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ナナの孤独な戦い

 もうすでにウィンディア王国の軍隊は、草原をでて帰国の途についているだろうなぁ。


 けれどもたぶんそろそろノリスやレイがお父さまに謁見を求めている頃合いでしょう。

 ノリスの竜の姿を見たことがないけれども、番を攫われた竜ほど恐ろしいものはないといいます。


 自重なんて言葉をかなぐり捨てて、きっと竜体になってお父さまのにところに急襲を仕掛けるに違いありません。


 どうせセンも一緒でしょう。

 最近のあの2人はいつも一緒ですからねぇ。


 お父さまがノリスの迫力に気おされるとは思いませんが、今回の旅にはモラルは同行していません。

 ウィンディア王国を空にするわけにはいきませんからね。


 でもゴードンが一緒でしたね。

 ゴードンならセンを止めることができるでしょう。


 なんといったって兄貴なんだし、それにセンはゴードンを認めていますしね。


 とにかく私の居場所を特定するまで、ノリスやセンにできることはありません。

 戦争なんておっぱじめることなく、おとなしくレイからの連絡を待つ事。


 それがノリスやセンにとっての最も大切なことなのですが、理屈でわかっても竜の本能が拒絶するでしょう。


 それを説得できるのはお父さましかいない訳ですからね。


 できるでしょうか?

 やらないと和平が台無しになってしまいます。


 お父さまの今までの苦労が水の泡になってしまうのですから、出来る出来ないじゃなくてやってのけるんでしょうねぇ。


 お父さまなら、きっとノリスを抑えられます。

 ノリスだって私を人質にされたらうんというでしょうねぇ。


 どうやらしばらくの間、私との面会は禁止になったみたいだし……。

 婚約破棄なんて匂わされたら、素直なよいこで待てをしていることでしょう。


 ノリスとセンのことはお父さまが絶対になんとかしてくれる。

 私の居場所はレイがきっと見つけてくれる。


 それなら私も戦いをはじめましょう。

 自由になるために。

 そして私を信じてくれる人たちの信頼にこたえるために。


 そこで今は大好きな食事を我慢して、いかにも食欲がないようなふりをしています。

 これはあらかじめ誘拐された場合に備えて、決められている手順なんですよ。


 サクラのノバのように、金のカナリア姫にも好物が設定されています。

 

 好物の条件は4つありました。

 

 1つ目は、それがウィンディア王国でしか作られていないものであること。


 2つ目は調理しないでそのまま食べられるものであること。


 3つ目は小ぶりで皮ごと食べられること。


 4つ目は全部ではないが、まれに種が入っていても自然であること。


 1つ目の理由はウィンディア王国でしか生産されていないものなら、誘拐犯人もウィンディア王国から手に入れるしかありません。


 犯人の足跡を辿りやすくなります。


 2~4までの条件は仕掛けが見つかっては意味がないからです。

 

 皮ごと一口で食べられる果物や木の実なら、料理されたりカットされるときに中に仕込んだものを発見されることなく、私の手元に届く確立が高くなります。


 それでも見つかる可能性もあるので、仕掛けは複数用意されますよね。

 私以外の人が食べた時は、種が混じっていたんだと思わせなきゃいけない訳です。


 ですから通常は種がなくてそのまま食べられるけれど、種があってもおかしくない果物がベストでした。


 もし全部が種入りなら、私は犯人に隠れて全部の種をチェックしないといけなくなります。

 そんなことできませんよね。


 そこで選ばれたのがグミの実です。

 グミの実は皮ごと食べられる、日本でいえばマスカット位の大きさの果物です。


 お味もマスカットみたいなさっぱりとした酸味のある食べやすい果物で、基本的に種はありませんがたまに種が混じります。


 その種は大きくて、イメージとしては種のまわりにごく薄く実が張り付いている感じなんです。


 なんどもの改良の末に、種を無くす品種を作ったといいますから美味しいものが食べたいという欲求は地球と同じですね。


 この種が大きいというところも、仕掛けやすいというメリットにつながりました。


 レティシア王女はひ弱で食も細いがグミの実だけは熱があっても食べることができるという話は、王都中に噂となって広がっています


 噂ではレティシア王女は食が細く、なんとかグミの実を食べることで健康を保っているそうです。

 きっとグミの実がなければ、レティシア王女の命は持たないかもしれないといいます。


 この噂のせいで平民のおやつであったグミの実も、いつの間にか金の実と名前を変えて今では高級果物入りを果たしました。


 もし本当にグミの実が大好物の人がいたら申し訳ないんですけれどね。


 食べるのが大好きなので食欲不振の振りをするのは辛くてしかたがありません。


「姫さま。料理長が腕によりをかけてつくりましたの。せめてひとくちだけでもお召し上がりください」


 そう言って提供されるお料理はどれもこれも生唾をのむくらいおいしそうなのです。


 それなのににっこりとほほ笑んで、ほんのひとくちばかり申し訳程度に口にすると


「とても美味しいわ。料理長にはお礼を言っておいてね。食べられないのは料理長のせいではないの。なんだか咽喉をうまく通らないのよ」


 なんて言わなきゃならないんです。


 早く見つけてくれないと心が折れてしまいそうです。

 ひもじくて目の前の食べ物をがっついてしまいそうになるんです。


 この気持ちはダイエットした経験がある人なら、きっとわかってくれますよね?


 もともと丈夫ではないカナリアの身体はほとんど食べていないせいで、すでに虚弱を装う必要がないほど弱ってしまいました。


 それでも私は毎朝6時かっきりに起きて、今では寝台の上でしか無理になってしまいましたが、それでもフルートを奏でるようにしています。


 これもウィンディア王国での決め事です。


 金の姫君は民を思って、起床してすぐにフルートを奏でる。

 だから体調の悪い者は、早朝王城の近くに行きさえすればたちまち良くなる。


 これもウィンディア王国の民ならみんな知っていることです。

 これを励行することで私の安全度は高くなるんです。


 一つはもしも夜半にさらわれても、どんない遅くとも6時には発覚することになります。


 二つ目はこのように誘拐された時にでもこの習慣を続けることで、私の居場所を特定することができます。

 だってこのフルートは例え音色が聞こえなくても、かなりの範囲で人を癒しますから噂にならないはずがないんです。


 最初は巫女たちもフルートの演奏を止めようとしたのですが、私が心底哀しそうに


「私のできることはこれだけです。ですから民のために命を削ってもこれだけは続けさせてください。それほど生きる力の強くない私にも、生きた証を残させて下さい」


 とうっすらと涙を浮かべて哀願したら、断れるほどの猛者はいませんでした。


 それに巫女たちにとってもメリットがあるんですよ。


 女性ですから毎月体調の悪い日がやってきますよね。

 そんな日でもフルートを聞くとたちまち、最も体調が良い日のように元気になれるのです。


 そうして私の地道で孤独な戦いが、やっと報われる日がやってきました。


「おい、カナリア。あんたこれが好きなんだってな。こんなもんウィンディア王国からしか手に入れられないから苦労したんだぞ」


 そう言いながらグミの実を手渡そうとしたムラサキは、元々細い私がすっかりやつれ果てているのをみてぎくりとしたようです。


「カナリア、お前本当に身体が弱いんだな。こうやって宮中の奥でしか生きられないんだって?私には防御の力があるから自由に飛び回れるが、お前はずっと囚われたままなんだな」


 その目には心底ナナへの同情が溢れていました。

 どうやらツンツンする余裕すらないようですね。


「ありがとうムラサキ。グミの実は大好物なのよ。不思議ねぇ。熱があっても食べられるの」

 

 私がそう答えれば、巫女たちはいそいそと嬉しそうにグミの実を手にしました。


「姫さま! すぐにご用意いたしますね」


 たぶん毒見などをするのだろうが別に問題はありません。

 仕掛けは種に偽装していてめったなことではわかりませんからね。


 美しく皿に盛られたグミの実を、私はいかにも満足そうに食べて見せました。


「美味しい。ムラサキさまありがとうございます。これならいくらでも食べられますわ」


 ムラサキがそれを聞いて安心したみたいなので、ちょっとからかいたくなってしまいました。


「囚われてっておしゃるけれど、捉えたのはムラサキさまですわよ」


「バ、馬鹿か! お前はウィンディア王国でだって、砂漠の国でだって自由じゃなかったろうが!」


「え~と。プレスペル皇国では2時間だけ外出許可が出たんですよ。結局1時間で攫われたから1時間しか遊べなかったけど、楽しかったわ。屋台で飴細工を買って、それに猿回しも見たんです」


 私はその時の楽しかった時間を思い出すと、思わずにこにこしてしまいました。

 あの時のセーラ楽しそうだったなぁ。


 その様子を見た巫女やムラサキは、ナナの無邪気な喜びにかえって胸をうたれ哀しくなったようです。


 私は自分の役割にけっこう満足しているのですが、客観的にみれば薄幸の美少女だと思われてしまうんですよ。

 だってムラサキや巫女さんたちの目がなんだか憐れんでいるようなんですもの。


「ほんとに馬鹿なんだな、お前は!どうしたらそうも簡単に攫われるんだよ!」

 

 ムラサキが毒づいたが、それこそお前が言うな!というところですよね。

 私は賢明にもそのことは突っ込まずに、あの事件のあらましを話して聞かせました。


 さすがにそんな内情までは知らなかったらしく、ムラサキは驚いて叫びました!


「何なんだ、その言い分は! 完全にただの言いがかりだろう。それなのにお前はご丁寧にその悪魔付きを祓ってやっただと!」

 私はいかにも大声にびっくりしたようにすこしせき込んでみせると、すぐににっこりとほほ笑みました。


 大当たりです!うまい具合に仕掛け入りのグミを見つけたみたいですよ。

 私はせき込んだ振りをしたときに、こっそり仕掛けを手の中ににぎりこんで隠しておいたんです。


 そんなこととは知らないムラサキはプリプリしながら


「次の祭りにはお前を連れていってやる。ウィンディア王国みたいなちんけなものじゃないぞ!なにが猿回しだ!馬鹿じゃないのか?」


 そう言い捨てると、足音も高く帰っていきました。


「まぁ、ムラサキさまったら相変わらずのツンデレさんですわね。少しつかれたので休みます。グミの実ありがとう。皆さんも召し上がってね。でもちょっとは残してくれると嬉しいわ」


 私が巫女たちをねぎらうと、巫女たちはクスクス笑いながら


「ゆっくりお休みください。姫さま。グミ実は姫さまのものですよ。どうかご安心ください」


 そう言って私を寝かし付けて出ていきました。


 やった!これで他のグミの実から仕掛けが発見される危険が減りました。

 さてレイはどんな計画をたてたのか見てみましょうかね。


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