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砂漠の民の秘密

 センに促されて仕事に戻ってみれば、神殿警備兵が悲鳴をあげるくらい続々と人々が詰めかけてきます。


 オルタナの襲撃の可能性よりも、病を治療するチャンスに賭けた人が多かったのですね。


 今回は1日しかないということと、次回も必ず開催される保証がないという思いから、かなり遠方から、無理して参加した人も多いようです。


 午後になると霊力の使いすぎで、癒しが終わるや否や、倒れ込んでしまいました。

 

 レイやメリーベルが心配して早めに切り上げるように勧めてくれるけど、希望を抱いて必死に神殿に辿り着く人たちを思うとそんなことができる訳がないですよね。


 神殿の舞台裏にベッドを入れてもらって、仕事がすんだらベッドで休みながらともかくも最後までやり遂げることに専念します。


 とくに最終の回は必死で間に合うように強行軍で神殿まで来た人ばかりだったから、癒しを受ける人も満身創痍なら施す私も霊力を絞りつくすようなありさまで、感動的な幕切れになりました。

 

「終わった~」

 やり遂げた達成感を全身で味わっていると


「そんな呑気にしてていいのかよ。レイと王様が手ぐすねひいて待ってるんだぞ」

 

 え~ん、どうしよう。

 あんまり忙しくて、すっかり忘れてた。

 

 というか考えることを避けていた。

 ノヴァーリスが私を攫った男だということを、センに言わずに解呪してしまった。


 どうして私、ノヴァーリスのこと言わなかったんだろう。

 私を殺しかけた男を、レイは必死で捜索してくれてた。


 それを知っていたのに、私は何も言わずに癒してしまったんだ。


 うわーん、怖いよう。

 ぜーったい、氷点下ブリザードのレイさまと対面することになる。


「うわぁー、セン助けて!」

「知るか。ほら手をかせ!じきに約束の時間になるぞ」


 センと手をつなぎながら、転移が失敗してプレスペル皇国につくといいなぁと願った。

 

 どんなに嫌だと思っても、転移は見事に成功し、着いたのは懐かしいアイオロス王の執務室でした。


 レイは素早く私をだきかかえるとソファーに横たえて、しっかりと布でくるみこみ居心地の良く収まったのを見極めるまでかいがいしく世話を焼いてくれました。


 これならあまり怒られなくてすむかもしれないと、ほっとした時、アイオロス王が声をかけました。


「お帰りナナ。よくがんばったな」

「ただいま帰りました。お父さま」


「ところで私の愛娘には結婚を約束した男がいるとか?詳しく聞かせてもらおうか?」


 ブリザードが吹き荒れています。

 私は自分が甘かったと悟りました。

 助けを求めるようにレイをみれば、レイもあの腹に一物あるときと同じ笑顔をしています。


「私も詳しくしりたいですねぇ、ナナ。今回はいったいなにをやらかしてくれたんでしょうね。」


 レイも相当おかんむりだと私は確信しました。

 これで私を助けてくれそうな人はどこにもいません。

 思わずセンを見れば、センも苦り切った顔をしています。


 レイがギロっとにらんだので、センが素早く今日おきた出来事を説明もう一度かいつまんで説明します。

 いつもは脳筋に見られがちだけど、この子とっても頭がいい。


 端的に必要な情報を伝えていく。

 それは、王様やレイが手に入れていた情報と一致したらしい。


 なんのことはない。

 ふたりとも情報は全部握っていて、あとは突合せする段階だったみたい。


 「厄介ですね」

 と、レイがため息をつくと


「そうだが、確かに砂漠の民の協力が得られるなら、帝国と手打ちがうてる。危ない均衡を保ちながらとはいえ、戦争を終えられるのは事実だ」


 王様は為政者らしく冷静に損得を天秤にかける。


「どういうことだ。なんで砂漠の民にそんな力があるんだ?」


 センが質問したが、私も同じことが聞きたい。


「プレスペル皇国は広大な大河と、それによる肥沃な土地を治めている豊かな国だ。しかし国土の7割は灼熱の砂漠が占めている。そしてその砂漠を治める者それが砂漠の民であり、砂漠の長デュランダル・ネビュラスこそがかの国の真の王なのだ」


「砂漠は昼は灼熱の地であり、夜は凍える大地となる。とうてい人の住めぬ場所だが、砂漠の民たちにとっては自分の庭にすぎない」


 砂漠の過酷さは、私自身が身を持って体験している。

 あんな場所を庭のように気軽に遊歩することができるなんて……。


 熱砂にいぶられた空気は呼吸することですら霊力が削られたし、極寒の夜はノヴァーリスの懐にすっぽりとくるまれていてさえ命の炎を消されそうだった。


 あっ、私よく考えれば、ずっとノヴァーリスの懐でひな鳥みたいに守られて旅をしていたんだ。


 「なんでまた、砂漠の民たちはそんな場所で生きていけるんだ?だいいちそんな場所にわざわざ住む意味がわからねぇ」


 センが質問を投げかけた。


「それこそが、砂漠の民の秘密だ。砂漠の宝玉・砂漠の秘薬・そして砂漠でのみ産出されるミスリルインゴット・砂漠はまさに宝を産む場所ですらある」


「砂漠の民の戦士たちは、強い念能力で自分を鍛えあげている。それがあるから砂漠を自在に歩けるんだ。女たちは外には出ないが文化・芸術方面を担当していて、子供たちの教育も女たちがやっている」


「砂漠の民が発信する音楽・絵画・小説・ファッションなどは、どの国でも大流行しているしな」


 なるほど、私たちにとって貴重ともいえる薬草やミスリル、そして美しい宝玉もあの砂漠から産出されるんだ。


 しかも、私が読んでいた作者も、砂漠の民が多いのか。

 そーいえば女性作家が多いと感じたっけ。


「そうだ、そして砂漠の民には、もうひとつの宝がある。それは砂漠の大迷宮の存在だ」


「砂漠の大迷宮は、普通の人間では入ったらでてはこられない。そしてそこを守る者こそ砂漠の守護者・砂漠の霊獣・青の竜だ」


「竜だって!」

「竜ですって!」

 センと私、二人の声が重なった。


 だって竜ですよ。

 これぞ異世界という感じではないですか?

 あれ、なんかこれヤバイ展開になっているんじゃない?


 私たちに構わず、王は話を進める。


「青の竜の力は、水。水を自在に操る力を持つ。青の竜が守護する砂漠の迷宮には、美しく豊かな清流が流れるとても美しい国があると言われている」


 私たちはその話にすっかり魅了されていた。

 地下王国・迷宮・竜・それこそ冒険譚の始りじゃないか。


「砂漠の長の協力を得たら、なぜ3ヵ国講和だ成立するんですか?」


 不思議だった。

 砂漠の長が味方するだけで、ゴルトレス帝国は世界征服を諦めるかしら?


 3ヵ国講和による、平和の実現。

 それこそが王が模索する民を恒久的に守る方法だったはず。


「ゴルトレス帝国を守護する霊獣は2人。緑のペガサスと紫の鷹。これらの能力が厄介でな。緑は植物を自在に操れる。つまり食べ物だ。命の根源を握られてしまっている」


 確かにせっかく丹精こめて作った野菜や小麦が枯れ果てれば、戦争どころではない。

  

 そこには飢えが口を開けて待っている。

 霊獣がそこまで酷いことをするとは思えないけど、それは希望論だ。


「そして、紫の鷹の能力は聖なる光。ナナと同じ回復系だが、鷹は回復だけではなく、防御の陣を張ることもできる。ナナの上位版というところだな」


 来ました!出来ない子認定。

 久しぶりだなぁ、聖女なんて言われて少しいい気になってたみたい。


 私がしゅんと落ち込んだのがわかったのだろう。


「言い方が悪かった。すまないナナ。紫の鷹には病気を治す力はない。除霊やケガの治療は得意だけどね。つまり紫の鷹はオールマイティの汎用型。ナナの力は癒しを専門とする特化型という違いがある」


「戦争となると守護する霊獣の力が要となる。こちらの味方は、ピンクの兎、金の金糸雀、銀の狐、黒の獅子。諜報と攻撃に長けているが防御に弱い。しかも緑のペガサスに対抗する力がなかった」


「しかし、砂漠の長の協力が得られれば、青の竜が味方につく。緑のペガサスの力も水を得られなければ、その力はそがれる。つまり緑は青と敵対できない」


「そのうえ砂漠の長の協力が得られるなら、ゴルトレスの女帝も3ヵ国同盟にうんと言う筈だ。それ程砂漠の恵は大きいし、もしも迷宮探検がみとめられればどれほどの財宝がえられるかわからないからな」


「そうなると、ナナとの婚姻を認めるしかなくなるが」

 さらっとレイが凄いことを言ってますよ。


「ふむ、どちらにしても番なら逃げられん。奴らも逃がす気はないだろう。一度、目の前で逃がしているからな。そんなミスは二度どせんだろうしな」


「条件闘争ということになるな。幸いナナは12歳だ。婚約のみ認めて16歳までは手元におく。この線でどうかな」


「そうだな、あとはどれだけ高くナナを売りつけるかだが、番ならば大抵のことは譲歩するだろう」


 どうしましょう。

 保護者たちは、二人の揃って私を砂漠の民に売りつける気満々です。


「ちょ、ちょうまてよ!なんでナナが婚約することになってるんだ。正気かよ!目的の為ならナナを犠牲にしてもいいってのかよ」


 センが抗議すると、レイが


「センも竜の番の話は知っているでしょう。竜は番しか愛することができませんし、番を溺愛します。番とは運命の相手なのです。その証拠にナナも無意識とはいえ、認めていますよ」


 センは私の顔をみると納得した顔をした。


 そんないかにもなるほどって顔をしないでよ。


「良かったなナナ。初めて彼氏が出来たじゃないか。そーだよな、お前みたいな干物女、番でもいなけりゃ嫁の貰い手なかったな。おめでとうナナ」


 センまでそんな不憫な子がやっと結婚できるような生ぬるい目で見ないでください。


 保護者たちをみると、ふたりともやはり生ぬるい目でみてくる。


 もう嫌だ!


 すっかり私をそっちのけで、話がまとまってしまった。


「それにナナ、青竜の婚約者ともなればオルタナ教団も抑えられます。皇国との約束も果たせますよ」


「ふむ、オルタナが欲しいものは、女神ネィセンリーフ神殿と同等の扱いだろう、主要地での神殿建設を許すことで、取り込めるか?」


「現世利益の考え方が強い連中だ。権力を欲してくるだろうが、そこはネィセンリーフとオルタナとで適度に対抗してもらえば、それ程の影響は出ないだろう」


「オルタナ教団の連中は、素直だからな。上さえ取り込めばいい手ごまになる。権力位、適当にくれてやるさ」


「それでいくか、そうなるとなるべく早く、砂漠の長と皇国、王国との三者会談を持ちたいものだが……」


 真夜中だというのに、腹黒二人組は、熱心に戦略を練っている。


 でも私が気にかけていたオルタナ教団も、ウィンディア王国、プレスペル皇国の保護が得られればもう無茶な戦いに信徒を追いやることもなくなるでしょう。

 

 私はさすがにお父さまだなぁと思いながら、瞼が落ちてきます。


 レイがすぐにそれに気づいて、センに私を寝室に連れていって自分も、もう休めと言っていたのを夢うつつで聞いていた。


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