いじめに遭っていた僕の思考は、限りなく戦場での冷静な判断をするために有効に働いた、驚くべきことに!
「ヒロオ、ユウリ。前方に門が見えるだろう」
「はい」
「あれは敵の布陣の一番左側だ。ガットリング砲が配備されておる。儂の任務は最左舷の守備を破り、敵陣への突破口を開くことなのだ。そのためには銃の射程範囲まで近づいて攻撃体制を取らねばならん。2人が今のままの状態で後退しようとしても途中でガットリング砲の餌食だ。かといってここにこうして伏せていても、敵の白兵が2人を斬り殺しに来るであろう」
辛いけれども僕は事実として大徹さんの話を聞く。
「2人が生き残る最も確率の高い方法は敵への射程範囲まで儂について来て、狙撃か接近戦かでガットリング砲の射撃を無効化した後に後退することだと考える。如何か」
「はい」
「はい、とは肯定か? 本当にそう決断するのか!?」
大徹さんの厳しい確認に、僕が代表して答える。
「はい。僕もそれが一番確率の高い方法だと思います。決断します」
「よし。合図まで待て。また走るぞ。呼吸を整えておけ」
「はい」
精神が、苦しい。死ぬかも、っていう意味も正直よくわからない。うまく表現しづらいけれども、小学校でいじめに遭っていた時、朝家の玄関を出るあの瞬間にも似ている。ただ、不思議なことにその時の記憶を冷静に辿ることによって今のこの戦場の状況そのものが高校入試の小論文を書いた時のような思考の整理で導き出された。つい、口に出した。
「おかしい。ガットリング砲の射撃間隔に根拠がない」
「え?」
泣きそうな表情でいたユウリが僕の顔を覗くように見る。僕は続ける。
「いくら距離があるといってもガットリング砲に被弾して倒れる人影は敵陣からも目視で確認できるはずだ。なのに、倒れた後も同じ地点に向けての射撃を10秒近く続けている。弾幕を張る、という目的ならそれも分るけれども、左舷に一基しかないんだから直線的な射撃しかできず、まったく無意味だ」
「ヒロオも気づいたか。どう見る?」
「多分、照準を定めずに威嚇射撃しているんだと思います。言いづらいことですが倒れた人たちは威嚇射撃に偶然被弾してしまった、ということだと思います」
「やはりな。意見が一致した。これで儂は判断がついた。直線的に最短距離を駆けるぞ。じゃが、許せん」
「え?」
「威嚇射撃など実戦では何の意味もない。鍛錬を積んだ実戦に生きる武士ならばすべてのことに於いて意味ある行動を取る。おそらくガットリング砲を放っているのは実戦兵ではない。無闇やたらでも自らが派手に撃っておけば士気が上がると勘違いしている幹部ではないかと推測する」
「・・・」
「他人同士が何かの縁でここに遭遇し、命のやり取りをしておるのだ。もし、武器の性能に任せて己を鍛えもしない者が撃っているのだとしたら、儂は全力でそのふざけた振る舞いを止めねばならん」
多分、僕もユウリもこう思っただろう。
この先代大徹という武士には遥かに及ばないにしても、春日ヒロオと丹羽ユウリは、自己を律し、鍛えてきてよかったと。
ぐっと、我慢した。
待つ間、僕もユウリも心と体に力をためた。
そして、大徹さんが、言った。
「参るぞ!」




