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アンクレットとレイとセン

 私はセーラ皇女と違い自分には高貴な血など流れているわけでもないのですから、皇族と一緒に国民の前に出るなんてあまりにも不遜じゃないかと考えていました。


 ところがセーラと一緒に参加してみると、バルコニーの内側にいる人も外側から手を振る人々も、同じように楽しんでいるのを見て自分参加できた良かったなぁと思ったんです。


 それにセーラ皇女とお揃いの衣装を着るのも、いかにも親友みたいでとても楽しかったんですよ。

 私がニコニコとイベントを満喫していると、セーラがこの後はずっと一緒にいようね、とっそりささやいてきました。


 そっかぁ、明日はセーラともサクラともお別れなんだなぁ。

 そんなちょっぴりセンチな気持ちでセーラの部屋にいくと、あっと言う間に侍女の皆様につかまって着替えさせられてしまいました。


 う~ん、まさかこう来るとはおもわなかった。

 「なんかこれって、ちょとセクシーというか、いろいろ問題ありすぎない?セーラ」

 と、おずおずと聞いてみました。


 なにしろ私とセーラが着ているのは、ピンクのタンクトップとお尻をかろうじて覆う短いパンツ、頭にはヘッドドレスをつけているんですがそこにはしっかりうさ耳が生えているし、パンツにもウサギの尻尾が付けてあるという徹底ぶりです。


「やっぱり似合うわ、レティ可愛い。黄金のサラサラの髪に神秘的な青紫の瞳、美少女を独り占めできるなんて嬉しいわ」


「いや、いや、このコスチュームが破壊的に似合っているのは、セーラだと思うよ。ピンクのふわふわの髪とバイオレットの瞳、セーラっていいよね、胸おっきいし」


「お二人とも、とても可愛らしいですわ」って侍女さんたちが声を揃えます。


「レティ、実はあの時アンクレット購入してしまってたの。レティが怖い思いをしたときに買ったものだから、嫌な気分になるようなら捨てちゃってもいいんだけど……」


 セーラがおそるおそる差し出したアンクレットは、ピンクゴールドの細いチェーンが2重になっていて、そのチェーンには星と三日月のチャームがあしらわれている繊細なものでした。


 ピンクはセーラの髪色だし、ゴールドは私の髪色です。

 月は皇国の、星は王国のシンボルでもあります。

 2人にとっての親友の証をセーラはとっても真剣に選んでくれたんですね。


 私はあの時のセーラの心からの笑顔を思い出しました。

 大丈夫!このアンクレットはセーラとつかの間とはいえ町娘みたいに自由を満喫した思い出になる。


「わぁ、なんて素敵なのセーラ。素晴らしいわ。私たちの親友の証ね」

 

 私が手を打って喜ぶと、セーラはほっとしたように笑顔になりました。


「良かった、じゃぁお互いに付けっこしましょうよ」

 

  アンクレットを巻き付けると裸足の足にアンクレットが煌いて、歩くたびにシャラリと音がします。

 うん、とても気に入った。


 アンクレットを楽しみたくて、この軽装なのね。

 若干、いやかなり趣味が入っているけれど。


「そのアンクレットには、僕の術式が練り込んであるんだ」

 サクラが自慢そうに言います。


「もしもお互いにどうしても助けが必要になったら、そのアンクレットを握りしめて、相手の名前を呼べば、相手を自分のところに呼ぶことができるんだ」


 どうだ!と言わんばかりにサクラが説明しました。


 実際にはお互いそれぞれの国の姫なのですから、簡単に使うことはできないでしょうが、それでもいつでも会える手段があるというのは嬉しいものです。

 

「ありがとう、サクラ!」

 そう言って私はサクラに抱きつきました。


 サクラは

「カナリア、君は僕と絆がある。困ったら僕を呼んでね。いつだって駆けつけてあげる」


 私はこの時、この申し出はお断りしないといけない案件じゃないかと、ちらりと頭をかすめたのですが、感傷的になってしまっていたので、

「うん、ありがとうサクラ」

 と、受け入れてしまったのです。


 この霊獣の問題発言を聞いた瞬間、頭を抱えたのが皇帝陛下とレイでした。


 皇帝陛下は、ちょっと、かなり厳めしい顔のおじさまです。


 それが侍女から、うさぎコスチュームのことを聞いて、娘が大好きな皇帝は、映像を横流しするように、サクラを買収したんですよ。


 モバを目の前に積み上げて!

 もちろんサクラは喜んで買収に応じたから、私たちの映像はただいま絶賛配信中だったのです。


 その映像配信は皇帝陛下の好意によって招かれたレイまでいっしょにみていたんですって!


 ここぞとばかりにまたもや縁談を持ち出す皇帝陛下をのらりくらりと躱し、躱しきれぬとみるやアイオロス王を引き合いにだして脅しつける真似までして、ようやく切り抜けたレイはそのまま真っすぐにセーラ皇女の部屋へとやってきました。

 

 そのままレイはセーラ皇女の部屋から、かっさらうように私を連れだすとセンを呼びつけました。


 センを待つあいだお説教大魔神になったレイから、王族とは?というありがたいお話を痺れる足に耐えながら聞いているときに私は映像流失の事実を教えてもらいました。


「セン、お前の仕事はこの爆弾娘の監視だと言ったばかりだと思うが、どこで何をしていた!」


 センからするといきなり呼び出されてみれば、ナナは正座のまま相当絞られた様子で、すっかり涙目になっていますしレイは怒りくるっている。


 いったいまたぞろレイを怒らすなんて、ナナは何をやらかしたんだ?と戸惑ってしまうばかりでしょう。


「ダンと明日以降の警備の打ち合わせをしていました」

 とセンはいうが実際には剣術がしたいセンが、無理やりダンに相手をさせていたところでした。


 「ほう、センは打ち合わせで、そんなに汗をかくのか?いったいどんな打ち合わせをしていたのだ」

 すっかりおかんむりのレイはセンのごまかしに乗ってやる余裕もなさそうです。


「申訳ありません」とセンも土下座を決め込むことにしたようです。


 「それで今回は一体なにをやらかしたんですか?」

 レイからことの顛末を聞いた、センは思わず叫びました。


「ナナ、おまえ本当の馬鹿だろ!。」


 私も負けずに叫びました。

「サクラの馬鹿ぁ~!大嫌いだぁ」



 翌朝レイは近隣国へ和平の使者として、何人かの近衛騎士を連れて出発しなければなりません。

 そこでレイは侍従心得を作成し朝からみっちりとセンにレクチャーすると。後ろ髪をひかれるおもいで出発しました。


 いつだって、ナナは何かしらに巻き込まれる。

 そういう運命なのだろうとレイは確信していたのです。

 自分がいればともかく、まだ高校生だったセンにはかなり難しいお役目だと知ってはいたのです。

 それゆえの侍従心得でした。


 しかしそんなものを渡されたセンは内心面白くありません。

 まるで自分が信頼されていないような気持ちになってしまったのです。


 そこで意地になってしまったセンは、それ以降絶対にナナをひとりにはしないと決めました。

 自分が訓練したい時には、ナナにも傍で訓練させればよいのです。


 そんなセンの目論見をしらない私はまさかこのあとセンとの特訓が待っているとも知らず、レイと言うお目付け役がいなくなったことで、自由を満喫していたのでした。


「ねぇ、センちょっとだけ読んでみない?すっごくよくできているのよ。この檄文」


「口を動かす余裕があるなら、霊力に集中しろ。お前の霊力は不安定なんだからな。しっかり自分の身体の周りで固定しろ。それができたらいきなりぶっ倒れずにすむはずだ!」


「うぇ~ん。ここに鬼がいますよぅ~」


 私たち聖女一行は最初の目的地アステル神殿を目指していたのですが、思わぬ事態が発生したために、足止めをくっています。


 そこで退屈したセンが自分の訓練にナナを巻き込んでいるのでした。


 その出来事というのが、最近台頭してきたオルタナ教団です。

 オルタナ教団は女神ネィセンリーフではなく、その女神を生み出したという原初神オルタナを主神としています。


 そのオルタナ教団は、カナリアの守護を持つとされるレティシア王女の癒しの力は金糸雀ではなくオルタナ神の守護によるものだとして、聖女奪還をかかげているのです。


 しかもオルタナの信徒はこのような教義に基ずく武力闘争を聖戦と位置付けていて、聖戦で死ねば天国に行けると煽るので信徒たちは退却することなく死ぬまで戦う死兵となってしまう。


 いかなる戦術家も死兵との戦いには苦労するだろうし、戦略家なら死兵とは戦わない方法を模索するでしょうね。

 

 死ぬのを恐れないどころか、喜んで死ぬような連中なんて厄介以外のなにものでもありません。


 そんな訳ですから移動中の襲撃を恐れてアステル神殿を目前にしながら、待機を余儀なくされているところなんです。


 ナナが檄文と言ったのは、そんなオルタナ教が、毎日のように投げ込んでくる宣伝文のことです。



  オルタナの守護姫は、ウィンディア王国にかどわかされた。


  ウィンディア王国は幼い少女を騙し、世界征服を目指している。


  癒しの姫君は、監禁されて、おびえて暮らしている


  心あらば、いとけない姫君をお救いするのに手を貸せ


 

 なんだかこれでは私はまるで薄幸の姫君のようではありませんか?

 あまりにも自分とのギャップが激しいので、私としては逆に面白がっていたのですが……。


 守護隊からすれば面白がるどころではありません。


 こんなことになるとは予想できなかったので、レイが近衛の腕利きを連れていってしまいましたから戦力的にも手薄になっているのです。


 守護隊は襲撃に備えてピリピリしたムードになってしまいました。

 レイが抜けたことでここまで守護隊の空気が変わるとは思いませんでした。


 センにもそれはすぐに伝わってしまいます。

 同じ霊獣なのに兵士に与える安心感がまるで違うのですから、センとしてもイライラしてひたすら霊力の特訓を繰り返しています。


 レイはこっちに来た時には既にお年寄りでしたし、たぶん相当人に命令し慣れています。

 修羅場なんて何度もくぐってきたと、その佇まいが教えてくれています。


 センはまだ高校生なのですから、レイと比べて焦ったってしょうがないんです。


 私はセンにそれを伝えたくてわざとふざけてみたりしてセンの緊張をほぐそうとするのですが、全然うまく行きません。


 なんだか泣きたい気分のままそれでも笑顔を保とうとしていた私はきっと、来るべき事態を予感していたのかもしれません。


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