幼なじみ同士が屋外で着替えた後、まさかこんな過酷な道を2人して走ることになろうとは
「あっち向いてて」
と言われてほんの10秒ほどで、
「いいよ」
と言われ、向き直るとユウリはもうTシャツとジャージに着替えていた。
僕の方は何も言わずにいきなり制服のワイシャツを脱いで上半身裸となり、ささっとTシャツを着、ズボンもユウリの目の前で脱いでランパンに履き替えた。
「わ! セクハラ小僧だ!」
「ユウリ。別にいいじゃん。幼なじみなんだから」
「だからヒロオは無神経だってのよ! なんでも幼なじみだからって通るんなら、キスするのもありってことになるじゃない!」
「それはちょっと飛躍しすぎだろう」
「ま、わたしはキスもありだと思うけどね。なんせ幼なじみなんだから」
「え?」
それこそ話が飛躍する前にユウリは、ぽいっ、と脱いだ制服を自転車のカゴに放り込んで、たっ、と走り始めた。僕も慌てて走り出し、2人して散策コースの上り坂を駆け上がる。
僕の自主練を兼ねた儀式だから下で待ってて欲しいと言ったのだけれどせっかくだから、とユウリは一緒に走ってくれたのだ。
僕の自意識過剰かもしれないけれども、帰宅部のユウリがいつも本格的なランニングシューズで通学してるのは、いつ何時でも中距離走者である僕の行動パターンに付き合えるように、ってことじゃなかろうか。
「ヒロオ。これ、本当に散策コース?」
「うーん。『願掛けロード』って通称だからもっと緩やかなものをイメージしてたんだけどな」
走り始めて1分ほどで道の景色が一変した。シューズに伝わる感触も変わる。
もはや人道というよりは獣道としか呼べないような狭さと木の葉が柔なクッションとなって足元が地面に沈み込むような状態で走り続けなくてはならなくなった。周囲はいつの間にか真っ直ぐに伸びた杉が無数に立ち並ぶ、きん、とした空気に包まれている。
一応、僕の心算としては、『ガトリングコミッティー・ストライクス・アゲイン』を書いた女子大生の先祖と思われる武士の魂にあやかって、この場所を走ることを計画したのだ。戊辰戦争とは時代も場所も異なるけれども、源平の古戦場近くにあるこの護国八幡神社の参道を走れば、古の武士の感覚に毛ほどでも近づけるのではないかという、まあ、高校生ではあるけれども中二病を発動した僕のイベントなのだ。けれども予想をはるかに超える道の過酷さに、なんだかわからないけれども、日常をすべて手放すことになるのではないかという漠然とした恐怖を感じた。
「本当に神社にたどり着けるのか?」
僕が恐怖を紛らそうとぼそっとつぶやくと、ユウリが言った。
「ほら。やっぱり異世界じゃん」