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未来進行形  作者: 晴
2/2

ー君。

前書きに何を書いていいのかわかりません。とにかく、つまらないはなしをしますがおつきあいくださると光栄です。

''もしも''の数だけ世界がある。

俺にはそれが見える。


いつも思っていた。なんのために生きているんだろう、と。

自分の未来を考えても、最後が見えるから冒険もできない。

才能があれば別の話なのだろうが、俺には才能ってものがない。

''もしも''が見えるのが才能。そんな才能いらなかった。

いいことがない。そうわかっていて努力する人間はどれくらいいるだろうか。

''今数学で必死になってもこの先どうもなりませんよ''そう知って努力できる人が。

少なくとも俺はできない。数学オリンピックで一位になった俺のもしもは幸せにならない。日本で1番というプレッシャーにのまれて自殺する。死なない''もしも''もそれはそれで地獄だ。数学ができるだけで仕事できる人と思われて失望される。''数学オリンピック一位''の入れ墨を額に入れられて勝手にハードルをあげられた場所に吊るされて。

全部知ってるんだ。この先どんな人生を送るのか、どんな人と出会うのか、どんな仕事につくのか、いつ死ぬのか。頑張れよって言われたってどう頑張ればいいんだよ。カンニングできるテストでどう頑張るんだ。答えを見るだけだろ。俺にとって生きる意味なんてそんなもので、自分が見た中で1番いい''もしも''を、作られたテンプレートをなぞっていく。単純作業。時間の無駄。


ああ、なんのために生きるんだろう。



駅を降りて、すぐ近くにある公園の人気のないベンチに腰を下ろした。足元で踊っている枯葉を見て、冬になったことに気づいた。見た人の''もしも''がいっぺんに頭に入るので季節にまで頭が回らない。PCのお絵かきソフトのパレットのように、表示したりしまったりしたいと何度思ったことか。16年生きてきて慣れてきたが、最初は大変だった。自分にしかみえないなんてこと知らなくて、いろんな''もしも''を話して嫌われたり、君悪がられたりしてきた。自分が特異体質だと知ったのは12歳のときテレビで並行世界の特集をみたときだった。''もしも''を想像して胸を膨らませ目を輝かせる司会者とゲストを見て、子供ながらに殺意が湧いたのをよく覚えている。''もしも''の中で、その人たちを殺した。こんな能力がなかったら、小学校はもっと楽しかっただろう。テストの点で友達と競ったり、告白して付き合ったり、フラれたり。能力がない妄想を能力でしている自分を殺したくなった。


人通りが少ないこの場所は、自分一人、思い耽るのにちょうどよかった。

誰もこないから、自分だけが知るその人の未来を心配する必要もない。

このままここにいれば、能力なんてなくなるんじゃないか。

なんて期待もした。


いつの間にか寝ていたらしく、太陽は沈みかけていた。

足元が暖かいと思ったらひざ掛けがかかっていた。

緑地に赤と黄色のチェックのそれをブランケットと呼ぶべきなのか迷ったが

誰がかけてくれたのか見当もつかない。

ふと道に目をやると、少女?いや、女性がいた。

年齢は自分と同じくらいで、でもどこか大人びていて、後ろ姿を見た瞬間、いつか会ったことがあると感じた。髪は肩にかかる程度て白い服を着ている。今の季節には合わないその服が彼女の違和感を生んでいた。声をかけようか。無視をしようか。わからない。

カンニングができない。なんで、何もみえないんだ。

なんで、何もできないんだ。

彼女からは何もみえなかった。彼女に''もしも''がない。いつもは鬱陶しくてたまらないもしもに自分が知らず知らずのうちに依存していたことを知って、誰にぶつけるでもない怒りがこみあげてきた。能力がない自分はこんなもんか?何もできないのか?本当にそんなんでいいのか?自問自答しても、答えは返ってこないから、かじかんで麻痺した指先と乾燥して乾いた唇をほぐすことひ集中した。一向に暖かくならない指先と、自分の舌によって湿った口に無償に腹が立った。

道に目を戻すと、彼女の姿は沈みゆく太陽とともに暗闇へ消えていった。

何もできずに口を開けて呆然と座る自分を想像して情けなくなった。

今まで、能力がない自分は想像していなかったため、自分の存在を肯定するのに、時間がかかった。膝にかかったブランケットと、麻痺した指先と、湿った唇が、自分の存在意義を教えてくれるような気がした。



読んでくださり、ありがとうございました。

今後も応援して下さると応援します。

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