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悪戯大成功

 何が悪かったのか、頭をフル回転させてみてもわからなくて、自己嫌悪に落ち込んで黙りこくって歩いていると、突然わらわらと大勢の人が逃げてきました。


「謀反だ!オーギュスト侯が裏切ったぞ!」

「逃げろ!王都が戦場になるぞ!」

「アキレス公の軍が、すぐ近くまできている」


 謀反とか戦争とか、いくら何でも死亡フラグが多すぎでしょう。

 神様、生き残ろうと抗うのってそんなにいけないことなのでしょうか?


「娘さん、どうらや同行はできなくなったようだ。先ほどの広場まで急いで逃げるがよい。広場の先、黒猫の看板の店にゴードンという男がいる。モラルの紹介だと言ってかくまってもらうしかないだろうね。信頼できる男だからな。さぁお嬢さんひとまずは黒猫亭に隠れていなさい」


 モラルと名乗った騎士様は、そう言って群衆に向かってかけだしていきます。

 私はその後ろ姿に向かって、丁寧に一礼してお礼を言ってからかけだしました。


 「ありがとう。モラルさま。死なないでくださいね」


 騒ぎのわりに混乱はほとんどなく、みんな大人しく家に身を潜めているみたいです。

 敵国ではなく内乱なら王都の民が惨い目にあうことがないのかもしれませんね。



 黒猫の看板はすぐに見つかりました。

 私は扉の前で深呼吸をひとつしてから、ドンドン、ドンドンと精一杯の力で扉を叩いてみました。


「何だぁ!やろうってのか?もしも俺の店に1歩でも入り込んでみやがれ。命はねぇものと覚悟しやがれ!」

 

 大きな声でお返事が返ってきましたよ。

 とにかく人がいるようで安心しました。


「お願いです。助けて下さい。モラルさまの紹介なんです」


「モラルの旦那?」 少しの逡巡のあと


「ダメだ!例えモラルの旦那の願いでも、この扉は金輪際開けられねぇ」


 モラルさま、残念なお知らせなんですけれど、あなたの信頼度ってかなり低いようですよ?


「わかりました。けれど情報をください。私にはこの町に知り合いがひとりもいません。どこか少しでも身を寄せるられる場所は知りませんか」


「知り合いがいねぇってのは、どういう事だ?」


 扉越しに大声でやり合っていると


「モラル、扉を開きなさい。事情は直接問いただせばいいでしょう」


 命令するのに慣れた声が聞こえました。

 ヤバイ!絶対にこの声はヤバイ!

 私はこう見えて勘だけはとってもいいんですよ。

 

 その私の勘と、金糸雀の危険察知の力が警報を鳴らしています。


 すぐに逃げ出そうとしたのに、いきなり扉から現れた大男に、むんずと腕を掴まれてそのまま部屋に連れ込まれてしまいました。


「何だぁ、かくまってくれと言いながら逃げ出すつもりかぁ。じっくり話し合いう必要がありそうだなぁ。譲ちゃんよぉ」


 いえいえ、私の方は全くお話したくありませんよ。


 モラルさま、このゴリラみたいな大男からは、危険の匂いしかしませんが、人選間違えていませんかね。

 それともボッチで友達が、このゴリラさんしかいないとかですかね?

 

 モラルさんの交友関係を真剣に憂えていると後ろからまたあの声がしました。


「ゴードン、そんな風にすごんだら話なんてできないよ。かわいそうに、まだ少女だよ」

 

 マントを目深にかぶった男が、柔らかにゴリラ男の暴走を止めてくれたけど、私が逃げ出そうとした原因は、あなたです。


 「いえ、いえ、たまたまモラルさまと出会って黒猫亭を紹介されので、参りました訳でして、ご迷惑のようなのですぐにお暇しますわ」


「もう家の中に入っているだろうが。モラルの旦那には世話になってるんだ。旦那の顔を潰すわけには行かねぇだろうがよ。まぁゆっくりしてってくれ」


「だってあなたは、モラルの旦那の頼みでも扉は開けられねぇって、さっきそのお口で言いましたよね。」


 被った猫を下して、ジト目で詰め寄ると、ゴリラ男は困ったようにぼりぼりと指で顔をかいている。

 案外いい人なのかもしれませんね。


「ゴードン、お前の負けだな」

 マント男がクスクス笑いながら、マントを脱ぎましだ。


 マントは被っててほしかったです。見事な金髪と青い瞳、そして何よりも自信に溢れ、人に屈したことのない目。


 決まりですよね、この状況から考えればまず王族の一員に違いないでしょう。

 できれば、なるべく王位継承順位が低いといいのですが。


「ふん、王都に知り合いはいないと言いながら、私の身分を察したか?」


「お前は、誰だ」

 一切のごまかしを許さない声音で男は質問を発しました。


 やばい!きっとここが正念場です。

 カナリアの力と私の生来の勘が、この男に害意はないことを教えてくれています。


 けれどここを間違うと絡めとられてしまいそうです。

 後からくるかもしれないレイやセンのためには、今ここで素直に絡めとられる訳にはいきませんよね


 きっと2人は私がどんな面倒ごとに巻き込まれても、その面倒ごとをひっくるめて助けようとするようなお節介で世話焼きな人たちなんですから。


 2人を絶対に守るために私はお腹に力を入れて答えました。


「私はナナと言います。それ以外は言いません」


 男はにやりと笑うと以外にも


「おい、ゴードン。お嬢さんにお茶をお入れしろ。ついでに菓子も適当に持ってこい」


 なんだかお茶の用意をし始めましたよ。

 こうなっては女は度胸ですからね。

、お茶を楽しむことにしますか。


「いい香り、香りがいいのに、味がしっかりしている。素晴らしいわ」

 とっても上等のお茶をいただいて気分がリラックスしてしまいます。


 そこを見計らったように男が尋ねました。


「お前は、どこの世界からやって来たのだ!」


 思わぬ不意打ちを食らって、私は手に持ったカップを取り落としてしまいました。

 そうしてその様子がそのまま答えになったことでしょう。


「なぜ……」


 思わず呟いた私に男はにこりともしないで言いました。


「この世界には霊獣がいる。ここ数年の間に4体の霊獣が、霊山に戻った。金の金糸雀・銀の狐・黒の獅子・紺の熊。霊山に去った霊獣が再びこの地に戻るには、通常百年以上の年月がかかる。ここまでは理解したか?」


 そうだったんですね、


 だからあの時食べた実は、あんなにも小さくて私でも飲み下すことが出来たんですね。

 私は男に頷いてみせました。


「わが国の神殿では、24時間体制で、女神の泉の波動を監視している。霊獣がこの地に戻るには、女神の泉を経るしかないのだ。」


 おかしいと思ったんですよ、あまりにも騎士さまがくるタイミングが見事すぎましたもの。


 この国は霊獣がこの地に降り立ったのを、私が到着する時には知っていたんです。

 多分何の霊獣が、およそどのあたりに降りたかすらわかっていたんでしょうね。


 そしてその霊獣が、霊獣として生育する時間がなかったとしたら、答えはひとつだけです。


 異世界人に霊獣が取り込まれた!


「なぁ、どう思う?」


 その質問は、ナナに向けられたものではありませんでした。

 男の鋭い視線は、真っすぐ扉を見ていたのです。


「お見事と言っておきましょう」

 そう言いながら入ってきたのは、レイです。


「ナナ、知らない人にはついて行かない約束だろ」

 そう言いながら入って来たのはセン。


「なんで、どうやってここがわかったの?」

「ナナ、私の能力は何ですか?」


「電気……」 

まさかと思って自分のポケットを探ってみると、見たことのないものがありました。


「やっぱり」


「それ追跡装置ですよ、私の倉庫にはそういったものがゴロゴロしてましてね。前の狐も、こういったものを作るのが得意だったようですね。言ってませんでしたか?」


「言ってない、何なの、私、自分ひとりで生きていかなきゃって、あんなに決心して、がんばらなきゃって思って……」


「あ~あ、泣かしてやんの」


「泣いてない!」

 私はセンを睨みつけたけど、そうしないと本当に泣いてしまいそうだったんです。


「ところで」

 レイは男を振り返ると


「随分、楽しそうなお話をしているじゃありませんか?ナナをいじめてくれたんなら、お礼をしなくちゃいけませんね」


 男はレイたちを身振りで、テーブルに呼ぶと、席を勧めながら言いました。


「イジメちゃいませんよ。危なっかしいお嬢さんを保護させていただいただけですよ。私の部下がね」


 そこには先ほどの騎士が立っているではありませんか。

 ナナがモラルを見つめると、


「すいません、お嬢ちゃん、うちの主はいたずらが大好きでしてね。いつもこうやって人を驚かすんですよ。ドッキリ大成功ってね」


 と言いながら、やれやれと両手を広げました。


「嘘だったんだ、反乱なんて!ひどい、ひとのことだまして!」


 私は怒りのあまり言葉に詰まってしまいましたが、それを見計らったようにゴードンが、たっぷりとケーキを運んできました。


 私は思わずわぁい!と歓声をあげてしまって慌てて言い直しました。


「誤魔化されませんからね」

 

 とは言いましたがケーキに罪はありませんよねぇ。

 こんなにおいしそうなケーキですもの、食べてあげないともったいないですし……。


 そんな私の様子を見て、クスクスと笑いながら、レイと男はソファーに移っていきました。

 センはちゃっかりと私の横に腰かけて、自分も菓子にありつく気満々です。


「ケーキ・タルト・マフィン・サンドウィッチ・ジャム・クリーム……。美味しそう。王様との話し合いなんてレイにまかせておけばいいのよね」


「なんで王様ってわかるんだよ」


「だって霊獣なんて国の根幹にかかわるような機密事項を、おもちゃに遊ぶなんて、たとえ王太子クラスでも無理よ。だからあそこの偉そうなのは王様で決まりなの」


「お前、抜けてんのに、変なとこ勘がいいな」


「うん、うちの家、魔女の家系って冗談いわれるぐらい、みんな勘がいいのよ」


「抜けてるって部分は、否定しないのかよ」


 ぎゃぁぎゃぁ言い合う2人を微笑ましそうにみていた、ゴードンやモラルたちだが、王とレイが真剣な話し合いなんを始めると、いなくなってしまった。


「どこ行ったんだ?」


「たぶん盗聴を恐れて、見張りについてるんだろうけど、セン、あの王様ってホント肝っ玉が据わってるよね。ここには霊獣持ちが3人もいるのに」


「そーだなぁ」といいながらセンはなんとなく居心地が悪そうにしています。


「セン、もしかして追跡装置に、盗聴機能もついてたのかな?」


「あー、お前も勝手にしらない奴について行ったからな。だからおあいこだ」


 何がおあいこになるのかよくわからないけど、ケーキが美味しいし、2人に会えたし、まぁいいかな。


 

 お腹がいっぱいになったので、レイと王さまのお話合いに聞き耳をたててのんびりとすることにします。


 私はこうやって大人しくおとなの話に耳を澄ましているのが好きな子どもだったなぁ。

 また子どもに戻っちゃったけどね。


 レイはすっかり王様と仲良くなってしまって、私とセンを連れて王様のところに身を寄せることにしたみたいです。


 レイと王さまとの話し合いは白熱していますね。

 なにしろ天球では、未だに戦国時代みたいに小さな国々が争っているんですって。


 王さまは自分の国ウィンディア王国で東を制し、力をつけている西の女帝ゴルトレス帝国、南のプレスペル皇国とで、3ヵ国同盟を結び、世界の安定を考えてるってレイに話したの。


 それって1国で世界制覇を考えるよりは、よほど現実的だし、しかも3ヵ国が競合することで、より発展することもできるってわけね。


 それにレイがすごく食いついて、その考え方をした偉人が地球にもいたんだって説明をはじめて、そのうち興奮したレイは、国際連盟構想までぶち上げるもんだから、王様も興奮して議論が白熱していくばかりでした。



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