砂漠の巫女姫
宴会が進んでいくと酔いのせいもありだんだんとくだけた感じになって、賑やかになっていくのはどこも同じみたいです。
それに砂漠の民は皆さん武闘派ぞろいですもの。
ノリスにしても自分で意識しているときは、私と言いますが大抵の場合はオレって言うぐらいですからね。
つまりさっきからノリスはからかわれているんです。
まぁね、婚約者がこんな子どもなら私だって率先してからかいますから、皆さんの気持ちもわかります。
「若もすみにおけないなぁ。いつのまに引っ掛けたんです?」
「やんちゃ坊主が、こんなお嬢さんを連れてくるなんて。世の中なにがおこるかわからねぇ」
「若、犯罪はいけませんぜ」
「しっかし、若がロリコ ゲボ グッ……」
とうとうロリコン発言した人が沈められてしまいましたよ。
そのうちこちらにもお鉢が回ってきました。
「姫さま、姫さまもなにかやっておくんなさいよ」
「お近づきの印にパァーとお願いしますよ」
どうしましょうか?
「ノリス、フルート吹こうか?」
「さあやって時々マジに馬鹿だな。宴会で秘儀をおこなう奴があるか!」
わかりましたよ。
そんないかにも馬鹿だろって顔をしなくても……。
そういうとこなんかセンとそっくりで嫌になっちゃいます。
なんか剣舞をやる人がいたり、美しいお姉さんが色っぽい踊りを踊ってくれたりしているので、私もじつはうずうずしていたんですよ。
だってこういうのって、楽しまなきゃ損でしょ?
それでなくてもウィンディア王国では、ほとんど駕籠の鳥だったんだし……。
せっかく薄いベールを幾重にも纏っているんです。
これを被衣に見立てれば、何とかなるかもしれませんね。
日本舞踊が砂漠の民にうけるかどうかはわからないけれど、久しぶりに踊りたくなってしまったのです。
私が立ち上がって舞台となっている円座まで進んでいくと、急に静かになりました。
まさか深窓の姫君が余興をかってでるとは思わなかったんでしょうね。
でもこの静けさならいけるかもしれません。
ここにくるまで練習していた二人静。
ひとりしかいませんけれども、それも一興というものでしょう。
面白いことに舞い始めると、足首のアンクレットがシャラシャラと良い音楽を奏でます。
不思議ですねぇ、こちらの踊りとは違って日舞の動きは地を滑るようなのに、それでもアンクレットは音をたてるのですね。
この踊りはお家元を継ぐことになった従妹の舞台に花を添えるために、もうひとりの従妹とお稽古を重ねてきたものです。
私たち従妹は同い年の3人娘でとても仲がよかったんですが、その内のひとりが親族がお家元をしているそれなりに有名な流派の跡を継ぐことになったんです。
天才っているんだなぁって、私はあの従妹を見ておもいましたもの。
せっかくの従妹の晴れ舞台、従妹の名前を汚したくなくて何度も何度もお浚いしたんです。
静かな空間に幻想的な舞、しかも舞いすすめるうちに衣がひらりと翻り、金の光がチラチラと舞散っていきます。
いつしか無心に舞っていた私はこの舞がいったい砂漠の民にどのような効果をもたらしてしまったのか、には全く気が付いていませんでした。
舞い終わって周りをみわたせば、どうしたのでしょう。
まるでみんな息をするのも忘れたみたいにシーンとしています。
失敗しちゃったのかなぁ、もう半年以上お稽古していなかったし……。
いきなりノリスが私を抱き上げると、
「おやじ殿、今日はこれまでだ!」
と言い捨てて、ドンドン歩いていきます。
「ノリス、どうしたの?ノリス。」
「説明は後だ。とりあえずオレの部屋にいく。そのうちおやじ殿もやってくるだろう。厄介な!」
そのときかなり離れた広間から、どぉっというような大声が聞こえてきました。
あまりにも騒ぎが大きいので、広場が揺らいでいるように思えるぐらいです。
「長、あれは伝承の砂漠の巫女姫でございまするな!」
「では、若が天球の守護竜となるのでございますか?」
「砂漠の民が、秘術をおこなう時がきたのでございますか?」
わかりません、わかりませんが、何やらやらかしたことだけはわかります。
ノリスは自室に入ると、私をゆったりとした肘掛椅子に座らせると、しばらく困ったように私を見つめていました。
「さあやのせいじゃないんだけれどね。砂漠には大昔からの言い伝えがあるんだよ」
「それがどうやら私と結びつけられてしまったって訳なの?たかがダンスくらいのことで?」
「そうだね。だけど伝承にはこうある。巫女姫はシャラリと金の鎖を震わせると、深いベールとともに緩やかに舞う。巫女姫のベールがふわりと揺れると金の光がチラチラをまいおりて全ての苦しみを癒していく」
「それは……でもその巫女姫は一体何をするっていうの?」
「それは砂漠の民がこの地に至る理由となるものじゃ。伝承にはこうある。いずれ滅びの船が天球に舞い降りる時、巫女姫が現れ滅びの船の穢れを祓うと」
「そしてその巫女姫を守る者が、天球の竜だと言われておるのじゃよ。砂漠の民はいずれきたる災厄から天球を守るために、紫の姫巫女とともに天球に移住した民の末裔だともいわれているのじゃよ」
そう答えたのは砂漠の長さまでした。
「おやじ殿。広間の連中はどうした?あの伝承は逆にいえば砂漠の巫女姫が災厄を持ちこむともとられかねないぞ」
「それは大丈夫じゃ。砂漠の民は血のつながりを大切にする。お前の婚約者なら、奴らにとっても娘と同じじゃよ」
「金の姫。驚いたかもしれぬがただの伝承に過ぎぬ。もし時が災厄を招いても金の姫ならきっと切り抜けるさ」
「お父さま、どうかレティとお呼び下さい。。いづれは娘となるのですから」
「おお、これは息子とは大違いじゃ。可愛らしいことじゃなぁ。アイオロス王が手放したがらぬはずじゃの。よろしくのレティ」
「おやじ殿には娘はいくらでもいるだろうが、さっさと出ていってくれないかな。もう用はないだろう」
「まったく番を手にした竜は嫉妬深くてかなわぬわ。それじゃ失礼するぞレティ」
砂漠の長さまが部屋をでると、ノリスは私を抱き上げて言った。
「オレの番どのも疲れたろう、すぐに部屋に連れていってやる。ゆっくり休むといい。明日は砂漠の迷宮に連れていってやるからな」
「ほんとに!嬉しいわ。楽しみだわありがとうノリス」
お部屋に戻ると侍女さんたちが湯殿に連れていってくれて、マッサージまでしてくれました。
なんだかとても疲れていたので助かります。
砂漠の夜は恐ろしいほど凍えるというのに、この地底都市ではさわやかな風が心地よく薄いベールごしに庭を見ることもできます。
扉や壁も少なくて、自然の風を室内に取り入れる仕様になっています。
きっと治安がいいのでしょうが、王宮がこれほど無防備でも大丈夫なのでしょうか?
大丈夫なのでしょうね。
考えてみたらこの地底王国に来るためには、砂漠の大迷宮を踏破しないといけない訳です。
聞くところによると一流の冒険者でも、ひとりでなんて絶対に踏破はできないといいます。
凄腕の冒険者がパーティを組んでようやく、踏破できるのだとか。
それでさえ前もって砂漠の民の許可がなけれな、この国に足を踏み入れることは許されないそうです。
それならこのようにゆるやかな警備も納得ですね。
きっとこの地底都市で罪をおかせば、地上に放り出されて二度どこの国には戻れないのではないでしょうか?
いずれ私が暮らすことになるこの国は、私にも自由を与えてくれそうです。
砂漠の巫女姫伝説については、お父さまとレイにも伝えておかなければなりません。
私は通信機をオンにしました。
「よう、ノリスは優しくしてくれるかい?問題があればお父さまに言うんだぜ。しっかり躾てやるからよ」
「お父さまったら、ノリスが可哀そうですよ。それより少しお伝えしておきたいことが……」
お父さまに今日の出来事を伝えると、お父さまからも思いがけないお話がありました。
「不思議だと思もわねえか?今まで金の金糸雀は、その存在すら秘匿されてきた。そうやって天球の奥深く生きる霊獣だったはずだろ?」
「異世界人がカナリアを取り込むにしても、何故私だったか?ですか」
「そうだ、お前は不思議なくらい目立つ!、自分では平凡だと思っているようだが心当たりはあるはずだ」
う~ん、そう言えばそうなんです。
私はひっそりとお仕事をしていれば満足だったんですが、何だかだとちょっかいをかけられてしまうんです。
構わないで欲しいんですけどね。
「ひっそりと存在を秘匿する筈の核が、なぜおまえみたいなアンバランスな娘をえらんだのか?そこに何者かの意思が働いていんじゃねえかってレイは考えている」
「つまり私でなければならない理由があったということですか?もう少し正確に言えば私のような性質の娘が必要だったと?」
「そういうことだ。そのレイの言うなにがしかの意思。砂漠の大迷宮にはそれを知る手がかりくらいありそうだと思ってな。まぁ王様やっている間は無理だが、オレんちのガキが20歳になったら、とっとと王様業は押し付けて、迷宮探査としゃれこみたいもんだぜ」
弟はもうすぐ1歳の赤ん坊です。
お父さまが王様業を放り出すには、あと二十年は必要ですよね。
いやいや、お父さまやレイがこの砂漠に来たら、きっとノリスは胃をやられるに決まってます。
この話はレイの精神衛生のためにも、内緒にしておくことにします。




