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ナナの婚約者

 よほど疲れていたのですね。

 目をさました時には,お日様の光がたっぷりと寝室にもふりそそいでいました。


 おかしいなぁ、侍女さんはおこしに来た時にカーテンを開けることはあるけれど、今日みたいにぐっすり寝ているのにカーテンが開いてお日様の光を浴びるなんてことはない筈なのに……。


 ぼんやりとそんなことを考えていると、

「おはよう!良く寝てたね。小鳥ちゃん」


 そんな声がしてノリスの顔が私の目に飛び込んできました!


「ノヴァーリス!」


「残念だねぁ、可愛い僕の小鳥ちゃん。名前を憶えてくれたのは嬉しいけど、ノリスって呼んでくれる?ダーリンって言ってもいいよ」


「な、な、な、さっきから何言ってんのよノヴァーリス!」


 私が思わず叫び声をあげたらそのままキスされてしまいました。


「フフフ、素直じゃない子にはお仕置きだよ。ノリス、ほら言ってごらん」


「ノリス」


 私は羞恥に耐えながら小さな声でそういいました。

 お仕置きなんてまっぴらごめんですからね。

 ノリスはこーゆーとこは危険なんです。


「素直でよろしい。きょうはおやじ殿の先ぶれにきたんだ!正式な使者はもうすぐ着く筈だけどさ。明日おやじ殿と結婚を申し込みに来るからね、小鳥ちゃん」


「ナナです。小鳥じゃありません!」

 これだけは譲れませんからね。

 私はノリスを真っすぐ見つめて言いきりました。


「う~ん、だってナナって他の人も呼ぶでしょ。僕だけの呼び名がいいんだよ。そうだねぇ、レティも結構使ってるみたいだし……。ナナの本名は何っていうの?」


「三枝菜奈ですけど」


「ふーん、ならさあやって呼ぶ!わかった?さあや」


 あんまりわかりたくありませんでしたけれど、小鳥ちゃんなんてむずむずするような名前で呼ばれるよりはずっとましです。


 私が渋々頷くと、ノリスは満面の笑みを浮かべて喜びました。


「可愛い、さあや。ご褒美だよ」


 そういうなりノリスはまたしてもキスしてきます。

 約束が違うじゃない!


 私が暴れれば暴れるほどノリスの口づけは深くなるばかりで、最後にはぐったりと倒れてしまいました。


 そんな私の様子をノリスは愛おしそうに眺めていたかと思うと。


「さっさと退散しないと、アイオロス王がお怒りだからな!あいつうちのおやじ殿とタメ張れるぐらい迫力あるからなぁ」

 そうボヤキながら、窓から出ていってしまいました。


 そんなこととは露知らず侍女がナナを起こしにきてみれば、ナナは真っ赤な顔をして倒れています。


「姫さま、大変!すぐに医者を呼んでまいります」

 あわてて駆け出した侍女の気遣いは無駄になりませんでした。


なぜならあまりの出来事に、私は知恵熱を出して寝込んでしまったのです。



 いったいノリスが何をしにやってきたのかは、アイオロス王が知っていました。


苦虫をかみつぶしたようなアイオロス王が、明日正式に求婚の使者がやってくると告げたからです。

ノリス自ら先ぶれを買ってでたようです。


 私が熱を出して寝込んでいるうちに砂漠の長から正式な使者が結納の品を携えてきていました。


 ウィンディア王国はこれを正式に受理したので、ノリスはその日のうちにレティシア王女の婚約者として内定してしまいました。


 そして翌日、私がふらふらと起き上がるころには、ウィンディア王国のきわめて優秀な部下たちによって、婚約披露パーティの準備が着々と整っているではありませんか!


 当の本人がぶっ倒れたとしても、婚約にはなんの支障もないことがこれでわかりました。


 すっかりむくれてしまいましたが、侍女さんがたプロフェッショナルチームは、私の機嫌にはおかまいなく着々と素晴らしい魔法を施していくのです。


 おかげでもうすぐ砂漠の長とノリスが到着するという時間には、私の黄金の髪は緩やかに巻き上げられて砂漠の長から贈られた芸術品としかおもえないレースのベールで覆われていました。


そしてローブデコルテもまた、砂漠の民ご謹製の刺繍が施されたもので、私としてはこのまま額に入れて飾りたくなるような逸品でした。


 これだけのものを、わずか1日で準備してしまえる砂漠の民の経済力と民度の高さを思うとめまいがするほどです。


 宝石の類は一切身に着けずに婚約者のもとに進みでると、婚約者がその身体を宝玉で飾り立てるというのが、砂漠の民の作法だといいます。


 実は砂漠の国が正式に他国に婚姻を申し込むのは、実に二千年ぶりのことなのでした。


 砂漠の国では略奪婚が普通なので、結婚式も砂漠の国の中だけで行われます。


 いまは無くなったミズホの国の女王、紫のミコが国民と一緒に砂漠の国に輿入れして以来の婚姻がウィンディア王国との間に結ばれるのですから、ウィンディア王国も失敗は許されないところです。


 お母様が娘の晴れ姿を、まるで厳しいバイヤーのような目でチェックすると、おめがねにかなったのでしょう。


「素晴らしいわレティシア。とても綺麗よ」といって抱きしめました。


 そしてにっこりと笑うと、侍女たちの素晴らしい仕事ぶりにたいして讃嘆の言葉をおくるのでした。


 あまりにも目まぐるしく運命が激変するので、私の心は全く追いついていきません。

 自分の婚約なのにまるでお話のワンシーンをみているような気分でいるのです。


 お母さまは私の手をひくと式典の間にしつらえられた玉座と王妃の席のすぐ横の椅子に腰をおろすように促しました。


 私は促されるまま素直にいすに腰掛けて砂漠の長の訪れを待っていますが緊張のあまり倒れそうです。


 やがて呼び出しの朗々とした声に、いざなわれるように、砂漠の長とノリスが入場してきました。


 彼等は純白の衣装を煌びやかな宝玉で飾り立てたていましたので、ナナを攫った盗賊とは全くの別人のように、立派にみえました。


 砂漠の長が進み出ると古式にのっとった流麗ではあるけれども、仰々しい婚約の言葉を述べました。

 

 お父様はその言葉を受けると、私の手をとりノリスの元まで連れていきました。


 お父さまは砂漠の長とは真逆で、たった一言しかおっしゃいませんでした。


「そなたに娘を預ける。頼むぞ!」


 その言葉を聞いてはじめて私にも、婚約をするのだとの実感がわいてきて泣き出しそうになってしまいました。


 ノリスはしっかりと、私の手をウィンディア王から受け取ると

「お任せ下さい」と答えました。


 そして私の手を取ったままひざまずくと、

「さあや、オレと結婚してください」とだけいいました。


 私は震える声で

「はい」と返事をします。


 すぐさま、ノリスの前に宝玉の箱が運びこまれ、ノリスの手によって、私は飾り立てられました。


 砂漠の民にとっては、ここで夫となる人から贈られた宝玉が妻の財産となるのです。

 この妻の財産に関しては夫であれ、父親であれ、手出しはできないきまりで、砂漠の女性の生命線ともなるものなのです。


 そしてどれほどの財宝が贈られるかで夫の妻への愛の深さが試されるという訳で、ここで夫から財宝が贈られた女性ほどこののち砂漠の民からは尊敬を得られることになります。


 反対に夫からの贈り物が少ない女性は砂漠の国ではないがしろに扱われることになるので、砂漠の民にとってこの宝玉は身分や地位を担保するものとされます。


 私はノリスがひとつひとつ丁寧に付けてくれる宝玉の数々が、どれ一つとってもちいさな国をひとつ買い取れるほどのものであることがわかり、あまりのすばらしさにため息をつきました。


 私はキラキラ光るものや、美しいものは大好きです。

 煌びやかに飾り立てたいのとは少し違うかもしれませんね

 宝玉は眺めているだけ魅了されてしまいます。


 レティシア王女は豪奢な宝石で飾り立てられて、まるで宝玉の国の女王さまの様でした。

 

 私は思わず心を込めてノリスにお礼を述べました。

「ノリス、これほどまでにして頂いて、ありがとうございます」


「よかった、さあやが喜んでくれるなら、何だってするよ」

 

 まるでたいしたことではないようにノリスは微笑んでいます。


 このままでは身動きひとつできません。

 着替えに戻るためのエスコートは当然のようにノリスの役目でした。


 ノリスが私を侍女たちに引き渡すと、さすがにどのようなことにも動じない侍女たちですらあまりに美しい宝玉に飾られた姫の姿に、仕事も忘れて立ちすくんでしまいました。


 ノリスはそんな侍女たちには目もくれず、そっと私の額に口づけをすると、

「オレも着替えてくる。すぐに迎えに来るからね」といって部屋を出ていきました。


 ノリスがいなくなると侍女たちはようやく動き出すことになりましたが、それからは大騒ぎになってしまいました。


「姫さま、まるで宝石でできたお姫さまのようですわ」


「これほど美しい宝石をはじめて目にしました」


 等々侍女たちの興奮とお喋りは侍女長が叱るまで続きましたが、わたしはなんとか身動きしやすく、可愛らしい衣装に着替えることができました。


 迎えに来たノリスは人目がつかない庭園の東屋に腰をおろすと、私を膝に抱き上げました。


 ところがその瞬間ノリスは私の足に光るアンクレット気づきました。

 そのまま私からアンクレットをとりあげるとノリスは熱心にアンクレットを調べ始めます。


「やっぱりそうだ。これはピンクの術式が組み込まれている。あのときの転移術はこいつだなぁ。ふ~ん面白い。だったらこれなら……」


 せっかくのセーラとの親友の証を取り上げられてしまってはこまります。

 取り返そうと声をかけました。


「ノリス、それはセーラ皇女との友情の証なの。だから……」


 ノリスは私の言葉を遮ると、にっこりとしてアンクレットを私の足に戻してくれます。


「大事なものなんだね。つけててもオレは気にしないさ。大事にしろよ」


 アンクレットが無事にもどりましたが、なんだか嫌な予感がします。

 ノリスが変なことをたくらんででもいるような気がしてならないのです。


 しかしここで何か言ってせっかくのアンクレットを取り上げられてはこまります。

 だから私はそのまま素直にアンクレットを受け取ったのでした。




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