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金糸雀の運命

「さあや、これは婚約にあたって直接アイオロス王から教えられたことだ。なにしろオレは霊獣としてはまだまだ幼いんだ。だから爺がお目付け役としてうるさく付きまとっているんだけどな。金糸雀のことだってよく知らなかったんだよ」


 ノリスは静かな声音で話しを続けていきます。


「さあやはカナリアがとても弱い霊獣だってことは知っているよね。けれども砂漠で無茶をしただろう?オレもさあやに無茶をさせてしまった。これは2人とも金糸雀というものを、よく知らないからおきたことなんだ」


「確かにこの身体だと、少し無理するだけで熱がでたり、砂漠を歩くだけで死にかけたり、悪意を感じただけで身体が動かなかったりするけれど、それはカナリアが弱いということでしょう」


「そうだね、オレだって最初はそんなものだろうと思っていたんだけどね。じゃあカナリアの力について疑問に思ったことはないの?」


「カナリアは全てを癒す力を持つってこと?それなら霊獣はみんないろんな力を持っているでしょう?」


「う~ん、ちょっと違うかな。例えばピンクの転移や透視にだって制限が或る筈なんだ。僕の力だって無から有を生み出す訳じゃない。ちゃんと水脈がなければ役にはたたない。なんでもできるなら今頃、砂漠は緑地になっているよ」


「そういえばピンクは場所を特定しなきゃ透視はできないし、追尾だって一度にひとりって決まってるわ。センだってきちんとその武器をイメージできなきゃ作れないし、作るのに時間もかかるわね」


「そうだね。ムラサキの能力も同じなんだ。防御のバリアーを張る為にはその近くにいる必要があるし、治療できるのは傷の回復と除霊や解呪だね。それだって古い傷は治せないし、解呪には本人の強固な意思が必要だ。欠損なんて治せやしないんだ」


「それと比べるとカナリアの力は強すぎるんだ。あらゆる病気、ケガ、欠損、遺伝病から精神疾患、解呪や除霊まで……。人間の身体と精神の全てを修復できてしまう」


 そう言われれば確かにあまりにもチートすぎますね。

 いくら異世界とは言っても、確かに能力に制限がないというのは奇妙です。

 霊獣だからと納得してしまっていましたが、それでも制限がなさすぎますよね。


 「その力を与えられたカナリアはそのために代償を支払ったんだ。その代償と引き換えに膨大な力を得たんだよ」


「代償って、身体が弱いってこと?」

 確かに何らかの代償と引き換えに制限を解除したというなら納得出来ます。


「ごめんね。さあや。今から酷いことを言うよ。今までアイオロス王やレイは隠していたんだ。それに世間の人は霊獣についてあまり知らない。だからさあやはなにも知らないままでいられたんだけど、いずれは知る必要がある」


 聞きたくない。

 けれど自分の力ですもの向き合わなきゃいけませんよね。

 私は両手をグッと握りしめてノリスの言葉を待ちました。


「カナリアは自分の力で生きることはできない。必ず庇護者がカナリアを懐深く隠して守ってきたんだ。つまりね、さあや、君は庇護なしに外を歩くことすらできない。わずかな害意でも身体は動かなくなるし、害意に晒され続けるだけで、弱って死んでしまう」


「そしてカナリアの力は感謝と愛と同じくらい憎しみや恨みもかってしまうんだ。そんなカナリアが外の世界で生きられると思う?」


 私はその話を聞きながら涙がとまりませんでした。

 すべてがそう考えると辻褄があってしまうのです。


 レイがお父様に私を庇護させて私を王宮深くに隠そうとした理由も。

 私が王族のプライベートゾーンから出られない理由も。


 じゃぁ、まるっきりムラサキの言う通りじゃない。

 守られなきゃいけないカナリアが王の伴侶になんかなれる訳ない。


 対等に横に並び立つこともできないカナリアなんて守られるだけのペットなんだ!

 考えれば考えるほど自分が惨めで、涙がボロボロと零れ落ちます。


 そんなナナの様子を痛ましそうに見つめながらも、ノリスは話をやめませんでした。


「代々のカナリアはその時代に最も力がある覇王によって庇護され、守られてきた。つまりカナリアを得るということはその時代の覇者と認められるということになるんだ」


「それじゃぁ、私は単なるトロフィーみたいなものね。勝者が勝ち得る商品、まるでペットみたいだわ」

 私は思わず嘲るようにそう言ってしまいました。


「それは違うよさあや。単に力があるとか、権力を持っているとか、財力があるだけではカナリアは得られないんだ。僕らがカナリアを捉えるのではなく、カナリアが王を選ぶからね」


「どうして弱いカナリアが王を選べるというの?攫われればそれまでなのに」


「カナリアは僅かの瘴気で死んでしまうんだよ。その王が私欲のためにカナリアを得てもカナリアは死んでしまうんだ。本当にカナリアの力を手にすることなんて出来ないんだよ」


 アッと私は気付きました。

 そうかだから金糸雀は徹底的に弱いんだ。

 本当の王を見つけ王の為に力を使えるように……。


 そうか本当の王ならカナリアの力を正しく制御できるだろう。

 カナリアが王を選ぶとはそう言うことなんだ。


 ナナの目に光が戻ったのを見たノリスはほっとした様子になりました。


「カナリアはひとりではいきられないけれど、2人一緒にならいきられるんだ。オレはね。この話をアイオロス王から聞いた時、感動して身体が震えたんだ。だってあの王がカナリアを託す相手としてオレを認めてくれたんだからな」


 そうしてノリスは再びナナの前にひざまづくと言いました。


「金の金糸雀・異世界の娘ナナ・ウィンディア王国第一王女レティシア・ウィンデア姫・そして僕のさあや、どうかぼくの伴侶になってずっと隣にいてくれますか?」


「ええ、ノリス。愛してるわ。ずっと一緒にいる」

 私は感動のあまり思わずそう叫んでしまいました。


 ところがノリスはたちまち悪い顔になり


「愛してるって!いいなぁ、愛してるね。これからさあやには必ずノリス愛してる!って言ってもらおうかなぁ。ねえさあや、もう一度愛してるって可愛く言ってみて、ホラ言ってってば」


 そうだ!こいつはこういう奴だったんだ!

私はうかつなことを言った自分を激しく後悔しましたが、ノリスは許してくれません。


 すっかり観念し小さい声でようやく愛しているという言葉を口にしたときには、恥ずかしさのあまり涙目になっていました。


 ナナが恥じらいのあまり真っ赤な顔に涙を浮かべて「愛してますノリス」と小さく呟いた時、そのあまりの破壊力にノリスは自分の理性に不安を覚ていました。


「そろそろパーティ会場にもどらないとね。オレらは主役なんだからね」


 とノリスが言い出した時には、私も大賛成しました。

 なにしろ羞恥心で思いっきり心をごりごりと削られたのですから……。


 ノリスとナナがパーティ会場に戻った時のノリスのいやに上機嫌な様子と、ぐったりとして涙目になっているナナの姿をみれば保護者達には何があったか丸わかりでした。


 保護者たちは素早くノリスを確保すると「ちょっとお話合いをしようか、ノリス」と言うなりノリスを連行してしまいました。


 そこでどのようなお話会いが行われたのかは全くわかりませんでしたが、翌朝早々にノリスと砂漠の民は国に帰ってしまいました。


 ノリスとのお別れは保護者たちが見守る中で粛々と行われたので、婚約者とのお別れにしては少しも甘いムードのないものになってしまいました。


 ノリスのぐったりとした様子を砂漠の長がニヤニヤと面白がっている様子なのが、やたらに目についたお別れでした。


 しかしノリスと婚約したというだけで、世界は大きく変化します。


 あれほど聖女奪還を叫んでいたオルタナ教団は、その意思を撤回しました。

 ですからプレスペル皇国との約束とおり、残りの神殿についてはスケジュール通りに秘儀を行うことが決定しました。


 確かに青龍の婚約者を奪おうとするものはいませんよね。


 それにオルタナ教団にも利はあったらしく、新たにプレスペル皇国とウィンディア王国にオルタナ教団の神殿が建立されることも決まりました。


 これ以降オルタナ教徒による襲撃は全くなくなり、オルタナ教徒は良き市民を目指して活動を開始し始めています。


 これであの死兵となった人々の姿を見なくてすむと思うと、それだけでもこの婚約に価値があるように思えてしまいます。


 そしてマーシャル王国を初めとする多くの国がウィンディア王国との連盟を希望するようになり、その見返りとして約束していた秘儀を各国の王都で行うことになったために、ナナとその守護隊はまたウィンディア王国を離れ、長い旅路につくことになりました。


 これについてはちょっとした騒動がおきました。

 それと言うのもセンがナナの侍従という役目を嫌がったのです。

 警護はするけど侍従はごめんだというのがセンの言い分でした。


「ちょっと待ってよセン。どーゆーことよ、侍従も警護もおんなじでしょうが!」


「違うね、オレだって学習するんだ。ナナはいつだってなにかしら面倒ごとに引っかかるんだからな!侍従なんてやったら、お前のとばっちりでオレまでレイにお説教を食らうだろうが!」


「それはあまり建設的な意見とはいえませんね。セン、お説教が嫌ならしっかりとナナの手綱を握れば良いだけでしょう。責任を放棄して楽をしようという考えがそもそも間違っていますよセン」


 いつのまには2人の話を聞いていたらしいレイが、お説教大魔人に変身してしまいました。


「雉も鳴かずば撃たれまいに……」そうつぶやいて逃げ出そうとするナナをしっかりと確保したレイは、素晴らしい笑顔になると


「同感ですね。ナナ。もとはといえば鳥頭のあなたの責任ですからね。センと一緒にお話しをしておいた方がよいでしょうね」


 ナナは大声で叫びました。

「センのおバカ~!」


 

 子供たち2人を解放するとレイやれやれというように、執務室に戻りました。


 私はセンのせいで巻き込まれ事故みたいにお説教されたのが気に食わなくて、こっそり裏扉から自分のお気に入りの場所に潜入してレイの様子を探ることにしました。


 ここだと王様やレイたちの声が良く聞こえるうえに、子ども体型でないと忍びこめないから便利なんですよ。


 お父さまがが面白そうに何やら話していますよ。


「又なんかやらかしたのか、あの2人?」


「いいえ、まだですけどね。時間の問題ですよ。それよりセンですがセーラ皇女と近しいようですね」


「あぁ、お前の通信装置で、毎日お熱い様子だそうだ。しかし王宮から無許可で電波とばして盗聴されるって気づかないもんかね」


「おかげでプレスベル皇国の情報も取れるくせに、どの口が言いますかね。それでいいんですか?黒い獅子の戦力はかなりのものになりますが、このままではプレスペル皇国にくれてやることになりますよ」


「人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られろ!っていうぜ。セーラ皇女と霊獣の組み合わせだ。皇帝は無理だが、公爵位ぐらいには据えるだろうよ。隣国にうちの子飼いの公爵ができるんだ。悪くはねぇだろうさ」


「オルタナは取り込めましたし、隣国もあらかたこちらに流れた。そうなるといよいよ、ですかね」


「あぁ、あちらさんもちょろちょろ動いてやがるぜ。どっちにしても、あの女帝のことだ。相当のうまみを与えなきゃ納得しねえぜ」


「こっちは実利だけ取れればいい。名誉なんぞ欲しいもんにくれてやりましょう」


「それでいくしかねえな。くそ、だれか王様やってくんないかねぇ」


「はいはい、愚痴ってないで仕事かたずけますよ」


「お前のそういうところが気に食わねぇ」



 フムフム、大収穫ですね。

 私はセンが睦言をすっかり聞かれている事実を知って、センへの怒りを納めることができました。


 だって可哀そうすぎですよね。

 教えてあげませんけどね。


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