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虹色の霊獣

 地下トンネルを抜けるまでは、私もまるで小さなベッドのような棺に入れられていたのですが、トンネルを抜けると今度は背負い駕籠に放り込まれてしまいました。


私は薬の効き目もようやく切れて、少しふらつきながらも声を出せるようになったので、少しばかり交渉してみました。


「あの、ただのお金目当てだというのなら、ウィンディア王国でもきっとそれなりの対価を払ってもらえると思うんです。罪には問わないという条件で交渉してみませんか?」


 犯罪者が交渉で罪を逃れることもあるというお話は、海外のTVで見た事がありますから、約束は守れると思うのですが、どうやら誘拐犯たちはアイオロス王をことのほか怖がっているようで、歯牙にもかけて貰えませんでした。


 氷の帝国の迎えがくることになっているのは、森林限界を超えた場所にある山小屋だったのですが、たかが三千メートル級の山とはいえ、私にとっては高山病になるに十分な高さでした。


 頭痛や吐き気が始り、高山病の予防のためにゆっくりと高度に慣らして欲しいと頼んでも、追っ手のかかっている状況では、それは無理な相談でした。


 やがてぐったりとなった私を見た男は、舌打ちをするとリーダーである女に声をかけてくれました。


「やばいぞ。カナリアの意識が朦朧としてきた!もしも高山病なら一度山をおりないと命に関わって来るぞ。」


「なに言ってんだい。とにかく頂上まであと1時間もあれば着く。たった1時間でその娘が死ぬというのかい?」


「そうじゃないが、高度が上がるほど体調は悪化するんだぞ。」


「知ったこっちゃないね。受け渡しまで生きてさえいれば、あとはどうなろうと先方さんの責任さ。グダグダ言ってないで、先に進むよ。」



 無茶としか思えない強行軍の末に、私たちは山頂にある山小屋に辿りつきました。

 ここは猟師が狩りの際に使っているらしく、それなりに煮炊きのできる設備も用意されています。


 私はもはや浅くせわしない息づかいになっていました。

 このままではきっと時間の問題です。


 そこに、いかにも軽快に動くことだけを重視したような、軽い装備の男たちが3人姿を現しました。


 犯人たちがかなりの重装備なのから比べると、この男たちは山男というよりは、まるで平地でハイキングでもしているかのような気楽な格好です。


 男たちの中でも特に色素が薄い白髪に赤い目の男がリーダーらしく、真っ先に声を掛けました。


「それがカナリアか?霊力が全く感じられないが?」


 それを聞くなり私にまじないを施した男が、そのまじないを解きました。


 けれども私の霊力がいかにも弱弱しいものだったので、男は眉をひそめてリーダーの女に視線を走らせます。


「いいかい。こんな山の中を指定したのはそちらさんだ。見てごらんよ。ここには木の1本も生えちゃいないんだ。こんなところでカナリアが生きていられる筈はないだろ。命があるうちに届けたんだ。さっさと金を寄越しな。」


 白髪の男はそれを聞くと黙ったまま金の入った袋を女に投げ与えました。

 落ちた拍子に袋の口が開き、中から大量の金貨が零れ落ちます。


 たちまち誘拐犯たちは金貨に群がって歓声をあげていますが、3人の男たちはもう興味がないらしくそちらを見向きもしませんでした。


 白髪の男が目で合図を送ると医師らしい男がやってきて、私の手当をはじめました。

 薄い透明な袋で顔をすっぽりと覆うと、そこに酸素を送り込んで呼吸を確保してくれます。


 浅くしかできなかった息をゆっくりと吸えるようになって、息苦しさがましになりました。

 それでもガンガンと頭痛は続いています。


「どうだ?」


「やはりこのままで移動するのは無理のようですね。衰弱が激しすぎます。」


「ウィンディア王国の奴らがここを嗅ぎつけるとしたら、どのくらいかかる?」


「今この瞬間見つかっても、不思議ではありませんね。時間はないと考えて下さい。」


 男はそれを聞くと深くため息をつきましたが、決断は早いものでした。


「麓の療養所に入院させる。髪・目の色・皮膚の色を術式で変えて、適当な名前をでっちあげるしかないだろうな。サイラス、お前の娘で年齢は5歳。眠り病にかかったことにして付き添っていろ。」


 白髪の男は、7色に輝く光で私を覆いました。

 みるみるうちに私の姿は変化していきます。


「なるほど。亜麻色の髪・緑の目・小麦色の肌・それにどう見ても4~5歳にしか見えませんなぁ。いつみてもマリウスさまの霊力には感じいります。それにカナリアさまの霊力も封じていまったようですな。」


ほとほと感心したように、私を手当した男が言いました。


「仕方がないだろう、サイラス。身体が弱っている時に霊力を封じたら回復が遅くなるが、追われている身では封じるしかあるまい。」


 なるほど。

 虹色の霊獣の名がマリウス。

 医師の男がサイラスという名前のようです。


 けれどもお父さまとその精鋭部隊の力を軽く見過ぎていますわよ。


 自慢じゃないけれども、こんな高山に登れば私が死にかけることぐらい、うんざりするほどよくわかっています。


 いくら姿・形を変えたって無駄ですわ。

 必ずノリスたちは私を見つけだしますし、私だって大人しく囚われているだけの姫君ではないのです。


 ある意味、誘拐され馴れてしまっていますし。

 自慢できることではありませんけれどね。


 グワァングワァンと頭痛がする中でも、私は結構冷静でした。

 それほどマリウスが下した決断は、ウィンディア王国に有利だったのです。


 そのころには誘拐犯グループはお宝の分配も終わったらしく、興味深げに氷の帝国からきた男たちを眺めていました。


 マリウスはため息交じりに、彼等にも術を仕掛けます。

 瞬く間に誘拐犯たちは意識を刈り取られて、そのまま倒れ込んでしまいました。


「ずいぶん手荒な真似をしてくれたようだが、約束は守るよ。ただし我々の記憶だけは封じさせてもらった。」


 倒れた誘拐犯たちはもしも目覚めが遅れれば、きっとノリスたちに捕まってしまうでしょう。

 

 ある意味では気の毒な人たちです。

 もうそろそろあの青い竜体の影が見えてもいいころ合いなのに……。


 私が空に目を凝らしているとマリウスは申し訳なさそうな顔で言いました。


 「さて姫君。君には新しい身体に相応しい記憶を植え付けてあげよう。今からお前はサイラスの娘、シャーロットとして生きることになる。なに、心配しないでいいよ。サイラスはいい父親になる。」


 そのまま私は虹色の光に囚われてしまいました。

 かすかにマリウスの声がします。


「安心しなさいシャーロット。健やかに育ってくれればいい。いずれ私の妻に迎えてあげるからね。」



 美しい湖と山々の景色を楽しめることから、保養地として名高いフィステルの街に高名な医学博士であるサイラス卿が来ているとの噂が流れました。


 フィステルでもかなり有名な保養施設であるパール療養所の一室には、今日からその高名なサイラス医師のお嬢さんであるシャーロット嬢が入院することになったのです。


 虚弱な体質が原因でベッドから離れられない眠り病患者だということです。

 眠り病には治療ではなく体力の回復に努めるための療養が大切なのです。


 婦長であるエミリアはシャーロットととの面談の真っ最中でした。


「こんにちは。どうかしら?すこしお話してもいいかしら?」


 熱があるらしく潤んだ瞳の少女はそれでもエミリアの方をしっかりと見つめています。

 そうして了解したらしく、こくりと頷いてみせました。


「お名前は言えますか?」


「シャーロット、5歳です。」


「いい子ね。お父さまのお名前は?」


「サイラス。お父さまはお医者さんなのよ。」


 そう答えたシャーロットの目は誇りに満ちていました。


 エミリアはにっこりとしました。

 熱はあるものの意識の混濁はありません。

 受け答えもしっかりしていますから、安静にしていればすぐに熱は下がるでしょう。


「婦長、どうですかな? もう入ってもよろしいですかな。」

 そう言いながら堂々と部屋に入ってきたのはサイラスです。


「お父さま!」

 シャーロットは嬉しそうに笑いました。


「これはサイラスさま。お嬢様はお熱が下がるまでは安静が一番ですわ。わかってらっしゃると思いますが、疲れさせない程度にしてくださいね。」


「もちろんですとも。すぐに退散いたしますよ。ただ可愛いシャーロットに挨拶さえできればね。」


「シャーロット、お父さまはこの療養所で患者さんを見ているからね。困ったことがあったらいつでも呼び出しなさい。」


「お父さま、シャーロットはもう大きいんですから、ちゃんといい子にしていますわ。お父さまはしっかりお仕事しなきゃダメよ。」


 そんなシャーロットのおしゃまな様子に、婦長もサイラスもにこにこしています。


 

 数日するとシャーロットの熱も下がり、ベッドからでてお庭を散歩することもできるようになりました。


 シャーロットはこんな小さなお庭ですからひとりでも大丈夫だと思っているのですが、なぜだかお父さまはお父さまかお父さまの助手のロイと一緒じゃなければ外で遊ぶことを禁止しています。


 なぜならうっかりもののシャーロットが、ふらふらと湖にさまよい出て溺れたら大変だからだというのです。


 シャーロットとしては、全く納得いく話ではありません。

 聞き分けはいい方ですし、わざわざ湖に入って溺れるほどドジでもありません。


 そうやってプリプリと怒っていると、いつの間にか白い髪と赤い目をもったとてもきれいな男の人がお父さまとお話をしています。


そぉっと盗み聞きしてみると、シャーロットのことを話しているみたいです。


「どうだ。術に問題はないか?」


「問題ございません。とても素直ないい子ですな。本当の娘のように思えてきましたよ。」


「フン、いずれはオレの妃にするのだからな。その時になって泣いたりするなよ。」


「ずいぶんとお気に召したようですなぁ。まぁあのように幼いころから好みに仕上げるというのも面白いことでしょうがなぁ。」


 シャーロットはそろそろとお父さまから離れました。

 なんだか変です。

 

 あの話方だとまるでお父さまはシャーロットのお父さまではないみたいではありませんか?

 

「痛い!イタイ。助けて!」

 

 シャーロットが頭を抱えてうずくまると、マリウスが抱きかかえて苦笑しました。


「余計な情報を耳にしたみたいですね。苦しまなくて大丈夫ですよ。すぐに忘れさせてあげます。ついでに私をあなたの婚約者だと植え付けてしまいましょう。」


 シャーロットが目をさますと、そこには笑顔のマリウスがいました。


 シャロットは途端に目を輝かせてマリウスに抱き着きました。


「いつ来たのマリウス。待ってたのよ!。」


 マリウスはにんまりと笑うとシャーロットを抱き上げました。


「僕の愛しい婚約者に会いたくてね。よいこにしていたかなシャーロット。」

 シャーロットは恥ずかしそうにマリウスの胸に顔を埋めるのでした。



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