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ナナ王女さまになる

 ウィンディア王国は、私たち3人の処遇に困ってしまいました。

 霊獣としてなら国賓待遇が受けられますが、レイが断ったからです。


 私たちも、お仕事もしないで居候するのはワーカーホリックの日本人としては辛いものがありますし、ウィンディア王国としても霊獣を宿した異世界人なんて存在は秘密にしておきたかったんです。


 という訳で私たちはウィンディア王国に雇われるんじゃなくて王様が個人的に雇うことになりました。

 そうすることで誰も霊獣に命令しなくてすむようになりました。

 天球の人にとって霊獣は大切な存在なので、部下になんてしたら胃に穴が開きかねません。


 私たちのお願いは王様の意思として大抵叶えてもらえます。

 これはレイが、いざという時のために命令権は確保しておきたいという理由で、予め王様の許可を貰って実現しました。


 でも私が庭園に行きたいとかお願いしても、必ずレイ様に確認してまいりますとか言われて全然お願いを聞いて貰えないので、もしかしてレイ限定なんじゃないかと疑っています。


 レイに関しては王の執政官として政策に携わることになり、センに関しては王直属の護衛官とすることになりました。


 私の待遇が一番揉めてしまいました。


 カナリアの力のひとつとして、人の害意に敏感というのがあります。

 私がいると王様に刺客が近づいたり、笑顔で毒を盛ろうとしたり、騙そうとしてもすぐにわかってしまいます。


 だから王様付きの侍女として王の近くにいる。というのはすぐにきまったんです。


 けれど王様の寝室の近くに部屋を貰ったり、王様の執務室の中に私のスペースを作ったりすると、侍女としてはとってもおかしなことになってしまいます。


 そこで王様は私を自分の子どもってことにしてしまいました。

 それならちょっとした特別待遇の言い訳になります。


 ウィンディア王国では、王妃さまの子ではない限り、王族とは認められないので、私の存在は王様のそば近くに仕える人だけが知っているぐらいだから気楽なのもいいですね。


 ただし私の行動範囲は、王様のプライベートスペースの中って限定されています。


 図書館ですら王族専用スペースの図書室が使えるだけなので、王都の図書館に行きたいと言ったら、まるで駄々っ子を見る目で見られてしまいました。


 確かに図書室の本は、時々入れ替えてもらえているけれど、大きな図書館にずらっと本がならんでいる様子ってそれだけでワクワクしませんか?


 まぁ、私は駄々っ子ではありませんから、無理をいう気はないんですけどね。


 私はただ王様の執務室や。王様の寝室の近くにいるだけがお仕事なので退屈するかと思ったら、これがとっても面白いんです。

 

 今日もレイは王様と議論をして面白がっています。


 テーマは、「英邁な王による独裁政治と、愚昧な政治家による民主主義、どちらがより民衆を幸福にできるのか?」というものです。


 レイは民主主義というのが、人類の英知の結晶であることに、いぞんはないようなんですが、地球でよほど衆愚政治という奴で苦労したらしくて、王様の執政官という仕事を得て、とても生き生きしています。


 センの方はといえば、じつは黒猫亭にいたゴードンと気があうようで、たまにきて軽口をたたく以外ほとんど王城に寄り付きません。


 ゴードンは王直属の守護隊の隊長で、モリスは近衛隊の隊長、モリスと一緒にいたジークが王国騎士団の団長なんです。


 近衛隊は王と王族を守るのがお仕事で、主な働き場所は王城の中になります。

 だからモリスはほとんど、王様やレイ、そして私といっしょに執務室にいることが多いんです。


 対して守護隊は、やはり王と王族を守ることを第1にしているんですが、主な働き場所は城外となります。

 なのでゴードンやセンはあまり執務室に寄り付きません。


 そして騎士団はウィンディア王国直属の軍隊と考えるとわかりやすいと思います。


 モリス・ゴードン・ジークの3人は、幼いころから王とともに育った悪友であり、世にいうところのご学友というものなんですって。


 王さまが自分の一番信頼する側近をうごかしたイタズラだったんですもの、私なんかが逃げられる訳なかったんですよね。


 そう考えるとあの時の一生懸命な私がなんだか可哀そうになってしまいます。

 腹黒大王の悪戯に右往左往して、なんとか逃れようと必死だったんですもの。


 私は子猫みたいに、王様の執務室でこの国の政策がどんどん決まっている様子を眺めたり、好きな本を読んだりしてすっかり満足していました。


 それでも週に1度くらいは、王様を騙そうとする人や、殺そうとする人がやってくるので、それをお知らせしますと、王様はカナリヤ警報発令だと、面白がるんですから失礼しちゃいますよね。


 しかし、そんな3人の平穏な生活が、プレスペル皇国の使節団に寄って破られてしまったんです。


 使節団と王の謁見を、私も自分に与えられている場所で見ていました。

 外交の場面では、見えない場所にいて、嘘や害意のある部分を、担当官にささやくのが私のお役目ですからね。


 使節団は驚いたことに、皇国のわずか10歳になる第2皇子を、遊学のためといって連れてきていました。

 もちろん人質としてですよ!


 確かにゴルトレス帝国は、日増しに侵略の手を延ばしているから、王国と皇国の同盟は、国の存続に関わる事態なんですけど。


 でもアイオロス王は未だ若くて、王位につくと同時に立后した王妃さまには、まだ1歳にも満たない王子さまがいらっしゃるだけなんです。


 まさか皇国は、幼い王子を人質に望むと言うのでしょうか?

 列席している重臣たちから重い空気が漂ってきますよ。


 使節団の代表がにこやかに口上を述べました。


「我が国には、王族・貴族が学ぶ学園もありますれば、姫君さまのご遊学の際にも、楽しんで頂けるかと存じあげます」


 王様も朗らかな声でこれに応えています。


「それはありがたい。姫も皇国での学園生活を楽しみにするであろう」



 アレ、王国に姫君なんていないよね?

 王子殿下の従兄姫かな?

 公爵家の姫君って、15歳だっけ?


 わたしが呑気にそんなことを、考えているあいだに、王の執務室には、知らせを聞いた側近3人組と、レイ、センが凄いいきおいで駆けつけてきました。


 「王、どこで情報が洩れたんです。ナナの存在は、王城深く秘匿されていたはずでは!」

 センが王に詰め寄ると、それをモリス隊長が庇う。


「レイも知っているでしょう。この頃の王への攻撃の露骨さを!それをことごとく退けたんだ。もう隠しきれないところまで来ていたんだ!」


 王様が心底悔しそうに

「ナナを守るために、わが子としたが、それを逆手に取られたようだ」

と言えば、


「そうか。訴求法を使うのか。王妃立后にさかのぼって、王妃の娘として王女宣下を出せば、クリアできる。普通なら重臣も神殿も許可しないが、王子を守る為ならやるだろう」


レイの言葉は、まるで敵の戦略を讃嘆しているように聞こえます。


「それで、まさかナナを人質にするってんじゃねえよな」

 センが王をねめつけました。


 この騒ぎをみて、ようやく私にも理解できました。

「狙いは私だったのね。だからみんな執務室まで来てくれたんだ」

 

「オレがナナの護衛として一緒に行く」とセン断言しました。


「そんな、ダメよセン。そんなことしたら、王国から霊獣が2人も行くことになるじゃない。それじゃぁ、皇国の思う壺よ」


「いや、私も行きますから3人ですね」


 沈着冷静がうりのレイまで、そんな発言をしたので、執務室はそれこそ怒号が渦巻く混沌とした状態になってしまいました。


 しかしアイオロス王はテキパキと主導権を握るとこの騒ぎをまとめ上げていきます。


 「ナナ、お前には王女として皇国に行ってもらう。いいな。王妃について王女としての基礎を叩き込んでもらえ!」


「みな、これは決定事項だ。今、第2皇子を人質として差し出された状態で、他の選択肢はない。王女宣下の準備をしろ」


「セン、お前には王女の侍従として同行してもらう。ゴードン、お前の家でこいつを養子にしろ。脳筋兄弟の出来上がりだ」


「出発は一ヶ月後だ。時間がないぞ」


「レイ、その頭脳を貸せ、プレスペル皇国にいいようにやられっぱなしじゃおさまらねぇ」


「近衛と守護隊からもナナの警備を出せ」


 混沌とした執務室が、あっというまに作戦室に変貌しました。

 


 レイの言った通り、私の王女宣下は満場一致で承認され、そのあとの忙しさといったら本当に目が回るようでした。


 短い期間で王女としてのローブデコルテを用意したり、正式な晩餐会出席のために必要な、勲章の授与式があったり、私の貴重な勉強時間が、王女としての公式行事に削り取られていきます。


 その合間を縫うように、位階にあわせた答礼法から、行儀作法。勲章の種類や略章の付け方など、本来は侍従がうけもつ部分まで、学ばないと侍従はセンですから、そこまで知る訳ないんです。

 

 そうはいってもセンだって、侍従としての知識の他に、護衛官としての訓練や、貴族としての礼儀作法まで詰め込まれて、アップアップの状態は私と同じでした。


 寝不足でふらふらになりながらの出発で、もう王城をでる感慨にふける余裕すらなかったから、出発はあっけないほどでした。



 アイオロス王とレイが出発前に私を抱きしめて

「必ず1年以内に取り返してみせますよ」

と約束してくれたから、だから安心してプレスペル皇国にいくことができるんです。


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