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5.帰り道、蓮の提案。

 翌日。現在五時限目。


 昼食を食べ、もっとも眠くなる時間帯。


 本日は都会の方から有名なデザイナーを講師としてよんで、二時限かけてたっぷりとお話を聞くそうだ。しかも、広い講義室を使い1~3年のデザイン科生徒全員が一斉に講義を受けるという仕様。


 俺は2年で名列順に並ぶとなると最後尾になる。デザイン科は各学年1クラスしかないので、真ん中の一番後ろ、後から見張ってる教師の次に全体が見える位置だ。


「…………」


 案の定だなぁ。


 この講師、話し自体はしっかり聞けば身になる内容だし、俺は前からこの人を知っていたので興味があるが、こういった話には大抵その人のサクセスストーリーが入っていて、興味がない人にとってはただひたすら眠気との戦いになる。


 1年の席に目をやると、小雨の首が度々獅子脅しのように落ちて、遠くから見ても睡魔と格闘しているのがわかる。


 俺の2列前にいる瑞樹は、一見聞いているように見えるが、あれはたぶん座ったまま寝てるな、いつもより少しだけ姿勢が悪い。

 しかも、長い髪で目元と無線のイヤフォンを隠して、寝ながらも音楽を聴くという徹底ぶりだ。


 小雨はともかく、瑞樹。お前はこの講義が終わった後の感想文どうするつもりなんだよ。


 で、蓮は、二人と比べると、いや比べるのも悪いと思えるくらい真面目に聞いている。


 俺も、それなりに真面目に聞いているし、事前に知らされてる感想文のテーマにあわせて簡単なメモを取っているわけだが、蓮の真面目さはそれをもはるかに上回る。


 眠たそうな素振りを見せないのは前提条件、メモを取るのは当たり前。そのメモも、赤とか目立つ色をつけて、大切な部分には注釈をしっかり入れていっている。

 手ではメモを取りながらも、目はジッと講師を見続け、講師の言葉の僅かなニュアンスを捉えては、声を出さず相槌を打ち。講師が面白くもないボケをかますと、悪目立ちしない程度に笑ってみせる。


 これが舞台なら、サクラなのではないかと疑うほど見事な聞きっぷりで、ぶっちゃけ講師の話しの内容よりもそっちが気になってしかたがない。


 蓮がここまで真面目に聞く理由だが、別に蓮は随一の真面目な優等生と言うわけでも、この講師のファンってわけでもない。

 蓮は、もっと別の強かな目的を持って、あのような見事な聞きっぷりを披露しているわけだ。


 やがて、長い講義が終わり、皆が伸びをしたりして、ぼーっとした頭を覚ましたりしているなか、真っ先に蓮は席を立ち講師の元に向かった。

 ここからじゃ、遠いし話し声が聞こえるわけじゃないが、あらかた予想は付く。


 「講義の内容に感動しました」とか「前からファンでした」から入って、『講義の内容にあわせたデザイン論』について質問して、軽く趣味などプライベートの話をした後……。


「…………」


 蓮がちいさなメモを渡したのが見えた。どうせ連絡先だろう。


 そう、これが蓮の目的。


 赤色とか目立つ色でメモ取ってたのも、見事な相づちを打ち続けたのも、全て『真面目に聞いている』と言うよりは『真面目に聞いているアピール』で、連絡先を交換してもらいやすくするためだ。

 アドレス交換を、電子的に済ませないのは、相手への配慮、転じてアドレス交換の成功率を上げるための作戦だ。


 ちなみに関係ないが、蓮の女なのに男の格好ってのも、この連絡先交換作戦に一役買ってると思う。

 かなり目立つ。それに蓮は容姿が良いし、大した悪印象も与えない。


 そんなこんなで、蓮は有名なデザイナーや、各界の著名人など、この学校に来たほとんどの人と連絡先を交換している。

 もちろん、ただ連絡先を交換しているだけでなく、そのほぼ全員とメル友状態ってのがまたすごい。

 これも全て、蓮の将来の夢のためというか、野望のために必要なことらしいが「よくやるわ」の一言に尽きる。


 連絡先の交換に成功し、上機嫌の蓮がこっちに帰ってきた。


「連絡先は、交換できたか?」


 瑞樹が虚ろな目を、眠気のためかさらに虚ろにして言った。


「もう、ばっちり」


 蓮が人差し指と親指で輪を作る。


「本当にすごすぎですよ、蓮先輩」

「ありがとー。なんなら、小雨ちゃんにも気になるあんちくしょうをオトすテクニックをレクチャーしてあげよっか?」


 蓮が意地悪な目で小雨に言った。


「えっ、そのっ、この場でそうゆう話は……っ」


 そして、小雨はわかりやすく慌てる。誰か気になる奴がいるんだな。


「まあ、そんだけ社交性がありゃ将来は困らねぇだろうな」

「いやいや、先のことなんてわからないよ? 3日後には社交性なんてなんの意味も持たないスキルになってるかもしれないしねぇ」

「アルマゲドンでも、起こるってか?」

「ありえない話しじゃないね」


 蓮がクスクスと笑う。神様もいるくらいだしな、ありえない話ではない。


「あ、感想文書くからちょっと待ってね。昴一ペン借りるよ」

「おう」


 蓮がさっきまで俺の席だった席に座り、俺の筆記用具を拝借して、感想文を書き始める。

 ウチの学校で、こういった講義があった場合、その場で感想文を提出し帰りのHRは行わずに解散という流れになる。


 蓮は15分以上の時間を使い、感想文をびっちり書き切る。


「んじゃ、提出してくる」

「頼んだ」「ん」「お願いします」


 ちなみに、こうゆう時は大抵、俺が集めて提出しに行く。

 席を立ってから提出する場所にいくまでの短い時間でも、他のやつの内容を読んでみたいってのがあるからな。もちろん了承済みだ。


 まあ、いつも代わり映えがない感じだが。


 俺は字の大きさも、内容も超平均的で見劣りしないが見栄えしない感じ。俺の平凡さを突きつけられてるようで、今すぐ破りたくなる。

 小雨は、夢と現の狭間でなんとか聞き取れた部分をふんだんに使って、後は曖昧な表現でスペースを埋めている。

 瑞樹は、たった1~2行、それこそ小学生の作文並みの内容。

 で、蓮は国語の教科書に載るんじゃないかってくらい、見事な文章。


 実際のところ感想文なんて大した評価点にならないし、俺と小雨はともかく、瑞樹と蓮が大体同じ評価になるってのは、ちょっと納得いかねぇよな。


「さてと、帰るか」


 提出を終えてみんなの下へ戻った。


「はい、では校門で待ってますね」


 いったん小雨とは別れて、自分のクラスへ戻り、帰り支度を済ませて、校門前へ。

 みんなで集合してから、いつもの道を歩き出す。




 前にも言ったが、俺達4人は全員同じデザイン科に通っているにもかかわらず、この中でデザイナーを目指しているのは俺だけだ。それぞれ違うものを目指していて、別々の特技を持っている。


 たとえば、蓮の将来の夢はイベントプランナー。


 職業名としてはあまり聞きなれないかもしれないが、その内容は文字通り、イベントの企画だ。

 高校卒業してすぐに就職したいらしく、今日のあれは、それに向けてのパイプ作りってとこだ。この学校を選んだのも、この学校がああいった感じで講師を呼ぶのが好きで、それが目的らしい。


 まあ、他にも、ちょっとしたイベントのポスターやチラシくらいは自分で作れるようになれたりとか、ビジネスマナー&簿記が学べるとか、マーケティングについて身近に触れることができるとか、いろいろと細かい理由があるっぽいが。


 ちなみになぜそんな職業を目指しているかと言うと、複雑なこと考えてるくせに動機は単純。

 イベントを企画するのが好きだから、だそうだ。


 ほら、一クラスに一人二人はいるだろ? 体育祭とか文化祭の実行委員を進んでするやつ。

 それが蓮だ。


「なあ蓮、ここでやる見谷川祭りのことなんだけど……」

「ん?」

「あれって、今年で終わるらしいんだよ。もし来年以降も続けさせるとするなら、蓮ならどうする?」


 本格的に巻き込むのにはためらいがあるが、蓮ならなにかいいアイディアをくれるかもしれないと思い。仮定の話で聞いてみることにした。


「んー?」


 蓮が小首をかしげる。


「それは、パッと思いつきで答えて良い感じ? それとも、マジで考えてほしい感じ?」

「思いつきでかまわねぇ」

「んー、そうだなぁ」


 蓮が空を見て考えるような仕草をする。


「状況はわからないけど、小雨ちゃんが言ってた通り商店街が主催なら、多少赤字でも商店街の繁栄に繋がれば良いわけだよね。いっそうのこと、100円商店街とかと組み合わせてみるとか?」

「100円商店街?」

「商店街の店で売っている100円以上の品物を、100円で売る特売日ですね」


「そ、小雨ちゃん正解。『必ず100円の品物がある』から、商店街独特の『入ったら買わなければいけない感』を払拭して、かつ、商店街内で100円コーナーを連ねるから、かなりの時間お客様に滞在してもらえる。検索したら出てくると思うけど、かなりの割引率で商品出す場合が多いから、商店街への訪問者数も一時だけど爆発的に増えるらしいしね」


「なるほど……」


 祭りと他イベントの組み合わせか。


「ああー、でも本当に思いつきで言ったことだし、あまり本気にしないでね。それにしても、昨日のポスターといいどうしたの? 商店街活性化のお手伝い?」

「なんでもねぇよ」

「ふーん、まあ今はそうゆうことにしておこうかな」


 蓮がニヤニヤと笑いながら言う。

 蓮の勘がいくら鋭いとはいえ、神様にまではたどり着けないだろう。


「あと、思いつきついでにもう一つ」


 蓮が辺りを見回していった。


「この商店街って、小中学生の通りが多いよね」


 確かに、八百屋や鮮魚屋が連なる商店街にしては、小中学生が多い。もちろん、主要な客層は、主婦の方々だろうが。


「この時間帯はそうかも知れませんね。通学路ってわけじゃないんですが、寄り道できる距離ですし、安いコロッケをおやつ代わりに食べたりとか、たまにお使い頼まれてるお子さんとかいらっしゃいますね」

「お祭りを盛り上げるには子供からって事で、その辺上手く利用できれば、いいかもしれないね」


「子供か……」


 子供が来れば自然と親も来る、か?


「あと何より、本気でやるつもりなら、小雨ちゃんを引き込むのは必須条件だと思うなぁ」

「はぁ?」

「私ですか?」


 俺は怪訝に聞き返し、小雨も意外そうな顔をしたが、蓮は表情で「当たり前じゃん」と返答した。


「いやだって、昂一の商店街へのパイプって小雨ちゃんだけじゃん」

「まあ、そうだな……つーか、そんなつもりじゃねぇから、マジで」

「はいはい」


 信じてないな。

 疑われて困ることじゃないが、見谷川祭りを活性化させようとしてるって、バレたら確実に首を突っ込まれる。結果的にタダ働きさせるのも気が引けるから避けたい。


「あ、では私はここで」


 気づけば『立川画材店』にたどり着いていた。


「おう」

「ではオレも、また明日」

「ん、また明日」


 小雨が店の中に入り、瑞樹も裏道から商店街の外にでる。

 で。


「なんで、お前はそこに突っ立ってるんだ?」

「それは、昂一にも言えることじゃん」


 いつもなら、瑞樹と同じ方面に歩いていく蓮が動かない。


「まあ、いいけど。じゃ、また明日」

「んー、また明日」


 蓮を振り切り、いつも俺が歩いていく方へと歩き出す。

 その、斜め後を蓮が歩く。


「……こっちに用事あんのか?」

「いやー? 昂一がこれからどこに行くのかなーって、気になってるだけだけど……?」

「えらくストレートだな。別に家に帰るだけだぞ?」


 もちろん嘘で、今日も神様の元へ行くつもりだ。昨日の漫画の一巻も持って来てるし。


「いやいや、直で帰らないとお見受けいたす。なんか昂一最近変だしさー、相談してみてよー」


 蓮が、脱力した態度を取り出す。美人なのに台無しだ。


「お前、ホント他のヤツがいないとだらけるよな」


「まあ、後輩がいないなら見栄張る必要もないしねー。瑞樹はこうゆうの見たら、引くタイプだしー。てゆうかわたし、そんなに頼りになんなーい?」

「頼りになるならないの話しなら、頼りになりすぎるくらいだっつーの。でも、今回はそうゆう話しじゃねぇの。つーか、お前も面倒ごととか引き受けたくねぇだろ?」


「いやー、昂一は一番仲の良い友達だしさー。悩んでるなら助けたいじゃーん」


 蓮のペースにあわせている振りをして、だらだらと歩いているが、神社に続く階段までたどり着いてしまいそうだ。


 ここはいったん、家に帰って蓮がどっか行ってから出直すか?


「気持ちはありがてぇんだけど……つーか、一番の仲の輪に小雨と瑞樹も入れてやれよ」

「小雨ちゃんは友達と言うよりは、可愛い妹みたいな感じだしー。瑞樹も好きだけど、昂一のほうが話し合うから、やっぱ昂一が一番かなー」

「……そうかよ」


 地味に嬉しい。なんてことは、死んでも言わないし、表情にも出さないが。

 まあ、話やすいというこのに関しちゃ、俺も蓮が一番だな。


「でもまあ、あまりしつこく付きまとっても仕方ないかー。相談する気になったら、いつでも相談してねー」

「……おう。気持ちだけはありがたく受け取っとくよ」


 ちょうど、神社へ続く階段の前で蓮が折れて、自分の家の帰路へと戻った。


「俺、そんなに態度にでてるか……?」


 実のところ、今までにも蓮とあんな感じのやり取りをしたことはあるのだが、あそこまでしつこかったのは、今日が初めてだ。


 別に悪いことしてるわけじゃねぇし、危険なことをしてるわけもない。

 でも、少しだけ胸が痛むな。


「さてと」


 神社へ続く、石で出来た階段を見上げる。


「今日も張り切って登りますか」

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