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ナナを奪還する

 この装置が届いたということは、レイが上手くやってくれたってことだわ。

 きっとダンたちも働いてくれたんでしょうねぇ。


 それにしても……。

 ひとつだけ心配なことがあるんです。


 私はこんどの計画にひとつ不確定要素があるのに気がついていました。

 レイだって当然気がついている筈です。


 それは緑のペガサスの存在です。

 ミドリさまの能力は植物をあやつることです。


 グミの実を作り上げることも実は簡単にできるはずなんですよね。

 それなのにこうやって仕掛け入りのグミの実が私の手元に届いた。


 これって何を意味しているのでしょうか?

 わざと見逃している理由はなんでしょう?


 私はきっとミドリさまが黙って私を見逃してくれるつもりなんだと思っています。

 けれどレイは色々なパターンを考えて策を練りますよね。


 だとしたら……。

 ヤバイかもしれません。

 十中八九、レイはノリスたちに好きにやらせる決断をしそうです。


 だってミドリとレイって思考回路が似てますもの。

 ならば計画がばれてると想定して考えますよね。


 罠があるならいっそ攻撃としてはチートなノリスとセンで強行突破させようってことになちゃいそうです。

 

 とりあえずこの種を二つに割って中身を取り出してみましょう。

 指示書が入っていますね。


 部屋にはほんのりとした灯りしかありませんけど、その明かりを使えば指示書は読めます。


 私が暗闇を怖がって見せたので、巫女たちは小さな明かりをともしておいてくれるんです。

 闇を怖がるこどもは多いし、私は年齢より幼く見えますからね。


 今日この小さな灯りをともした巫女も、小さな子供でも見守るような目をしていましたよ。


 灯りのそばで紙をかざすと、緑色の装置を押せとあります。

 よく調べてみると緑いろの小さな欠片には、わずかにくぼみがありました。


 髪留めのピンならそのくぼみを押すことができそうです。

 くぼみを押すと緑の欠片はほんの一瞬だけ青く光りましたから、これで合図が送れたんですよね。


 この緑の欠片からキーンという音がしたら、もうひとつの装置を素早く起動させろと書いています。


 赤い装置の方は、青い欠片よりはずっとまともな形をしていて、小さなボタンがついているので扱いやすそうです。


 指示書には青い欠片を耳の中に押し込めとありますから、ともかく耳にいれておきます。

 きっとそうしないと聞こえないぐらいに、小さな音なんでしょうね。


 赤い装置をどうやって手元においておきましょうか?

 しかたありません。

 私は胸の隙間に赤い装置を押し込みました。


 13歳になってから、胸を覆う下着を付けるようになりました。

 まだまだささやかな胸ですけど、きっとそのうち立派になる予定なんです。


 なにしろ指示書にはとても強い調子で、音がなったらすぐにボタンを押せと厳命していますから、胸元なら素早く取り出せます。


 準備はこれでOK ですね。

 指示書は灯りにかざして燃やしましょう。


 燃えた灰は丁寧に拾い集めて、ハンケチに包んで引き出しの奥に突っ込んでおきました。

 灰なんて捨ててあったら不信に思われてしまいますからね。


 けれどこうして準備が整ったからにはそう待つこともないでしょう。

 今のノリスやセンはきっとレイの手に余ります。


 準備ができたらすぐに行動しようとするでしょう。

 なにしろお怒りのノリスとセンですからね。

 今夜は眠らないほうがいいかもしれませんね。


 私はベッドに戻ると、呼吸を整えて眠らないように意識を集中しました。

 なにしろすっかり衰弱してしまったこの身体は、すぐに眠り込んでしまうんです。


 部屋の扉が開いて、ナナの姿を巫女が確認する気配がします。

 しかしこのごろはたいして注意は払っていないんです。


 なにしろこの姫さまは恐ろしいほど身体が弱く、ほとんどの時をベッドでうつらうつらと過ごしているからです。


 扉はすぐにしまったので、かえって眠気が襲ってきます。


 けれどきっと今夜だと私の勘が告げています。

 そのままじっとしていると耳鳴りの激しいような音が響きました。


 私は急いで起き上がると、胸元から赤い装置を取り出してすばやくボタンを押します。


 その瞬間柔らかい光がまとわりついて結界らしきものが出現しました。


 ヤバイ!

 こんな風にバリアが張られるということは……。

 攻撃が来る!

 

 その途端、ドカンという音がするとあっという間に天井が吹っ飛んでしまった!


 びっくりして上を見上げると夜空に舞う竜の姿がありました。


「ノリス……」


 私の呟きに答えるようにばさりと網が降ってきて、私はその網に絡めとられしまいました。

 しかもまるで獲物のようにそのまま空中に吊り上げられていきます。


「ノリスなにやってんのよ!」

 私の抗議は、多分誰にも聞こえなかったに違いありません。


 なぜなら次の瞬間にはノリスの次元倉庫に放り込まれてしまったのです。


 倉庫のなかにはノリスが用意したらしい新しい家があったので、私はひとまずそこに落ち着くことにしました。


 今度の家はまるでドールハウスみたいなイメージですね。


 こんなところに放り込まれるということは、外はかなりの戦闘状態になっているんでしょうね。


 当たり前です。

 いきなりゴルトレス帝国の最深部にある聖堂の屋根がふっとばされたのです。

 戦闘にならない方がおかしいですよね。


 あの優しい巫女たちがケガをしてないといいのですが……。

 でも怪我だけならムラサキにだって治療ができるはずなんだから……。


 命がけで戦っているだろう兵士やケガをしたかもしれない巫女たちには申し訳ありませんが、私はもう限界みたいです。

 

 ベッドに潜りこむと寝入ってしまいました。

 安心した途端にこれまでの疲労が一気に押し寄せてもうふらふらだったのです。


 癒しのフルートを吹く体力もなどほとんどなく、身体はすでに餓死の危険が迫ってる状態で、気力と負けん気だけで意識を保っていたんです。


 


 どうやらウィンディア王国の自分の部屋らしいですね。

 うっすらと目を開けたらメリーベルの姿が見えました。


「姫さま、お気がつかれましたか?」


 メリーベルは飛んでくると私の背中にクッションを押し込んで、私を坐らせてくれました。


「お医者さまから一カ月はベッドから出ないようにと言われております。お食事もこちらでとっていただきますからね。」


 メリーベルの目はとても厳しかった。


 なにしろやっと取り戻した姫さまは、いくら作戦だっだとはいえすっかり痩せ衰えててもとの無邪気なナナの姿の面影さえなかったのだから。


 虜囚の身がどれほどお辛かったろうと、メリーベルは自分を責めていた。

 せめて自分だけは、なにがあっても侍女として付き従うべきだったのだと、メリーベルはそう考えていた。


 私にはメリーベルの気持ちがよくわかった。


「ありがとう、メリーベル。留守を守ってくれて。おかげで天球の平和は守られたわ。よくお父さまを支えてくれたわね。」


 そんな風にねぎらえば、メリーベルは号泣してしまった。

 そんなメリーベルの背中を、すっかり骨ばってしまったナナの手が撫でる。


 こうしてこの主従は何も言わなくてもお互いの想いを通じあわせていた。


 「姫さまのお手は、すぐにぽっきりと折れてしまいそうですわね。これからはしっかりと食べてもらいますからね。」


 メリーベルが泣いたことなどなかったようにきっぱりといった時、ノリスが部屋に入ってきた。


「気がついたか。ごめんよ。お前は俺が守ると言ったのに、こんな惨い目にあわせて。」


「大丈夫よノリス。これは誘拐された時のマニュアルに沿って自分でやったことだもの。」


「そのマニュアルには、餓死しろ! とは書いてない筈ですがね。」

 そう言いながらレイがやってきた。


「レイ。迷惑かけて御免なさい。」


「いや、これは私の失態です。会議で女帝の面子を潰しましたからね。少し性急過ぎたのですよ。それよりミドリの霊獣から薬が届いていますよ。ミドリは全部お見通しだったようですね。」


「ミドリさまが……。やっぱり助けてくださるおつもりでしたのね。」


「ナナは気がついていたの?」


「はっきりとは……。でも私が囚われているあいだ一度もミドリさまの気配を感じなかったんですの。これはおかしなことでしょう。ムラサキさまが女帝の意思で動いているのに……。」


「なるほど、ミドリも計画を容認しているなら姿を見せないのはおかしいという訳か?」


「ええ、まぁミドリさまはレイと同じくらい何を考えてるかわからない方なので、絶対にとは言い切れなかったんですけどね。」


「それにミドリさまから頂いた誕生プレゼントは強壮剤だったんですよ。少しでも身体が丈夫になるようにとね。だのに私がいくら弱ってもミドリさまからお薬の差し入れはなかったんですの。」


「計画を知っていたが黙認した訳か。手回しよく薬をよこしたことをみれば間違いないだろう。」


 レイが納得していますからやはり私の勘は的中していたんですね。


「ミドリさまにお礼を伝えてくださいね。それにムラサキさまにもお祭り楽しみにしていますって。巫女たちにもお礼を言って下さい。」


「お前は、相変わらずばかだなぁ~。」

 そう言ったのはレイの後ろから顔をだしたセンだった。


「皆様、ここは病室ですのよ! 出て言って下さい。姫さまは今からお食事です。」

 メリーベルが賑やかすぎる病室を見て怒りだした。


 皆が苦笑しながら部屋をでていく中でノリスはメリーベルからナナの食事を取りあげると命令した。


「スープか。うまそうだな。これはオレが食べさせるよ。メリーベルも少し休め」


 メリーベルはにっこり笑うと素直に部屋を出ていった。



「ほら、口をあけろ。それとも口移しの方がいいのか?」

 

 ノリスはスプーンをナナの口元に運びながらそんなことを言うけれど、その目は愛しそうに私を見守っている。


 私は素直に口を開くと、一匙づつゆっくりと食べさせてもらう。

 それだけのことで、私はノリスとの絆を感じて心が温かくなった。


 「ノリス、短気を起こさないでいてくれてありがとう。それに助けてくれてありがとう。それから新しいお家もありがとう。」


 ノリスは黙って、そっと私を抱きしめた。

 まるで私の身体が触ると折れるとでもいうように。


 


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