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センの婚約

 ノリスは自分の番が信じられないくらいひ弱い生き物であることを思い知らされました。

 もちろん散々アイオロス王にもレイにも忠告は受けていましたし、金糸雀というものの運命についても説明を受けています。


 だからノリスとしてはさあやを歩かせることなく迷宮を踏破する方法として、おんぶというさあやからすれば恥ずかしい方法を選んだのです。


 だというのにそれすらさあやには負担らしく意識を失ってしまいましたし、それならばと船旅を選べば水に濡れただけで熱をだしました。


 自分がとことん甘かったのだとノリスは思い知ったのです。

 それまでナリスはさあやを軟禁しているとしか思えないアイオロス王とレイのやり方に不満を覚えていました。


 たとえか弱いとはいえさあやは立派なひとりの女性です。

 あまりにも過保護過ぎるのは、いかがなものだろうか?

 ノリスは結局アイオロス王やレイは、ただの過保護な親に過ぎないのだと決めつけていたのです。


「どうしたものだろうか?」


 ノリスの悩みはこの地底都市からさあやを連れ出す方法についてでした。


 砂漠の大迷宮を通り抜ける以外に道はなく、逆にいえばあの砂漠の大迷宮があるからこそさあやの安全は担保されている訳です。


 アイオロス王が和平会議までの間ナナの安全を確保する場所として、地底都市を選んだ理由もここにあるわけなのだから。


 ピンクに頼むという方法もありますが、それでは根本的な解決にはならないでしょう。

 ノリスがなんとかしてさあやを運ぶ方法を見つけなければなりません。


「ほほぅ、若には随分お悩みのようじゃ。姫にでも嫌われましたかな」


「爺、戯れている場合ではないわ。さあやは弱すぎる。どうやって表に連れ出せばよいのやら」


「ふむ、たしかにあの姫さまでは、竜が抱いていても迷宮の外に出るころには心の臓がとまるやもしれませぬのう」


「怖い事をぬかすな。爺、妙案はないか?」


「若は次元倉庫をお持ちじゃろう。あの中なら安全ではござらんかのう。」


「次元倉庫?しかしあそこに生き物を入れられるものなのか?やってみるか」


 ノリスはその場ですぐに鳥を摑まえると次元倉庫に放り込みました。

 明日、問題なく取り出せるようならさあやを入れておけるでしょう。


「しかし若。いくらなんでも姫さまだけをそのまま放り込んではなりませぬぞ。可愛らしいお部屋でも用意しておくことでございますよ。嫌われたくなければのう」


「爺、でかした!良い事を思いついたぞ!」


 それからノリスは細工師だの鍛冶師だのを集め、なにやら図面を書いて相談をはじめました。


 またよく気のつく侍女頭に、金の姫の旅行用の家具やリネン類を準備させるのでした。


 次元倉庫に放り込まれた小鳥は元気に飛び出してきましたから、ノリスの計画はなんの憂いもなくおしすすめられました。


 私はノリスがなにやら熱心に私をこの地底都市から安全に移動させるために工夫を凝らしていることには知っていましたが、結局次元倉庫で移動すると聞かされていたのです。


 しかしまさか移動のためのお家まで作ってしまっていたなんて今日まで知りませんでした。

 ノリスの次元倉庫で移動すると聞かされた時には、怖くてたまらなかったのですが、こんなにかわいいお家なら安心ですね。


「すごいわねぇ、ノリス。どこもかしこも柔らかいベールで覆われているのね。まるでベールの迷宮みたいなロマンチックなお家だわ」


「まぁノリス。お部屋の中にブランコを作ったの?面白いお部屋ねぇ。それに天井がおそろしく高いのね。しかも円天井じゃない。窓は金細工で出来ているのね。どうせ外は見えないけれど。」


「どうだい、一通りの家具は揃っているから移動の間ベッドで寝ていることもできるし、お茶を楽しむこともできるよ。侍女にも一緒にいてもらえるし」


「いいえ、せっかくの機会だからこのお家にはひとりで入るわ。本をどっさり持ち込んだら退屈しないし、たまにはひとりでのんびりしてみたいもの」

 

 さあやの反応も上々だったので、これでノリスはさあやの移動になんの憂いもなくなりました。

 この方法は霊獣しか使えないものでしたが、それだけに画期的です。


 センやレイに教えたら、うっかりすると面倒だとばかりにナナをすぐに次元倉庫に放りこみそうではありますけれど……。


 私のたっての希望でゴルトレス帝国へ行く前にセーラ皇女に会いにプレスペル皇国にいくことになっています。


「さあや、おやじどの達とはゴルトレス帝国で合流することになる。プレスペル皇国へはオレだけで駆け抜けるから2日あれば十分につくだろう。2日間もひとりで大丈夫かい?やっぱり侍女をつけようか?」


「もう、ノリス。赤ん坊じゃないのよ。2日ぐらいなんともないわ。それじゃあ部屋に入るからセーラのお部屋に着いたら出してちょうだいね」


 私はそういうとさっさとノリス謹製のお家に入ってしまいました。


 必要なことだと覚悟を決めたら泣き言ひとついわない潔さのあるさあやのそんなところが、かなわないなぁとさあやを見送ったノリスは思いました。


 私は十二分に移動部屋を楽しみました。

 どこもかしこもベールで覆われているのに、ノリスが用意してくれた発光石のおかげでぼんやりと明るいのです。


 明るすぎないのでかえってリラックスできます。

 お医者さまがいたら目に悪いといわれるかもしれませんが、私は別に気にしません。


 だって子供のころには、夜更かしがばれないように懐中電灯を布団にもちこんで本を読んでいたんですもの。


 私は本というよりは活字が大好きで、好きにさせておいたら1日中本を読んでいます。

 本を読みだすと周りの音にも気が付かなくなるので、真っ暗になって字が見えなくなってようやく我に返るほどなんです。


 不思議なのは部屋の中央で揺れているブランコですが、私はそこに座ってゆったりと揺られながらアカペラで思いっきり歌をうたってみました。

 誰にも聞こえないので恥ずかしくないのがいいですね。


 すっかり楽しんでいたので、もしこの移動が1週間でもまったく気にならなかったことでしょうね。


 いきなり次元倉庫から出されたときには一瞬眩しさに目がくらみましたが、目の前にはいかにも嬉しそうなセーラとちょっと拗ねたようなセンの姿がありました。


「レティ、私たち婚約したの!」

 セーラはナナの身体に飛びついて抱きしめるなりそう叫びました。


 一瞬なんのことがかよくわかりませんでしたが、その視線が不貞腐れたようなセンにとまると、あぁそうか照れているのかと納得してすべて腑に落ちました。


「セーラ、今から緊急女子会をやるわよ!」

 私がいえばセーラもこくこくと頷きます。


 ノリスはそれを見て苦笑すると

「オレらはオレらで楽しもうぜ!」

 というなり、センを促して出ていってしまいました。



 気はせきますがお風呂に入ってさっぱりしたところで侍女さんがたに恒例の夜着を着せてもらいます。


 きょうのはちょっとベビードール風で、短めのふんわりとしたチュニックに膝上までのこれまたふんわりとしたパンツを履いています。


 色は定番のピンクですし、うさ耳、うさ尻尾は標準装備です。

 クッションにはすでにサクラが撫でてもらおうと待機しています。


 セーラと私はサクラをもふりながら、せっせと婚約について話し合っています。


「じゃあさぁ、やっぱりなれそめはあの月夜ってことでいいの?」


「そうなのよ、あの時いわれたように全部センにはなしたのね。そしたらセンたら、じゃあオレら付き合わないかって言ったの!」


「なになに、じゃあさ、いきなり交際宣言って訳なの?さすがセン素早いなぁ。」


「ええ、センが俺の彼女になってくれって!キャァー。えっとそれからまぁ付き合ってたんだけどさ、成人パーティで婚約者を探すってお父さまが言い出して……」


「それでセンどうしたのさ?」


「成人式のパーティで私はセンとダンスをしたのね。そしたらダンスが終わるなりセンがひざまずいてセーラ結婚してくださいって!みんなが見てる前でよ!」


「それプレスペル皇帝やアイオロス王はどういってんの?」


「お父様は霊獣を落とすなんてさすがオレの娘だって、褒めてくれたわよ。センを後継がいない公爵家に養子に入れるって。私は将来の公爵夫人って訳ね。それにアイオロス王もこれで両国の絆がより強固になるってお祝いをくれたの」


 私はそれを聞きながら、アイオロス王の思惑通りに進んでしまっていることに感心しました。


「おめでとうセーラ、それで結婚式はいつになりそう?」


「それがセンは16歳になったばっかりでしょう。プレスペル皇国では男性は18歳にならないと結婚できないの。それでもうすぐセンは公爵領で領地の運営とかの勉強をしないといけないから2年間あえなくなりそうよ。」


「まぁ、セーラ。それだってウィンディア王国にいるよりずっと近いじゃないの。会いたくなったらサクラの転移もあるんだし」


「そうよね、今度はセンとお揃いの指輪でも作って、ピンクさまに転移の術式をかけてもらおうかしら。そうしたらいつでも会えますもの。」


「それって素敵なアイデアだわ。セーラはサクラがいていいわねぇ。私なんてノリスの次元倉庫で運ばれてきたのよ!」


「そうよ、それが聞きたかったのよ。ノリスってレティを攫って殺しかけた人でしょう?なんで婚約者になんかなってんのよ」


「いや、セーラ。ノリスが殺そうとした訳じゃなくて、あの時は私が意地を張ったのと、カナリアがあまりにも弱すぎたのがそもそもの原因なのよ」


「すごーい、もう婚約者をかばってる。けっこう熱々なのね」


「まぁひどい!それを言うならセーラだって!」


 そんなことを言い合ってむきになっていた2人ですが、お互いに顔をみあわせると一緒になって噴き出してしまいました。


「クスクスクス、まぁセーラったら真っ赤よ」


「フフフ、いやぁねぇ。真っ赤なのはレティのほうよ」


 こうやって賑やかな女子会はいつ果てるともなく続いていきました。


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