9.昂一の部屋、祭りの方針。
俺は家に帰ると真っ先に、散らかっているものを見えないところに隠し、見た目だけでも整理整頓されているように取り繕った。
男子とて、だらしないところを見られるのは恥ずかしいものだ。
片付け終わると部屋を一望した。ワンルームの学生が借りるような部屋。
中心に正方形の背の低い机がおいてあって、端には本棚(入っているのはもっぱら教材と漫画)と勉強机があるだけの状態。クローゼットの中は、大変なことになっているが。
片付け終わってから少しすると、来るのに一番時間がかかると思われた、小雨がやってきた。
俺が電話をかけた時点では、寝巻きだったと推測されるが、しっかりと外出用の服に着替えている。
息が切れているので、かなり急いでくれたようだ。なんか悪いな。
「こ、こんばんは。昂一先輩」
「おう、上がってくれ」
小雨を部屋に誘導する。
「昂一先輩の部屋に入るのは、はじめてですね。き、緊張します」
小雨は俺の部屋に入ると、部屋に端にちょこんと正座して、周りをキョロキョロと見渡した。
「別に面白いものなんかないぞ」
「い、いえ、そういう意味ではなくてですね」
小雨って、男子への耐性低そうだしな。席に座るときとかは、基本蓮の横とるし。そういう意味でもムリをさせているのかもしれない。
「まあなんだ、楽にしてくれ。つっても、いきなりはムリか」
机を挟んで向かいの位置に、俺も座る。
「今日はいきなり呼び出して悪かったな」
「い、いえ! そのことは全然これっぽっちも大丈夫です!」
小雨が大げさに手を振る。日本語も意味不明だが、触れないでおいてやろう。
「…………」
さてと。
会話ねぇな。
そういや、小雨と二人になるときって、蓮と瑞樹がいなかった場合の登下校とか、画材屋で買い物してる時とか、絵を見る時くらいなんだよな。
何を話すか。
なんて思っても、会話もなく若干気まずい雰囲気に入り、お互いソワソワしながら、テレビのチャンネルを変えてみたりしていると、蓮がやってきた。
蓮は、学校と変わらない姿。
つまり、学校指定のYシャツに制服のズボンという服装でやってきた。
学校から帰って、ずっとそのまんまの格好……かと思われたが、Yシャツにシワはほとんどなく、きれいな状態。こちらも、私服か何かに着替えてから、さらに着替えなおしたのだろう。
蓮の制服以外の姿見たこと無い。
「やー、昂一ー。ちょっと遅れてゴメンね?」
「いや、わざわざ来てくれてサンキュ」
何であれ、この気まずい空気をぶち壊してくれるであろう、蓮の降臨はこの上ない幸せだ。
「まあ、上がってくれ」
「うん、おじゃましまー……」
「ん? どうした?」
蓮が、玄関に並んだ靴を見て、にやりと笑った。小雨が部屋にいることを察したのだろう。
「あー、ちょっと用事思い出した気がする」
「わ、わけわかんないこと言うな」
蓮がいなくなると、またもや小雨と気まずいタイムに突入するんだよ!
「なーんてね」
そういうと、蓮は俺の腕を掴み、唇を耳元まで持ってきて囁いた。
「小雨ちゃんのお世話しっかりしないとダメじゃーん。せっかくの可愛い後輩なんだからさー」
「うっせ」
小雨に聞こえない音量で言い返す。
おそらく、小雨の靴と俺の反応で、会話のない現状を把握されたのだろう。こいつには敵わねぇな。
さらに、大幅に遅れて瑞樹がやってきた。服装は柄物のジャージ。まんま寝巻きだ。
俺は気にしないし、小雨や蓮もツッコまないだろうが、よくその格好で外出できるな。
最近の若いやつは全く……。
「ん、オレが最後か」
座るスペースを見つけ、腰を落としながら、瑞樹が言った。
「集合する時に、お前が最後以外だった時があるかよ」
「そういえば、ないな」
まあ、別に怒っているわけではないが。
遅刻できない時は、ちゃんと定刻通りに来るしな。
「昂一の家に集合するのは、はじめてだねぇ。男子の部屋って緊張するなぁ」
蓮が、あきらかに緊張していない口調で言った。蓮は本心か冗談かがわかりづらくて困る。
「……そうか、蓮ははじめてか、オレは何度か来たことが、あるが」
「ほとんど漫画を読みにだけどな」
瑞樹は時々アポ無しでやってきて、漫画を読んで帰っていくときがある。
別に来るの良いが、事前連絡くらいは入れてほしい。
「そうそうわたしは来るの初めて。関係ないけど、私たちの親世代って、息子や娘が異性の家に泊まりに行くのに、異常に反応する人多いるよね」
「ああ、いるな。あれは、ちょっと大げさだよな」
「まあ、オレも昂一も、草食系だ。間違いは、起こらないだろう」
「俺も草食系って決め付けんな! 俺はノーマルだノーマル」
肉食系か草食系かの二択なら、草食系だけどな!
「いやー、男子が草食系でも、女子は肉食系かも知れないよー?」
蓮がにやりと笑う。
「ちゃ、茶化すな」
「本当に茶化しているだけかなぁ。ねぇ? さっきから正座して黙りっぱなしの小雨ちゃん?」
「え? あ、はいっ。なんですか!?」
「あー、ダメだこりゃ」
やれやれと言わんばかりに、蓮が両手を挙げた。
「さてと、口も回るようになってきたし、本題に入ろうよ」
「……そうだな」
改まって座りなおす。
「前からちょくちょく話に出してる見谷川祭りってあるだろ? あれ、今年で終わるらしいんだが、どうにか今年で終わらないようにしたい」
「なるほど、で?」
蓮が、にやりと笑う。全部言わすかよ。まあ、それぐらいはやってやる。
「それで、だ。俺一人の力じゃ限界がある。それも、程度の低い限界だ。だから、蓮、瑞樹、小雨。力を貸してほしい!」
最後まで言いきった。
これを言うのが、どこか恥ずかしく、それに言えばみんなを巻き込むことにもなる。
事が大きくなる分後戻りも出来なくなるし、失敗したときの辛さも増える。
だから、今まで言うのをためらっていた。でも、言ったんだ。
「うんっ、その言葉が聞きたかった。みんなも良いよね?」
蓮がみんなに振る。
「ああ、断る理由は、ないな」
「微力ながら、お手伝いさせていただきます!」
ふたりも、乗り気だ。言ってしまえば、簡単なことだった。本当に、どこまでも。
「それにしても、腕なる腕なる。廃れた祭りの企画なんて、上手く商店街に取り入ればやりたい放題だろうしねぇ」
蓮が指をパキパキ鳴らすような動きをした。鳴ってはいないが。
「ではとりあえず、役割分担を決めますか? 予想通りな感じにはなりそうですけど」
「いやいや、ここ4人で役割なんて決めても意味ないよ。主役は商店街だからねぇ。さしずめ私たちは着火剤ってとこかな?」
あくまで燃えるのは商店街。わかりやすいたとえだ。
「さてと、見谷川祭りの根本的な失敗はなんでしょう?」
蓮が人差し指を立ててそういった。
「根本的な失敗?」
「まあ、ここ議論しても意味ないだろうし、先に答えを言うと。あれ、祭りっぽい装飾をして、祭りっぽいもの売ってるだけだから、人を寄せることを出来ても留める力がないんだよねぇ。つまりは、印象に残らないし、商店街を見てもらえない。PRにもあまりならない」
「うぅ、散々な言われようです……」
この中で唯一の商店街サイドである、小雨は胸がいたそうだ。
「じゃあ、留めるにはどうする?」
蓮からのお題。
「前言ってた『100円商店街』ってのは? あれは長く留められるんだろ?」
「そういえば、そう言っていたな。だが、すでに廃れている商店街で『100円商店街』をしたところで、効果はあるのか……?」
「あれは完全な思いつきだからねぇ。落ち気味の商店街でやるにはリスクが大きいし、今回は見送りかな? それよりは、完全な地域密着型の企画が良いと思う、商店街の性質的にもさ」
「地域密着型、ですか?」
「たとえるなら、商店街版文化祭って感じかな?」
「なるほどな……有志でステージ発表の様なことも、してみるか?」
「いいねぇ。有志が集まるかはちょっと賭けだけど」
「みんなで掛け合えば……何とかなるだろう」
人が集まるかどうか、そして留める力、か。
「抽選会とかはどうだ? 祭り中に商店街で特定の品を買うと抽選券が貰えて、祭りの最後にそれを使って抽選会をやるんだ」
そうすれば、抽選券を持った人は、最後まで祭りにいてくれる。
「なるほど、それはいいかもしれないねぇ。景品は少し型落ちの電化製品とか、お買い物券とかかな?」
「他にも、子供向けにお菓子の詰め合わせとかも良いかもしれませんね」
そのくらいの景品なら、低予算でも揃えることができるだろう。
「ちょっとまってね、メモとるから。明日土曜日だし、明日を使ってまとめるとして、小雨ちゃん、商店街への掛け合いはよろしくね?」
「はいっ、できれば商店街の会合で、最低でも商店街の会長さんに掛け合えるようにします! いつ頃が都合がいいですか?」
「そうだねぇ。明後日以降で出来るだけ早いほうが良いかな? 商店街側にムリさせない程度で。ウチの学校は生徒主体の企画が好きだから、それが理由で休んでも文句言われないだろうし」
「わかりました!」
と、このあと相談はしばらく続き、いつの間にか、雑談へと変わり、間もなくお開きとなった。
本当に、相談してよかった。そう思える1日だった。




