が呆然として立ち竦みましたが素早く気を取り直すと、すぐに皇太子妃を守るように部下に命じます。


「皇太子妃をすぐに部屋に避難させるんだ!」


 皇太子殿下! 順番が違います。

 私は思わず心の中で叫びました。


 皇帝暗殺が行われている今、真っ先に皇太子殿下がしなければならないのは皇帝陛下の安全確保です。


 幸いなことにカナリアである私がいたので、皇帝陛下の命に問題はありません。


 だからこそ、ここは皇太子殿下が指揮をとって皇帝陛下を避難させないといけないのです。


 しかしすでに遅かったみたいです。

 皇太子殿下への不信の念は、じわじわとここにいる人々の心に広がっていきました。



「すぐにお父さまをお部屋にお運びして!」


「レティシア王女によって解毒は成功しています。騒がないで!」


「お父さまの元に、すぐに医師を派遣なさい。」


 矢継ぎ早に正しい命令を発すると、セーラ皇女は人々を見渡して言いました。


「申訳ございませんが、本日の晩餐会はお開きとさせていただきます。このお詫びは後程させていただきます。決してここでの出来事を口外しないことをお約束してくださいませ。」


 パン、パンと拍手をしながらゴルトレス帝国の大使が立ち上がりました。


「さすがにプレスベル皇国の皇女殿下。お見事な采配ですな。このこと口外などいたしませんとも。」


 そう言ってにやりと笑う大使の顔を見て全てがわかりました。


 皇太子殿下は嵌められたのです。


 だって皇太子殿下が、真っ先に心配したのは、己の愛する妃でしたもの。

 そんな皇太子殿下がゴルトレス帝国の王女を妃に望むはずありませんよね。


 皇太子妃暗殺計画でもほのめかされていたに違いありません。


「セーラ、私たち間違ってしまったわ!」


 私が叫ぶとセーラもこくりと頷きました。


 セーラの顔色は、皇太子殿下以上に蒼白です。

 ゴルトレス帝国の目的は、プレスベル皇国に不和をもたらすことだったのです。


 実際にセーラ皇女は、半ばその噂を信じていました。

 私にも、その不信を訴えていましたからね。


 しかもこの場で皇太子を差し置いて、采配を振るったことでセーラ皇女は王位を望んだと取られかねないのです。


 このままいくと皇太子派とセーラ皇女派という派閥争いがおきる可能性があります。


 しかもまずいことにセーラ皇女のフィアンセはウィンディア王国の霊獣なんですよ。


 ウィンディア王国黒幕説だって流れる可能性もあるでしょう。

 まんまとゴルトレス帝国の仕掛けた罠に、はまってしまったようです。



「セーラ、すぐに皇太子殿下と話さないと。」


 私が促すとセーラは、急いで皇太子のもとに駆け付けました。


「お兄様。」

 セーラが語りかけると同時に、ひとりの騎士がセーラの前に立ちふさがりました。


「うまく考えましたな。それ程センさまを帝位につけたいのですか! 父君をおとりにしてまで!」


 騎士はそう憎々し気に言い放つと、皇太子を守るように部屋を出ていきました。



 呆然として立ち尽くすセーラに私は声をかけました。


「とにかく争いの火種を早急に消さないといけないわ。セーラ、皇后さまに面会の先ぶれを!」


 セーラと私は急いで簡素な服に着替えて、皇后陛下への面会の返事をまちました。


 皇帝陛下のお命が狙われた今、晩餐会の豪奢な装いはとても場違いにうつるでしょうから。


 こういう時には時間が経つのが怖ろしく遅く感じてしまいます。


 私はその隙に今夜起きたことを、レイに連絡しておくことにしました。


 どうせレイの事ですから私の知らないことまで把握しているでしょうけれど、当事者の報告も大事ですもの。


「心配しなくてもいいですよ。皇后陛下からすぐに連絡が来ますからね。」


 レイはいつもの穏やかな様子ですこしも焦っていませんでしたから、きっとすぐに解決するはずです。


「セーラ、安心して。レイが大丈夫っていうならきっともう解決したんだわ。」


 私がセーラを安心させるように言えば、セーラは納得できないというように尋ねました。


「でもレティ。いくらなんでもどうやって解決させるっていうの? 私ったら敵の思うつぼにはまってしまったのに。」


 セーラはすっかり興奮してうまく感情が押さえられないようです。


 そこに待ち望んだ返事がきたので、私とセーラは連れだって皇后の私室に向かいまいした。


「私、お父さまやお母さまに叱られてしまうわね。」

 セーラが小声で囁きます。


 セーラもお父さまとお母さまには頭が上がらないんだなぁと、私は一筋縄ではいかない自分のお父さまとお母さまを思い浮かべて同情しました。



 皇后の間にはいると……。


 そこにいたのは治療中である筈の皇帝陛下と皇后陛下。

 仲睦つまじい様子の皇太子殿下と皇太子妃殿下。


 そしてなんとノリスとセンまでいるではありませんか。


「セン!」

「ノリス!」


 セーラが真っ先にセンに抱き着けば、私もノリスの元に飛び込みました。



「やれやれ、死にかけたというのに子供たちは自分の連れ合いの方が大事と見える。」


 皇帝陛下がそう言ってぼやくのを皇后陛下が慰めています。


「まぁ、あなたには私がついておりますでしょう。」


 プレスベル皇国の皇后陛下も上手に皇帝を手玉にとっているようですね。



 はっと気がついたようにセーラがセンから離れました。


「どういうことですの。もしかしてみんなグルですのね。」



「まぁ、そう怒るなセーラ。なにも聞かされていないのは私だって同じなんだぞ。」


 皇太子殿下がうんざりしたようにセーラを慰めています。


「父上、セーラはともかく私はもう40歳なのですぞ。それなのに何も知らされないというのはいかがなものでしょうか? それでなくともおかしな噂のせいで妃が不機嫌だというのに。」


「まったくお前という奴は、わしの命より妃の機嫌の方が大事と見える。仕方がなかろう。敵を騙すにはまず味方からじゃ。今頃はゴルトレス帝国の奴らは不和の芽を植え込んだと上機嫌だろうよ。大使も交代するとのことだしのう。」


「それはそれは。あの大使は宰相閣下のご子息のはず。それ程の者をつかわしても内紛を起こそうとするとは! 父上、このままには捨て置けませぬぞ。」


 皇太子殿下はよほどゴルトレス帝国のやり方が気に入らないのでしょう。


「お兄様、次の大使はもっと御しやすいのでしょう。それならもういいではありませんか。」


 セーラが宥めても皇太子殿下はとまりません。


「ですが不和の噂は早めに消火しませんと。」


 皇太子殿下が言うのも最もなのですが、ゴルトレス帝国の手がどこまで伸びているか調べる必要があります。


 そのためにわざわざ子供たちにも内緒にして、争いの芽を見せつけたのですからね。



「ノリス、セン。それで取り込まれた貴族はどのくらいいそうなの?」


 私の質問にセンが答えました。


「けっこうやられてるぜ。こういった歴史のある国ってのは厄介だなぁ。不満分子が表にでないんだよ。」


「そういうことじゃ。せっかく尻尾をだしたのじゃから、この際後顧の憂いを取り除いておかなくてはの。お前の御世が健やかであるようにのう。


 皇帝陛下の慈愛溢れることばに、いいように利用されたこともすっかり忘れて、皇太子殿下もセーラ皇女も感動を抑えられない様子でした。


 けれど私は散々アイオロス王で経験しているからわかっています。

 どーせそのしりぬぐいをさせられるのは、感動しきっている皇太子殿下なんですよ。


 皇太子殿下、かけてもいいけれどもしばらく愛しのお妃さまと過ごす時間はとれそうにありませんわよ。


 それにナナに潜むカナリアが教えてくれています。

 皇太子妃のお腹には、新しい命が宿っていることを。


 きっと最近皇太子妃が不機嫌に見えたのはそのせいでしょうねぇ。

 そう思うとこのあまりに生真面目な皇太子殿下が少しばかり気の毒に思えるのでした。



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