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女たちの策謀

 翌朝、私はメリーベルに着心地重視のゆったりした服を着せてもらってから自室のバルコニーにでました。


 このバルコニーは中庭に面していて、周りはしっかりと建物に囲まれています。

 安全性が高いのでバルコニーにでてもいいことになってます。


 それでもいつも衛兵が中庭に詰めていますし、中庭に降りることはできないんですけれどね。


「メリーベル、朝食はここで食べることにしたいの」


「姫さま。そうやってすぐに動こうとなさるところは変わっていませんわね。お医者さまは安静にとおっしゃっていますのに」


「メリーベル。ずっと寝たきりだと元気な若者でも筋肉が弱って歩けなくなるものなのよ。だから寝たきりになりたくなければ歩くことがとても大切なの。ちょうどよかったわ。こうして動きまわるほうが回復が早いことを証明できれば、寝たきりになる人々を少なくできるもの」


「良かったですわ。姿かたちは変わっても姫さまは姫さまですのね」


 ちょっぴり皮肉を交えてそういうとメリーベルは中庭に兵士が控えていることをしっかり確認してから出ていった。


 私は少しでも筋肉を鍛えたくて、立ったままゆったりといつものようにフルートを奏で始める。



「ナナ、俺はもうセーラのところに帰るよ。随分待たせたからきっとおかんむりだ」


「センったらいつの間に入ってきたの?相変わらずどこでも侍女を篭絡しちゃうのねぇ。でもありがとう。セーラによろしくね。今度はレイの結婚式に2人で来てちょうだいね」


「あぁ、そうだな。お前はさっそく活動開始って訳か。すこしは自重って言葉も覚えろよ」


「フフフ、それはセンの方でしょ。そういえばセンは剣道をやってたし筋肉が使わないとすぐに衰えてしまうことは知っているわよね」


「あぁ、常識だろ。それがどうかしたのか?」


「ええ、この世界ではいまだに体調が悪い時はなるべく動かずにベッドにいるのが常識みたいなの。まぁ地球でも手術後なるべくすぐに立ち上がることを推奨されるようになったのは最近なんだけどね。この筋肉は使わないと衰えるけれど、年齢にかんけいなく鍛えることもできるってことプレスペル皇国にも教えてあげて欲しいんだけど」


「わかった。そんなことには気づきもしなかった。ナナは凄いな」


「それはセンがとても元気だからよ。私だってベッドとこんなに仲良しじゃなきゃ気が付かなかったわ」


「いい土産が出来たな。医者って奴らは実験しなきゃ納得しないだろうが、新しい療法を試させるようにするさ。じゃぁな、もう誘拐なんぞされるなよ」


「わかってるわよ。もうセンったら。さようなら。またね」



「よう、センじゃねぇか。来てたのか?」

 そう言いながら手に私の朝食らしいお盆を持ってノリスが入ってきた。


「ノリスの兄貴! こらからプレスペル皇国にかえるんだ。それで挨拶にきたのさ。兄貴にも世話になったがこれでオレ帰るわ」


「おう、またな」


 そう言うとノリスはせっせと私の世話をはじめたのでセンは苦笑しながら出ていった。


「ノリス、おはよう」


「おはよう、さあや。きょうはいい天気だぞ。しっかり食べろよ。明日は中庭に連れ出してやるからな」


「あら、でも確かにノリスとならどこでも行けるわね。ノリスはいつまでここにいられるの?」


 そう聞くといかにも嫌そうにノリスは告げた。


「明日には砂漠の国に戻らないといけないんだ。おやじ殿から矢の催促がきててさ。さあやを救い出すまでって約束だったからな。あのおやじ殿の聡い耳にはいやになるぜ。もうさあやを取り戻したことに気づいてやがるんだからな」


 それを聞くと私は思わず噴き出してしまった。


「ノリス、それは当たり前じゃない。あなたったらゴルトレス帝国の神殿の屋根を吹っ飛ばしたのよ!」


「違うよ!吹っ飛ばしたのはセンだ。オレはナナを救出したら、なるべく被害がでないように逃げ出したんだぜ」


 いかにも不服そうにノリスは言いいますけど、同罪ですわよ。


「それにいいこと。ノリスは竜体になってゴルトレス帝国城の真上を飛んだのよ!敵対行為で断罪されても仕方ないわ。砂漠の長さまはいまごろ頭を抱えているわね。その犯人が、こんなところでのうのうとしていたら、お怒りになっても仕方ないわ」


「おいおい、それはないよ。さあやはオレの味方だろう?」


「ええ、いつだって味方よ。さぁノリス。このまま中庭を散歩しましょう。そしてそれが終わったらすぐに砂漠の国に帰るのよ。ゴルトレス帝国とのごたごたを納めるのにあなたが出なきゃ向こうも引っ込みがつかないわよ」


「はいはい姫ぎみ。仰せのままに。さあやがそんなに勘がよくない方がオレとしては助かる気がするよ」


 ちょっと文句を言いながらもノリスは私を抱きかかえて、中庭に飛び降りました。

 警護の兵は一瞬ぎょっとしましたが、すぐになにも見ないふりをすることにしたようです。


「そういえば砂漠の国では、午後はいつもこうやって散歩していたな」


「えぇ、午前中はノリスの続き部屋で公務の真似事をして、一緒に昼食。そして散策のあと東屋でお茶をして、お昼寝。目覚めたらノリスが迎えにきてくれるまで読書や音楽を楽しんで、夜にはまた一緒に夕食。ずっとあなたの懐の中でくつろいですごしたわ」


「なんだ、気が付いてたのか?」


「えぇ、ご自由に! なんて言いながらいつもノリスは私の近くにいるんですもの。過保護なところはお父さまやレイと変わらないわね」


「過保護じゃなくて、さあやを守るにはどれだけ注意を払っても万全じゃないってことさ。さあやの存在が有名になり過ぎたから、守る方は大変だよ」


 ノリスは心底困っているように言ったけれど、これは本音ですわね。

 守る方はあらゆる事態を想定しなきゃならないのに、攫う方はほんの一瞬の隙さえ見つければいいのだもの。


「苦労をかけます」


 私がすこしおどけて見せたら、まったくだと苦笑しながらノリスはきっぱりと言いました。


「筋肉を鍛える話はわかったけれど、さあやの身体が弱っているのも事実だ。散歩はもうおしまい。少し休みなさい」


 ノリスはそっと私の額に口づけをすると、すぐにメリーベルに私を託して砂漠の国に帰ってしまいました。


「ゴルトレス帝国とのごたごたを納さめたら、すぐに戻るよ!」

 との言葉を残して。


 お昼には王妃さまから、一緒に食事をしましょうとのお誘いが来ました。

 身内だけだから、気軽な装いでいいわよ。

 そんな伝言もわざわざ添えられていましたから、私の体調を心配してくれているんですね。


 言葉に甘えて、身体に負担をかけない胸元で切り替えをいれたふんわりとしたローブを選んで、王妃の間にいくとお母さまとアンジェリカ姫が待ちかねていました。


「お母さま、アンジェ。ご心配をおかけしました」


「まぁレティ、こんなに痩せて!なるべく胃腸の負担にならないものを選んでいるわ。しっかり食べるのよ」


「レティ。無事に戻ってよかったな。お主が戻るまで王も王妃も平静を装うのに随分苦労していたのだからな。そうやすやすと誘拐されるもんじゃない」


 王妃やアンジェは物言いこそ違いますが、私を心配してくれていることがよくわかりました。


 一緒に食事をはじめたら、女三人寄れば姦しいとの言葉通りに、とても賑やかな食事になってしまいましたよ。


 食後のお茶を楽しむ段階になるまで待って話を切り出しました。


「アンジェがいるならちょうどいいわ。お母さま、アンジェ。私たちでレイとアンジェリカ王女の結婚式を準備しましょうよ。どうせお父さまもレイも仕事に忙殺されて結婚式のことなんて頭から吹っ飛んでいるに違いありませんもの」


「いきなり何を言い出すんですレティ!」

 アンジェは頬を染めて狼狽していたけれど、お母さまは身を乗り出すようにして賛成してくれました。


「素晴らしい考えだわ、レティ。男どもに任せていると進む話も進みませんからね。そのくせ性急にことを進めすぎて今回みたいに女を犠牲にしてしまうんです。レティ、今回だってゴルトレスの女帝に根回しをしていればあなたが攫われることもなかったのよ!」


「確かに。少し性急すぎるとレイには言ったんだがな。この機会に一気呵成に進めなければ、なかなかこういうことは決まらないものだと言われたんだ。まさかお前にとばっちりがいくとわなぁ。女帝の怒りの深さを読み違えたのはレイの失態だ。すまなかったなレティ」


「そんな! 国際連盟を認めさせるなんて偉業、お父さまやレイにしかできないことですわ。レイの言い分ももっともなんです。どうすれば最適かなんてだれにもわからないわ」


「レティ、あなたのその公平さといのは得難いものですよ。良い事柄には悪い面を、悪い事柄には良い面を、そうやって物事をバランスよく見ているのですからね」


「そうだなぁ。レティはもしかすると少し自分というものをないがしろにする傾向があるようだねぇ」


 ヤバイ! 

 矛先がこっちにきそうですから、方向転換を図りましょう。


「お母さま、アンジェ。そんなことより結婚式のことですわよ。お父さまやレイに内緒でことを運こんで男どもを慌てさせてやりましょうよ。いつも人に悪戯ばっかりしている罰ですわ!」


 内緒で男どもをびっくりさせるという考えに、お母さまもアンジェも夢中になって計画を練りはじめましたよ。


 そうなると準備することは山ほどありますよね。


 私はさっそくノリスに手紙を書いて、アカツキとのセッションの許可をもぎ取りましたし、アンジェは結婚式の準備のためにマーシャル王にあれこれと準備をお願いしています。


 アンジェリカ王女の結婚衣装の準備と結婚披露パーティの準備は、お母さまが担当することになりましたが、なにしろあの完璧主義のお母さまのことです。


 付き合わされるアンジェが悲鳴をあげることになりましたが、私は自分の婚約式のことを思い出して遠い目になってしまいました。


 アンジェにはご愁傷様と手を合わせておきましょうね。


 私には結婚式の招待客リストを作ったり招待状を発行することや、招待客へのお土産の準備が割り振られました。


 優秀なメリーベルに手助けしてもらいましたが、こんなに大変なことだとは思いもしませんでしたわ。

 お母さまの凄さを再確認してしまいますね。


 そしていよいよ結婚式本番が近づいてきました。

 なんとしてもレイとアンジェリカ王女、それにナナはマーシャル王国に行かねばなりません。


 さすがにここまでくれば王の協力なしに王の執政官を勝手に動かすことは、いかに王妃であっても無理ですよね。


 そこで三人揃ってお父さまに協力をお願いしました。

 悪戯事なら大好きなお父さまは、大笑いをするとすぐに承知してくれましたよ。



「レイ、いくら忙しくても正式にアンジェリカ王女への求婚も婚約もなしと言う訳にはいかないだろう。里帰りもかねてアンジェリカ王女を一度マーシャル王国に戻す。おめぇもついて行け!」


「しかしアイオロス王、今は忙しいんですよ!」


「そんなんじゃアンジェに逃げられるぞ。命令だ!とにかく一度はマーシャル王国に行ってこい! レティ、お前もアンジェについていくといい。マーシャル王国はお前にとってもある意味ふるさとだからな」


「ありがとうございます。お父さま。嬉しいわ」


 レイが警備を理由にナナの同伴を断る前に、間髪いれずに私はそれを決定事項にしてしまいました。

 前にアンジェリカ王女が使った手法です。


 レイはそれを思い出したらしく、苦笑いをしていましたが驚くのはこれからですわよ。

 

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