ープロローグ
もしもの数だけ世界がある。
「…だから付き合ってくれるかな?」
目の前にいる小太りな女にも、無限の''もしも''がある。
ー痩せていたら ー二重だったら ー髪が長かったら ー生まれていなかったら ー俺とであってなかったら
「どうかな…?」
「痩せたらいいのに…」
あ。
「どういうこと?」
ー君のもしもが見えるから。
なんて、誰が信じるだろう。
もしもの数だけ世界がある。
僕にはそれが見える。昔からだ。
「痩せた方がかわいいよ」
この女を見た瞬間に、付き合う未来と付き合わない未来とその他の可能性、全てが見える。
だから、失敗はしないし、痩せたこの女にフラれるなんて最悪な現実を見る羽目にならない。
テストだって答えがわかる。人間関係だってうまくいく。
みんなからの信頼も厚いし、自分に自信がある。
「そ、そうかな」
俺の人生に必要なコマはわかるし、必要のないものは捨ててきた。
「ごめんね、僕、今恋愛に興味はないんだ。でも、君は大切な友達だし、その気持ちは嬉しいよ」
この言葉で、逆ギレされる未来は無くなった。
「うん、そっか、わかった。ありがと。彩君」
ほら。
こうやって、カンニングしてうまく生きてきた。
誰にも理解されなくてもいい。楽をできるのなら。でも
自分に期待ができない。