金の鳥かご
世界和平会議開催を翌日に控え、プレスペル皇国・ウィンディ王国、・そして砂漠の民の軍勢の天幕が、広大なゴルトレス帝国の草原地帯に煌びやかな花々のように散らばっているのはとても壮観です。
対するゴルトレス帝国も軍勢を草原に集めているのは、全ての国の軍勢は帝都に入らないとの約束を果たすためでした。
ゴルトレス帝国は広大な草原を擁する騎馬民族であり、その機動性とともに勇猛果敢な戦闘能力でもよく知られているのです。
1万のゴルトレス帝国の騎馬隊を迎え撃つのには、その十倍は必要だと謳われるほどゴルトレスの男たちも砂漠の民と並ぶ勇猛な男たちなのです。
そんなゴルトレスの騎馬隊も、帝都を近衛兵に明け渡してしずかに三ヵ国和平会議の行方を見守っていました。
現在ゴルトレス帝国の城内には、三ヵ国の要人たちが明日の会議を控えてすでに城内でその時を待っています。
草原には膨大な軍勢が控えているとはいえ、城内はとても穏やかでそれをみれば既に和平が実現したのではないかと思えるほどでした。
すでにやるべきことは終わっているらしく、お父さまもレイたちもすっかりくつろいでいます。
お父様もレイもオンとオフの切り替えがとても上手なので、厳しい状況になっても素早く判断が下せるんですね。
緊張と弛緩のバランスがとてもいい感じなんです。
お父さまたちが砂漠の国での出来事を熱心に聞きたがりますので、私も楽しく話して聞かせました。
なにしろ少しとはいえ大迷宮もこの目でみたんですから、話題にはことかきません。
「それでは今回は一体どうやってその砂漠の迷宮を抜けてきたんだい?」
その疑問は誰でもが思う事らしく、お父さまは心底不思議そうでした。
私はノリスが自分の為に作ってくれた可愛らしいお家のことを教えてあげられるのがうれしくて、詳しく話してあげました。
「全部が幾重もの薄いベールで覆われた、とても可愛いお家なんですの。面白いことに部屋の真ん中にはブランコがあって、天井はとても高いんですのよ。まあるいドーム型の天井で、お家の窓などは金で繊細な装飾が施されていますの。」
「ほほう、それは面白いな。」
そう言ったアイオロス王もレイなんだか全然面白くなさそうな顔をしています。
「ナナ、ちょっとノリスを呼び出せるかな?」
レイが笑顔でそう言いましたので、砂漠の長のもとにいる筈のノリスに使いをだしましたが、どう考えてもお父さまもレイもなにか気に食わない顔をしているんです。
だっていつもレイがお説教大魔神になるときみたいな感じなんですよ。
私は今回なにやらかしたんでしょう?
どーやらあのお家が絡んでいるらしいことはわかるんですけどねぇ。
ノリスは砂漠の長と打ち合わせの最中だったはずなんですが、なぜだかセンと一緒にやってきました。
最近この2人が一緒にいる姿をみかけることがふえましたけどどうしてでしょう?
お互いに婚約したばかりなので、なにかと話題があうのかもしれませんね。
ノリスはやってくる早々、保護者さまたちのブリザードに気づいたようでそのまま固まってしまいました。
「ノリス、私の娘が移動に使うという家をここに出しなさい。」
お父さまが厳しい声で命じますと、一瞬だけ抗おうという姿勢を見せたノリスですが、しぶしぶ家を部屋にだしてみせました。
「家だけを見たいんだ、悪いけど家具だのタペストリーだの、特に家をかこっている覆いは全て倉庫に収納してくれ。嫌なら私がやってもいいんだかね。」
レイもとっても冷たい声でお願いというより命令しています。
そしてにっこりと私を見ると
「ナナ、今回もこのお家でここまで来たのかな?」
と、優しくたずねました。
なんだか答えてはいけない気がするのですが、それでも素直に
「はい、外に出る時はそのお家で移動します。」
と答えました。
センが身体をブルブル震わせながら
「ノリス兄貴さすがだぜ。男のロマンだ。しかしホントにやるとは半端ねぇ」
と呟いています。
ノリスによって装飾が全て取り払われたあとに現れたのは、金色の美しい鳥かごでした。
私はびっくりしてその鳥かごを見つめました。
金色の鳥かごには、見事な装飾が施され、止まり木に模したブランコも揺れています。
なんで部屋にブランコがあるのか不思議でしたが、鳥かごなら止まり木は必需品でしょう。
そーいえばその家の形状がなんだか鳥かごに似ているような気がしたこともあったのですが、いかんせん幾重にも重ねられたベールがその実態を隠していたので気がつかなかったのです。
すでにノリスは絶望的な顔色になっていましたが、アイオロス王とレイによるお話合いのために、引っ立てられていきました。
ちなみに美しい鳥かごはそのままレイの倉庫に強制収容されてしまいました。
「レイったら、お家がないと砂漠の国には帰れなくなっちゃうのに、どうしたのかしら?」
けっこう可愛かったんですけどねぇ。
人間に鳥かごっていうのは失礼といえば失礼なんだけど。
でも移動手段がなくなると困るのは私ですよ。
「多分、もう二度どあれを見ることはないと思うぜ。っていうかしばらくノリスは出入り禁止だろうなぁ。ナナもこれが終わればウィンディア王国に帰るんだしな。」
何故だかすっかり事情を察しているらしいセンが、わかったようなことを言っています。
あの後、お父様もレイもそれにノリスまでも部屋からいなくなってしまったので、センとお喋りをしています。
話題はあの霊獣会議の時にセンから貰ったプレゼトのことです。
霊獣会議の日は、私の13歳の誕生日と重なっていて、たまたま誕生日だと知った霊獣様たちが心づくしのプレゼントをくれたのですよ。
霊獣さまからプレゼントをいただくことになるとは思わなくて、すっごく素敵な誕生日になったんですけど、そのまま公式行事が続いたのでお互いに話すのは久しぶりなんです。
「そーいえば、センから貰った髪飾りってどんな加護があるの?」
「あー、ちゃんとつけてるな。いつも付けとけよ。それは警報機だ。ナナがもしも動けなくなるようなことがおきたら、その髪飾りが霊獣に助けを呼ぶ。霊獣以外には聞こえねぇから、外されたり、壊されたりすることもないはずだ。」
「まぁ、どーせ真っ先に駆けつけるのはノリスの兄貴だと思うけどな。」
「センってノリスのこと兄貴って呼ぶようになったね。なんで?」
「そりゃ、まぁいろいろとね。オレ一人っ子だったから、兄貴が欲しかったんだ。ノリスはいい奴だぜ。」
わたしにはノリスとセンが組むとろくなことにならないような気がするんですけどねぇ。
いちどこの件についてセーラとゆっくり話しをした方がいいかもしれませんねぇ。
「セーラとセンはいつ結婚するの?」
何気なくセンの結婚を話題にするとセンは真っ赤になってしまいました。
「オレはすぐにも結婚したいんだけど、プレスペル皇国では男は18歳まで結婚出来ないんだって。オレ今16歳だから、あと2年だな。その2年間オレ、公爵領で統治の勉強するんだ。セーラにも会えなくなる。」
「そっかぁ、お互いまだまだこれからだねぇ。けどセーラがお揃いの指輪にサクラの転移術を仕込んでもらうんだって言ってたから、全くあえなくなる訳じゃないみたいだよ」
「ほんとか!良かった。なにしろセーラって寂しがり屋なところがあるからなぁ。それは助かるよ。けど結婚と言ったらこの三ヵ国和平会議が上手く締結できれば、レイとアンジェリカ王女が結婚するんじゃないのか?」
「そーだよねぇ。きっとマーシャル王国で結婚式を挙げてそのままウィンディア王国に戻って結婚パレードと結婚パーティって流れじゃないかなぁ」
「そーなるんじゃないか?なにしろマーシャル王国の第一王女だもんなぁ。レイだってウィンディア王国での結婚式にはこだわらないだろうしさ。」
「じゃぁ、もう一度だけあのマーシャルの鐘を私とアカツキさまとで鳴らせないかなぁ。なんといってもアンジェリカ王女の結婚式だもの。あの鐘が鳴り響く中を歩かせてあげたいなぁ。」
「そいつはいいね。ノリスの兄貴だって、それぐらい許してくれるんじゃないかなぁ。後で頼んでみなよ。」
「うん、明日が上手くいったらお願いするよ。和平会議のあとは結婚式かぁ。」
「多分大人たちは上手くいったらいったで忙しくなりそうだからな。結婚式の準備はナナと王妃さまでやるといいんじゃねぇか。」
「さすがセン、冴えてるね。帰ったらまっさきにお母さまに相談する。お母さまにかかればあっというまに準備できちゃうわ。」
「まだまだ、勉強することが多いみたいだなナナも。オレも目標はアイオロス王みたいなカッコイイ大人になることなんだ。普段はだらけてるけど決めるときは決めるもんなぁ」
「あら、センはノリスと仲良しなのにお父さまが目標なの?」
すこしからかってみると、センはむきになっていいました。
「だってノリスの兄貴はさ、まぁ兄貴なんだよ。目標というより、なんでも相談できる頼りになる感じさ。アイオロス王のことは尊敬してんだって!」
ちょっとからかいすぎちゃいましたね。
「からかってごめんねセン。私だって目標はおかあさまだもの。その気持ちすっごくわかるよ。でもお互いに目標は遠いわね。」
「まぁなぁ。あ~あ早く大人になりたいなぁ。」
「センが大人になったら、きっとすごくいい男になるよ。セーラは見る目があるね。」
「おだてたってなんにも出ねぇぞ」
「いらないわよそんなの。それよりねぇ、セン。このお城で一番高くて、そして外が見える場所に連れて行って欲しいんだけど。」
「それぐらいかまわないけど。どーしたんだ?」
「無性に祈りを込めてフルートが吹きたいの。」
その夜、塔の上から地上に向けてフルートの音色が響きわたりました。
今この場にきているすべての人の安穏と明日の成功を祈りながら、私は心を込めてフルートを奏でました。
フルートから流れ落ちる金色の粒子は、風にのって遠く遠くへと流れていきました。
その夜、人々は、美しい夢をみました。
誰もがお互いに手をつなぎ、その人々の輪が果てしない宇宙にまで、届く夢でした。




