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29.エピローグ。

 頂の神社には、一昨日何もなかった。 

 それでも、行かないといけない気がした。

 行って確かめないといけない気がした。

 これほど行動する意欲がわいたのは久しぶりだ。


 意欲に身を任せ、コートも着ずに家を飛び出す。


 自宅から頂の神社まで歩いて5分ほど。ペース配分も考えず、全力で走る。

 山の麓に差し掛かり、くたびれた石の階段を一気に上る。


 確かに俺はこの階段を何度も何度も上っている。

 その度、頂が待ち遠しくて、この急な階段の疲労感も苦にはならなかった。


 間違いない! 間違いなく大切な何かを忘れている!

 あそこで俺は何かを、伝えようとしていたんだ! 大切な何かを!

 やがて、階段を上り切り、鳥居をくぐった。


「ハァ……ハァ……」


 膝に手を置き、切れた息を整える。

 冬とはいえ、あれだけの距離を全力で走れば、汗もかく。

 頬に張り付いたハンパな長さの髪がウザかったので、袖でぬぐって整えた。


 山の頂は、麓に比べて風が強く、心地良い。

 夕日を遮るものはなく、その光はピアスに反射した。

 今にも崩れそうなほど困憊した祠は赤く照らされ、対照的に鳥居は歳を帯びて、その威厳を主張する。


「まあ、そうだよな……」


 何も無い、あるわけが無い。


 確かにあるはずの、失った記憶。

 それを落としたのはここだ。確信はある。でも、それでも見つけることが出来ない。


 ここにくると、あたたかな気持ちになる。

 俺がここでどんな時を過ごしていたか思い出せないが、きっとそれは、穏やかで心地いいものだったのだろう。


「これ以上、ここに居ても仕方ねぇし……帰るか」


 体を翻し、鳥居の下を再びくぐった。

 叶わない願いはどこにでもある。きっと俺にとっては、この喪失感を取り戻すことも、叶わない『願い』なのだろう――。


『――コウ?』


 少女の声がした。

 おさまりかけていた心臓が跳ね上がる。


「…………」


 そんなわけはない。


 最初に祠は一望してある。そこには、参拝客はおろか、神主の姿すらなかった。

 俺以外誰もいないはずなんだ。


 誰も――。


 ゆっくりと振り返る。


『はじめまして、になるのかな?』


 そこには一人の神様がいた。


 さよならは、まだとっておいて、よさそうだ。




 高校生、神様に出会う ――完。

あとがき


最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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